第2幕
監視の弊害
第2幕
監視の弊害



ブリュレさん





うわっ!?





な…なんだ、リーナか…驚かさないでよ





……次の時間、体育ですよ。着替えてきた方がいいのでは?





あっ…忘れてた





ありがとう、リーナ





あの





うん?





……





放課後、屋上へ





!!





わかった!!


予告状を書いていたら思わず時間を忘れてしまったよ…話しかけてきたのがベルリーナで良かった…それにしても、ベルリーナから誘ってくるなんて…何かあったのかな?
書きかけの予告状を制服の胸ポケットにしまい、俺は慎重に席を立つ……なるべく窓から遠い位置に陣取ったが、いつどこで市警官に見張られているかわからない…ああもう、こんなの気にしながら生活するなんて性にあわない!!



サヴァランパス!!





えっ…うわ!?





うお!?おいおい大丈夫かよ!?





だ、大丈夫…はは…


お陰で授業にも集中出来ないし…!何よりベルリーナと一緒に帰れないのがすごく辛い!!今まで空き時間でやってたことをすべて学校でやっているから、話せる時間も極端に減っちゃったし…



放課後、屋上へ





……ふふっ…


彼女にどんな意図があるのかはわからない。でも…話しかけてくれたこと、彼女から誘ってくれたことがこんなにも嬉しい…ああ、楽しみだなぁ…どんな内容だって、ベルリーナと話せるならきっと素晴らしい時間になるに違いなーー



サヴァラン危ねぇ!!





へぶっ!?


ああ…もう最悪だ!!



散々だったようですね、先ほどの体育


放課後、俺はしっかり身なりを整えて、ついさっき風呂から出たかのようなコンディションで屋上に来ていた。俺がついた時には既にベルリーナがいて……風になびく黒髪が、とても美しかった。



み、見てたんだ…





隣のコートでやってれば、嫌でも目に入りますからね…あのサヴァランが、今日は何だか調子が悪いって





あはは…恥ずかしいところを見せちゃったね





まあ…そんなことはどうでもいいのです





そんなこと…





最近、静かですよね





静か?





……あまり、話しかけてきませんよね





え…


……おや、これはまさか…?



休み時間中も熱心にノートとにらめっこしてますし、先ほども何かを書いていたようで…





ベルリーナ





はい?





もしかして……





寂しかっ





帰りますね





待って!!漸くやって来た俺の癒しの時間!!!





はぁ………漸く、とは





え…?あ、ああ…その……


……ベルリーナは頭がいいから、多分『何が起きたんだな』くらいは察してるんだろう…でも、正直こんな恥ずかしいこと言えない。まさか、あんなに自信満々で堂々と犯行を重ねていたのに、まさかこんな所で正体がバレたなんてーー



……最近、市警の人間が学校の周りを張っていますね





市警…?さあ、何かあったんだろうね





最近、あなたは必要以上にこそこそしてますよね。本当は、こうして屋上で話すということも、したくないのでは?





まさか!そんな訳ないだろう!?





君と話せるなら俺は……





落ち着きがないんですよ。あなたの目が





目……?





いつもなら、自信に満ちた目であなたは私に自慢話をしてきます…まるで、武勇伝のように





ですが最近は、どこか自信がなさげ…心ここに在らずといった状態じゃないですか。





そ、そう…?


そんなに挙動不審だったのか…?全然自覚なかった…。



ええ…何かあったのですか?いつもなら、なんでも話してくるあなたが…らしくもないです





…………





ダメだなぁ…君には隠し事が出来ないようだ


多分…つっけんどんな言い方だけど、心配してくれているんだろうな…やっぱり、君はとっても優しい子だ。その心は、まだこちらには向いてくれていないけれど……。
正体がバレてしまった経緯を話すと、ベルリーナは驚いたような表情で、戸惑いがちに俺を見つめた。



それ…大丈夫なんですか…?





大丈夫じゃないけど…大丈夫にする





でも、監視の目が常についているのでしょう?どうやって怪盗なんて…





考えがあるんだ。市警の目の前から『サヴァラン』を消さずに、『怪盗キャラメリゼ』を市警の前に出す…そうすれば…





そんなこと、あなた1人でどうしようと言うのです?





いや?今は2人だよ





え…?2人…?


……ああ、そっか。ベルリーナにはまだ、俺が依頼を受け始めたことを言ってなかった。説明しなきゃな…でも…



……協力者を得ることが出来てね。まあ、それに関してはまた今度説明するよ





今してはくれないのですか?





ああ…時間切れみたいだ


不服そうにするベルリーナに、校門の方を目線で示す…そこには、市警局から派遣された私服の男が2人、屋上に居る俺のことをじっと睨みつけていた。『早く帰れ』と挑発でもしているのだろう。



あれは…じゃあ、以前の視線も…?





多分…それにしては敵意が薄い気がしたけれど……まあ、今はいいや





それじゃ、またーー


俺は屋上の鉄扉に手をかけ、そのまま戸を開こうとした…が、その前に。



……ベルリーナ、ちょっとごめんね





へ…?


俺はベルリーナを優しく抱きしめた。単にここで話して帰るだけじゃ、仲間と勘違いされてしまう可能性もある…それで、彼女に迷惑がかかるのはなんとしても避けたい…せめてここは、恋人の振りでもしておけば…!



!?





Salut、ベルリーナ。また明日


何故か固まってしまったベルリーナを屋上に残し、俺はエントランスへ向かった。



………さ……





サヴァランさんの……ばか……!!


