第4幕
ホットミルクアフタヌーン
第4幕
ホットミルクアフタヌーン



~~~~!!





幸せそうな顔して食べるなぁ…





おいしいでしょ?





はい、とっても…!
マルシェの近くにこんなお店があったなんて…!!


プレゼント問題を早々に解決した俺たちは、マルシェから少し足を伸ばしたところにあるカフェレストランにいた。とろとろのラクレットチーズがたっぷりかけられた料理は、見た目も味も申し分ない…まあ、それを食べてるのはベルリーナで、俺ではないのだけれど。
俺は焼きたてのバケットをちぎり、オニオングラタンスープに浸しつつ、先ほど買ったアクセサリーをいつ彼女にあげるかを思案していた。このままだと、昼食後にあっさり解散…と言う流れになりかねない…何か考えなくては…!!



……あの、ブリュレさん





うん?なに?





先ほどのお店で…『サヴィ』と呼ばれていましたよね。あれは一体…





ああ…あだ名だよ。あの人とは、結構幼い頃から知り合いなんだ。





そうですか…それで…





俺ももう子どもじゃないんだから、普通に呼んでほしいものだけれどね…いやじゃないから、何も言わないけれど…





サヴィさん…ですか…





どうせなら、ベルリーナには名前で呼んで貰いたーー





しばらくはないですね





即答!?いい加減距離を感じて辛いんだけどなっ!?





距離感は大事ですからね





遠い!!ベルリーナが遠いよ!!


かわされちゃった…今日で何とか名前呼びまでには進展させたいんだけどな…!



……あの…もう一つ、聞いてもいいですか





…なあに?





……ブリュレさんは、本当に私のこと………好きですか?





…………へ…?


そんなこと聞かれるとは思わなかった…!?こんなに「大好き」を表現してるつもりなのに…!



…好きだよ。大好きさ!!当然だろう?





……なら、いいんです…いや、よくない…?
…わからないです…





………どうかしたの?


思ったより深刻そうな声に、少し心配になって訪ね返す…俺、何かしたかな…?



どうかしたってほどのことでもないのですが…





ブリュレさん、アマンドさんのこと、詳しいと思って…プレゼントに関して聞いたときも、「そんな時期だったか」と言っていましたし…





………本当は、アマンドさんのことが好きなのではないのですか?





ベルリーナ…


もしかしてこれは…



ヤキモチかな?





まじめに答えてください!!
もしそうなら、アマンドさんにとても失礼なことをしているのですよ、あなた!!





あはは!心配しないで!!
俺は、アマンドには一切そういう気持ちはないよ。





……じゃあ、どうしてあんなに…





話してなかったっけ?俺と彼女は、幼なじみなんだ。





……幼なじみ…!?


話してなかったか…アマンドからとっくに聞いているもんだと思ってた…



アマンドは、花屋さんの生まれなんだ。俺の家がある通りから、三本先の通りにあるお店でね…同い年なのもあって、つきあいは結構長いよ。





なるほど…それで、誕生日も知っていたのですね…





安心した?





意味がわかりません





…ブリュレさんは、アマンドさんに何をプレゼントする気ですか?





うーん…俺は今年もお菓子かな…そろそろリクエスト聞いておかなきゃ





作るのですか?





ああ。大体のものは作れるよ





そうなんですか…





ベルリーナも、食べたいものがあったら言って!なんでも作るよ♪





思いついたら…お言葉に甘えさせて貰いますね


その後もしばらく談笑し、俺たちは店を出た。うーん…どうしよう…このままサヨナラは悲しいしなぁ…まだネックレスも渡せてないし…



何か…何かないかな…!





それでは、今日はこれで…





ま、待ってベルリーナ!!





送ってくよ!結構奥の方まで来ちゃったし、道わからないでしょ?





……それもそうですね…お願いできますか?ちょっと心配なので…





もちろん!!


何とかつなげた…!なるべくゆっくり、ちょっと遠回りしていこうかな。今日半日で結構仲良くなれた気がする…これは、名前呼びになる日も近いのでは…!?
マルシェの方向に戻り、なるべくゆっくり歩く…会話は相変わらず少なめだけれど、二人で過ごせているというのがすごく嬉しくて…とても幸せだった。



うん…?





雨!?





ウソ!?聞いてないよ!!





雨宿りできる場所は…!?





…そうだ。
ベルリーナ、こっち!!


俺はベルリーナの手を引き、人がまばらになったマルシェを走る…この場所だと…!



いらっしゃいませ…





って、サヴァラン!?





うわ…結構濡れちゃったな…ただいま母さん





こ、こんにちは…?





あらあら…そんなに濡れちゃって…今タオルを用意するから、ちょっと待っててね





……ここって…





俺んち。近かったからね。





……綺麗なキャンディが一杯ですね





こんな時じゃなきゃ、ゆっくり見ていって貰いたかったんだけどね…今は早く拭かなきゃ





そうですね…くしゅん…!





入り口付近は冷えるね…付いてきて!


ベルリーナをリビングに案内し、母さんが用意してくれたタオルで暖を取った。少し顔色が青白くなっていたが、うっすらと赤みを取り戻してきていた。



着替え、私のお古で良ければ使ってちょうだい。シャワーも浴びていくと良いわ





はい…ありがとうございます





ありがとう、母さん





後でお話聞かせてちょうだいね♪





まだそんなんじゃないよ!!


母さんは満足げに笑いながら、部屋を後にした。
とりあえず…着替えようかな。



シャワー、浴びるよね?案内するよ





先いってください。あなたも浴びるでしょう?





俺は後でいいよ。レディに風邪を引かせるなんて、紳士としてやっちゃいけないことだからね





……そうですか…なら、お言葉に甘えて…


ベルリーナをシャワールームに案内し、俺は一度自室に戻った。
まさか家にベルリーナを連れてこられるなんて…!ずぶ濡れになったとはいえ、ものすごい幸運だ…!!



せっかくだし、夕ご飯でも振る舞ってあげようかな♪
ベルリーナの好きなものはーー


幸運すぎて怖いくらいだった。だから、ちょっとは警戒すべきだったのかもしれない…まさか…
この日が、俺の高校生活において最悪の日になるなんて、
考えてもみなかった。
