第2幕
C'est l'heure du
spectacle!
第2幕
C'est l'heure du
spectacle!
監視生活が始まって、10日が経った。相変わらず、怪盗キャラメリゼからの音沙汰はない。でも、俺は焦ってはいなかった。ファウスト曰く、こういう時に行動をおこすなら、ギリギリまで引っ張った方がいいとのことだ。それに、予定通りなら……。



サヴァランくんサヴァランくん





なんですか?





今日、一緒にお風呂に入りませんか?ここ最近、ずーっと市警さんに監視されっぱなしで疲れているでしょうし…


ほら来た



え……でも…





そのくらい許してくれるでしょう?ねえ、市警さん?


ファウストがニッコリ笑って聞くと、市警官は問題なく頷いた。



ええ、そのくらいなら構いません…浴場までご一緒しますが、宜しいですか?





よろしくないです


比較的柔らかめの表情で承諾した市警官の顔が、一瞬凍りついた。



すみませんね。僕、心を許した人以外に裸を見られたくないんです





そ、それなら…申し訳ございませんが、承諾しかねます。彼は…





危険だと?





大丈夫ですよ。彼は怪盗キャラメリゼなんかじゃないですから





ですが…





むう…市警官は頭が固いですねぇ…





しょうがないです。脱衣所で待機してもらう形でよろしいですか?





……そこまで言うなら…それで妥協しましょう





やりましたね♪さあ、行きましょう。サヴァランくん!


ルンルン気分を装ったファウストに連れられ、俺は浴場へと向かった。脱衣場には市警官が待機している…だから、堂々と話はできないが……



さて…サヴァランくん。最近調子は?





最悪です





あはは、でしょうね!





しかし、災難ですね…あの怪盗キャラメリゼだなんて言われるとは…





……俺…





大丈夫ですよ。僕は君を信じています…君は、怪盗なんかじゃない…そうでしょう?





ファウストさん…ありがとうございます


……なんて会話を、脱衣場を気にしながら垂れ流し、その時を待つ。
遅いですねぇ…と、ファウストが呟いた…その時だ。



おい!ちょっと…!





なんだ?





緊急ミーティング!予告状が届いたんだ!!





なんだって!?


よしよし、上手く回ってるみたいだ。市警官は脱衣場から駆け出していき、人の気配は脱衣場から完全に消えた…



ーーじゃ、ぼちぼち出ますかね…





あとは手はず通りに





ええ…ふふっ、市警さんたちが慌てふためく姿…楽しみですねぇ♪


俺達は脱衣所で着替え、何事も無かったかのように玄関ホールへ出た。集まっていた市警官たちの目が、一斉に俺達の方へ向く…。



何かあったのですか?





……怪盗キャラメリゼから、予告状が届いた…





おや…それは大変ですね





刑事のその感じだと…『あまりにも見当違いな勘違いをしていて笑いが止まりません』みたいなニュアンスの文句でも書かれていたようですね?





ええ…まぁ…





ほらやっぱり!サヴァランくんは怪盗キャラメリゼなんかじゃ無かったでしょう?





……いや、まだ確信はできない





怪盗キャラメリゼが犯行現場に現れるまでは、そのまま監視させてもらうぞ





そうですか…ところで、犯行日時はいつなのです?





……明日の午後3時…U美術館だ





おや、お早い犯行で…サヴァランくん、それまでの辛抱ですよ!!





……はい





ですが…明日、ですか…





何か?





いえ…本当なら最後までそばにいて、出来ることなら犯行現場までご一緒したいのですが…明日はどうしても外せない予定がありまして…





予定?





ええ、息子達に会いに





息子?…離れて暮らしているのか?





養子なんです。2人とも寮生でして…なかなか会えないのです





……そうか





ファウストさん、じゃあ…





すみませんね、明日は一日留守にしてしまいます


ファウストは自信なさげな顔をして、そのまま俯いてしまった。ファウストと離れるのは少し不安があるが…まあ、そうしなきゃ完遂できない依頼だからな。仕方がない。



…あの、俺だけでも、犯行現場に連れていってくれませんか?





………





信用出来ないのは、分かってます…でも…こんな目に合った原因の『怪盗キャラメリゼ』を、この目で見てみたいんです…





お願いします…





……わかった。終始パトカーの中にいてもらうことになるが、いいな





はい…!


さて、狙い通り…
その後は今までと変わりなく、俺は監視されたまま眠りについた……
ーーさて、こんなに楽しくない生活は今日で終いだ。明日を乗り切れば、それでーー。



それでは、行ってきますね





行ってらっしゃい、ファウストさん





………





……シュトーレン刑事、ちょっといいですか





なんだ?





ほかの市警官はもう現場に向かったそうですが…刑事は行かなくて大丈夫なのですか?





ああ。君に容疑がかけられている以上、君から離れるわけには行かないからな





俺も一緒に現場に向かうのに…厳重ですね





君が本当に怪盗キャラメリゼなら…どのスキをついて逃げ出すか分からないからな





逃げませんよ。そんなことしたら、俺が本当に怪盗キャラメリゼになってしまいますから…





俺は、最後まで抗います。刑事…怪盗キャラメリゼは、必ず現れますよ





…………





刑事が、俺のことをずっと疑っている理由…もしかして、写真や夜の目撃証言があるからですか?





……いくら写真が合成でも、人の目は誤魔化せないからな





………写真は合成でははありません





なんだと?





今の技術じゃ、あんなに鮮明な合成写真は作れないでしょう。あれは、本物の写真でした…





なら…





でもやっぱり、あの写真に写っているのは俺ではありません





……見解を聞こうか





ありがとうございます…あれは、正真正銘『怪盗キャラメリゼ』です。それは、あの写真に写っていた腕輪が証明しています





ああ。あの腕輪はフェイクでも別物でもない。紛れもなく、ファラリスの腕輪だ





……刑事、怪盗の得意技能ってなんだと思いますか?





怪盗の得意技能…?





ええ。かの有名なアルセーヌ・ルパンも、この技能を生かして、何度も人の目を欺いたと言います





人の目を欺く…技能……





……変装…!?





ええ。あの写真に写っていたのは、俺に変装した怪盗キャラメリゼだったんですよ





……しかし、なぜ君を?他にも対象は五万といただろうに…





あの写真…多分、マルシェから五、六分歩いたところにある繁華街の辺りではないですか?





怪盗キャラメリゼはどこかで…確率が高いのは、俺の家…キャンディショップ『Sweetear』でしょうね。そこで俺と接触していて、撮影場所からほど近い場所に住む俺に変装して逃げたのではないでしょうか?





見知った人に見つかっても、怪しく思われないように…





……それなら…目撃証言はどうなる?君を実際に見た人物がいる…その人物が、君を陥れようとしているとでも?





…………





…………





……覚悟、したんだ…話します。





でも…お願いがあります、刑事





なんだ?





これから話すこと、誰にも言わないでもらえますか?これは…両親も知らないことです





………わかった。約束しよう





俺はーー





………そうなのか…まさか、そんな人物が本当に…





ええ…俺も、まさか自分がかかるなんて思ってませんでした…





約束、守ってくださいね…俺、刑事のこと信じてますから…





ああ…必ず…


ーーそして、午後3時ちょっと前……



今回の獲物は絵画か…全く、大きなものは持ち運びが大変なんだけどなぁ…


怪盗キャラメリゼは、予告通りU美術館へ足を踏み入れていたーー



C'est l'heure du spectacle!


