19 突撃!突貫交渉人 その9



殺してやるぞ罪深き悪魔……!





!


恐るべき勢いでふり払われた剣。間違いなく殺すつもりである……!



強烈な殺意。このままではスクラップへの道遠からず。





許可をいただけますか、ファンバルカ様。





だ、だめだ……! それだけは絶対に認められない!





僕らを憎むとは……トリスナの町の関係者か?





軽々しく口に出すな……! 貴様らが!





ヒェーーーーーーー!





トリスナというと、まさか……!


かつて、ハウスの口からも発せられた単語。そう、ファンバルカ達を疑うきっかけとなった町である……



話してくれ……僕とて言い逃れするつもりは……ない。





ただその殺意が、僕の想像するものと同じかどうか。確認したいだけなんだ――





死ぬ前に納得感がほしいか? 贅沢なものだ……





いいだろう。





全てを聞き、己の罪深さを再確認した上で……死ね。





トリスナ。それは俺の生まれ故郷。そして貴様らが滅ぼした……町だ――





・ ・ ・





俺は書面に残っている範囲でしか知らない……具体的には何があったんだ?





「滅ぼした」とは一体……? 多くの死傷者を出したとは聞いているが……





そこの悪魔……やつが、暴れまわり町を破壊したのだ。……その所業、人間の仕業ではあるまい。





記憶にありませんが。





ふざけるな!! あれだけのことを、しておいて、記憶にない、だと……!! この、あく、まッ……!


一度落ち着いたかに見えた殺意は再び膨れ上がり、今にも首を締め上げんが形相だ。



よせ。





“ビエネッタ君”は本当に関わっていない。あの時関わっていた個体は、もう全て機能を停止したはずだ……





関わっていた、個体?





僕は202体のビエネッタ――彼女の人形を作り……そのうち201体は失敗した。





に……ひゃく、……?





当時、僕は己の才能に酔っていた……





何でもできると、思っていた。彼女の再来も。全てに打ち勝つ、力も。





ところがどうだ。おお! 気づけば出来損ないばかり。まるで本物に届かない……!





心を持たすことはおろか、行動をトレースすることもままならない。全てはツギハギ――そこに輝きは何一つない……





ブブブ……





ブブァルカ……ど……





アアア ア ア





――失礼。今のはただの愚痴だ。ともかく僕は、大量のビエネッタもどき、を作り上げてしまった。





それがあの悪魔どもか。なぜ町を破壊した。なぜ人々を傷つけた。





あれを悪魔の所業と言わずなんと言えばいい。まるで、魔界からの侵略だった……!





襲わせるつもりなどなかった……!





君に信じてもらえるとは思えないが……あれは僕の意思ではなかった。今でもはっきりした理由はわからないんだ。彼女らが暴走した理由は……





事故だったって言うのか……?





当時の僕には支援者がいたのだが……彼の情報面、金銭面の援助のお陰で着実に人形作りの実力をつけることができた。





しかしそれでもなお……! 完璧なヒトガタを作り上げるほどの力がなかった……





まあ、事故は起こりうるものだが……





そもそも、人形に破壊的な力を与えるからいけないんだ。なぜそんな馬鹿なことをした!





それは……言いたくない。


明確な、拒絶。



事故だと!? 信じられるものか!





仮にそうだったとして傷つけられた者が納得すると思っているのかッ!





わかっている……





労役を果たした。町の復興活動にも駆り出された。罵声も浴びせられたさ。路地裏に連れ出され意識を失うまで殴り続けられたこともある……





当然の報いだと。耐えに耐え、僕の罪は償なったつもりだが………が……





当事者に納得など行かぬこと……承知している……





それでも、ビエネッタ君はあの件に関わっていないんだ。





彼女は残された最後の個体。傷つけるのはやめてくれ。





俺には悪魔とその人形に違いなどないように見える。





暴走しないと誓えるのか?





グッ……





…………





わたくしのことで揉めているのでしょうか?





ファンバルカ様を守るべき存在のはずが傷つけていては、本末転倒。わたくしはいつでも廃棄処分に





黙りたまえ。





それこそ、何の意味があって、だ――





暴走しないと、誓うことはできない。絶対はない……





だが、彼女の存在はアクヴィの役所の依頼をこなすのに必要だ。それに、僕らは役所から監視されているようなものだ。





勝手なことはできない。……それは、そこのハウス君も保証してくれるものと思うが?





は? 俺か?





……まあ、そうだな。市役所の専属であることは疑いようもない。





俺を保証人に使うとは図々しやつだ……





ここでいたずらに争うこともないだろう……俺に免じて、引いてはくれないか?


保証人。そして交渉人! できる人物である。――が、しかしその提案は……



は? お前が?





お前が、引けと? 俺が、 俺に?





馬 鹿 が


ギリリと強い歯噛み。



できるかこのアホどもが!!





俺はこいつを殺し、悪夢を終わらせる!





ファンバルカ様!





もう十分だ。無力化しろ!


一瞬で接近した後、速度を落とすことなく腹部に強烈なチャージ。男は武器を振り下ろすこともできずに仰向けに転がる!
重量級の突撃を受け、疑いようもなく気絶していた。



ふう。ようやく無力化できたか。骨を折ったりしていないといいが。





俺を、やつの動揺を誘う道具にしたな? やってくれるな。





いや? そこまでのつもりはなかったが。君の忠告に従って、引いてくれればいいと、本気で思っていたよ。





さて……テロリストのようだが、どうするかね? 拘束するかい?





そうだな……


チラリと、倒れた男を一瞥し。



いや……先ほど条件を出した手前もある。今回はいい。放っておこう。





おやおやおや、法を司る人の言葉とも思えんねえ。後で困るんじゃないかい?


自分が関係ないと思うとすぐ煽る!



今回は、いい……他にお荷物もあることだしな。





・ ・ ・





では、行こうか? 司法の場へ。





ヒーーーーーーーーーー!


蚊帳の外でなんとなくぼーっとしていたドネル伯を掴み、引きずっていく。哀れ。悪の栄えた試しなし。



おい、お前たちも俺の一緒に来ないと、市役所の依頼をこなした事にならないぞ。


ハウスに言われ、その後を追いかけるファンバルカとビエネッタ。



やれやれ、今回は大変だったな。お偉いさんの愚痴から始まり、川に飛び込んだり、牢屋に閉じ込められたり。そしてかつての関係者、か。





いやあ盛りだくさん。一大スペクタクルの後はゆっくり休んで紅茶でも飲みたいねえ。





どの場面でも、わくたしの趣向が功を奏しましたね。





趣向? そういうときは「機転」と言うのだよ。趣向では君が仕組んだことになってしまう。


沈黙。



え?





何が「え」です。





え??


怖くて聞けない!



ファンバルカ様。





わたくしはまだ、届きませんか。





…………


その問いは――



ふふ、ふ……人とは……心という場所に狭い狭い置き場しか作れなくてね……





・ ・ ・


返されることもなく――



構いませんよ。





わたくしがファンバルカ様のどこにいようと、それはわたくしの行動に影響を与えませんので。





……それはそれで寂しいものだが。





まあ、仕方のないことなのだろう。さ、行こうか。





やりようは、あるということ。そんな狭い所を目指す必要もなく――


すでに背を向き、歩き出していたファンバルカに、それは聞こえたかどうか。
続く
