第2幕
欺け、U美術館!!
前編
第2幕
欺け、U美術館!!
前編
ーー午後3時・U美術館正門前



……時間だ





…………





…………





……動きはないみたいだな





まだ…誰からも報告が来てませんから…まだ…





やつが現れたら警報を鳴らすことにしているんだ。それが鳴ってないということはつまり…そういう事だ





そんな…!





キャラメリゼは今まで予告時刻に1分だって遅れたことは無かった…早かったことはあったがな





………





つまり……もうここに、怪盗キャラメリゼはやって来ない。なぜなら…





ここにいるからな





っ……そん、な……





違う…俺は、俺は怪盗なんかじゃ…!!





話しならゆっくり聞こう…共犯者がいるという線も上がっているからな。





なに、自白の強要はしないさ。ただ、俺達は確信を持って問いただすがな





嘘だ……嘘だ…!!





……サヴァラン=ブリュレ…お前を、強盗及び名誉毀損の容疑で逮捕ーー





!





警報…!どういう事だ!?





シュトーレン刑事!!大変です!!





なんだ、何が起きた!?





絵が…ヴァシヌスの絵画が…





盗まれました!!





何だと!?





予告時刻が過ぎて、中の警備から何もアクションが来なかったので…覗いて見たら…絵だけが忽然と姿を消していたのです…!!





チッ……!





お前は容疑者を見張れ!…ブリュレ…パトカーから出るなよ!分かったな!!





は、はい…!!





………





あとは、回収されるのを待つだけ…か





………上手くやったようですね…怪盗キャラメリゼ?


ーー時間は、昨晩の入浴時まで遡るーー



……行ったようですね





みたいだな


市警官の気配が完全に消えたのを確認し、ファウストは少し真剣な表情で話し始めた。



いいですか、サヴァランくん。時間がありませんので、一度で理解してください





僕ーーファウストは、明日あるカフェで養子と会う約束をしています。その後は……そうですね。適当にP都を闊歩するとしましょう。そうして1日楽しんで、夜の8時頃に帰宅します…わかりましたね?





分かった。つまり…





俺は明日、お前の養子とカフェで合流して、適当に時間を潰してからU美術館に向かえばいいんだな?


俺が確認すると、ファウストは嬉しそうに二度頷き、ニッコリと笑った。



そういう事です♪いや、物分りが良くて助かります…養子に来ませんか?





それはないな





おや、そうですか?残念です





カフェの詳細は僕の財布にメモを入れてあります。それを頼りになんとか合流してください。でないと、今回の犯行は失敗です





了解…何とかする。





ところで、お前はどうするんだ?





どうって…サヴァランくんは明日、予告時刻にU美術館に連れていってもらうのですよ………ね?


にこにこと俺を見つめてくるファウスト……つまりそれは……



…………攫えと?





ピンポン!流石に一日サヴァランくんに変装するのは骨が折れます…息子たちに会いたいのも事実ですし♪





………善処するよ





してください♪





じゃ、ぼちぼち出ますかね…





あとは手はず通りに





ええ…ふふっ、市警さんたちが慌てふためく姿…楽しみですねぇ♪


そうして俺達は脱衣所に上がり、着替えの下に忍ばせたウィッグを付け、互いの服を交換し…互いに成りすましたのだ。それは、俺とファウストの背丈がさほど変わらないということを利用した簡単なトリック…市警官の目も、変装経験が無い俺ではなく、どういう訳か変装が上手いファウストの方に向く…なぜなら、疑われているのは『ファウスト』ではなく『サヴァラン』だから…こうして俺は、つい先程あっさりとゲーテ家から脱出を果たしたのであった。



来たな、ファントム


指定されたカフェへ向かうと、そこには俺より少し年上位の青年が2人待っていた。この人たちが、ファウストが言っていた養子か…?



あなたたちが…?





うん。ファウスト=ゲーテの息子だよ





僕はサクラ。で、こっちが…





シオだ!なあ、パトロンは元気か?





元気ですよ…ところで…





ああ、話は聞いてるよ。ただ、僕達も初めてのことだから…整理の意味も込めて、ちょっとお茶して行かない?





どちらにせよ時間までまだあるからな…付き合えよ、ファントム!





あの…ファントムってやめてくれません?俺は……ああ、そっか…





うーん…今はパトロンって呼ぶのがいいかもね。シオ、いい?





分かった!俺キャラメルマキアート!!





聞いちゃないな…ごめんね、パトロン。すぐ落ち着けて切り上げるから……あ、すみません、僕もキャラメルマキアートで





いや…彼が言ったとおり時間はありますし……あ、おーー僕もキャラメルマキアートで


しばらく他愛のない話で時間を潰し、小一時間ほどでカフェを後にした。その後すぐ側の駐車エリアに止められていたディーゼル車で拠点へ向かい、俺はそこで身支度を整えた。



ーーで、あなた達はどこまで知っているんです?





車ん中で話した通りだ





君がパトロンから依頼を受けていること、市警に正体が割れかかっていること…それから、これからやることについて





これから?





手伝ってやるよ。今回は、現場でパトロンも回収してこなきゃなんねえだろ?ターゲットを盗む前に、他のやつに見つかったら何かと面倒だからな


先日盗んだ純金のダーツを弄びながら、シオは少し面倒くさそうに言った。それに対し、サクラは柔和な笑を浮かべて俺の肩をぽんと叩く。



大丈夫、パトロン程じゃないけど、僕らも役に立ってみせるよ





変装に関しては俺の方が足引っ張るかもですね





大丈夫大丈夫!君はただターゲットを盗めばいい…逃走経路の方は調べ済みだから、安心して犯行に及んでよ!





絵だっけ?今回のって





はい…『ヴァシヌスの絵画』…それが今回のターゲットです


ヴァシヌスの絵画ーー製作年、製作者共に不明の謎の絵画…長年白馬の絵だと言われてきたそれは、近年になって白いロバを描いたものだと訂正され、『白(ヴァイス)』と『ロバ(アシヌス)』の二つを結合させた造語『ヴァシヌス』の絵画と呼ばれるようになった。
全ての制作過程、情報が不明というミステリアスな逸話…そして、広い野原にただ一頭だけ描かれたロバに、所謂『空間の美』を見いだせるなどとされ、美術品コレクターからの人気も高い絵画だ。



でも…大衆に知られてないにもほともがあんだろ、その絵画





ヴァシヌスの絵画の歴史はまだ浅いらしいんだ。世間に絵のことが出回り始めたのも、パトロンの家から売りに出されてからなんだって





ふーん?ま、興味ねえからいいや





売りに出された…?


ちょっと引っかかるような…うーん…?



さて、怪盗キャラメリゼくん。準備はいいかな?





はい、大丈夫です





それじゃ…





On y va!





On y va!





On y va!


画して俺は、緊急の用人2人の手を借り、無事U美術館に忍び込んだのである。
ーーまあ、本番はそこからだけど…今回も上手くやってみせるさ。ここまでやってもらって、失敗する方が恥ずかしいだろう?今回は、最後まで油断しないようにしなきゃ…。



ベルリーナと普通に話すためにも…今回は…


失敗は…許されない…!
