できれば日が沈む前に村にたどり着きたい、というアルマの要望により、俺たちは早々に水源から発った。日が沈んでしまうと、昼間より凶暴なモンスターがわんさか出てくるそうだ。そんなことになったら・・・考えるだけで恐ろしい・・・。
できれば日が沈む前に村にたどり着きたい、というアルマの要望により、俺たちは早々に水源から発った。日が沈んでしまうと、昼間より凶暴なモンスターがわんさか出てくるそうだ。そんなことになったら・・・考えるだけで恐ろしい・・・。



ねえ、アルマ?





うん、なあに?





天族って、イマガイの住人との交流をあまり好まないって聞いてるんだけど・・・あんたはどうなの?





僕はそうでもないよ。
むしろ、世界が広がる気がして好き!!





そうなんだ!天族みんなが、イマガイの住人が苦手って訳じゃないのね!





うん・・・昔良く一緒に遊んでた子がいたはずなんだけど・・・良く覚えてなくて・・・





でも多分、その子のおかげかな?
後は、魔族の友達がいて、その子も!





この世界の種族って幅広いんだな・・・妖精に天族に魔族って・・・





いまさらだね、アルト。
君イマガイにすんでるんだよね?


そういえば、アルマにはまだスコアホルダーについて話してなかったな・・・俺が旅の目的を話すと、彼は目を輝かせて俺を見た。



すごい・・・!イマガイでも、クラヌスでもない世界があるなんて・・・!





ねえ、アルトの世界の話、もっと聞かせてよ!!





あ、それあたしも聞きたい!!
ねえ、どうなのよ??





お、おう・・・面白いもんでもないぞ?


と言っても、俺が知ってる「世界」というと六角諸島しかない。面白みがあるところと言ったら・・・やっぱり中央島だろう。二人に島の様子を話してやると、中でも「ビル街」がやたら気になったらしく、何度も聞いてきた。
ビル自体がこの世界には存在しないらしい。



すごいわ・・・!こんくりーとジャングル・・・見てみたい!!





うん!!真四角の細長い建物!!
中はいったいどんなダンジョンになってるんだろう・・・?





だ、ダンジョンにはなってないと思うぞ・・・?





東京駅はRPGのラスダン以上に迷うってのは聞いたことあるけど・・・





きっと一番上の階にはお宝があって・・・





一生遊んで暮らせるだけの金塊が・・・!


ああ・・・二人の中でどんどんオフィスビルが大変なことに・・・!!
「さすがにそれはない」と否定しようとした、そのときだった。



っ!!二人とも前に跳んで!!





へ?





ふえ?


状況把握をする前に体が前に押し出される・・・と言うか、浮いてる!?



うわ!?じ、地面が・・・!!





うわわわわ!!アルト早く早く!!





う、うん!!





ーーーーーーーーーー!!!!





ううわっ!?気持ち悪い!!





いやあああ!!!あたしこういうにゅるにゅるしたのだめなのにいいいい!!





二人とも離れて!!


アルマが隠し持っていたボウガンを取り出し、高く跳ぶ・・・!!



一発で仕留める・・・!!


勢いが死なないうちに、下向きにボウガンを構え--!!



ごめんよ・・・





死んでくれ


矢を放った・・・!



ーーーーーーーーーーーー!!!!!!


頭を貫かれたモンスターは、血を吹き出しながら地面に伏した・・・。



ふう・・・





二人とも、大丈夫だった?





え・・・ええ・・・





う、うん・・・大丈夫・・・





良かった!それじゃ、進もう!
もう少しで森を出られるよ!!


い、今のは・・・見なかったことにしておこう・・・



あ、アルト・・・





アルマを怒らせる、ダメ、絶対。OK?





お、OK・・・


これが後に俺たちのパーティーの暗黙の了解になるのだが、それは別のお話・・・。
歩き続けて結構な時間がたった。
疲れが出始め、言葉数も少なくなっていた頃、ルナが歓喜の声を上げた。



あーっ!!あ、あれ!!出口じゃないの!?そうよね!出口よね!?





ほんとだ!!ああ、長かった・・・!





二人ともお疲れ様!
なんとか日が沈む前に出ることができて良かったよ・・・。





村までは10分もせずにつけるはずだから、森を出たらゆっくり行こうか。





そうだな・・・結構なペースで歩きっぱなしだったし、ちょっと休憩したいかも・・・





えー!10分でつけるんだったら、早く先に進んじゃいましょうよ!お風呂入りたいし!!





ルナは途中途中で俺の肩で休んでたから疲れてないんだろう?





なによー!飛ぶのだって疲れるんだからね!いいじゃない減るもんじゃないし!





もう・・・しょうがないな・・・





ふふふ、本当に仲良しだね、二人とも。





そりゃどうもー


森の出口にさしかかり、太陽の明るい日差しが目を突く・・・ああ、日の光ってこんなにまぶしかったのか!!なんて、感動していたときだったーー。



捕縛魔法・ハングドマン!!





うわっ!?





アルマ!?


背後から声がし、アルマの足に何かが巻き付く・・・!
そのまま彼は逆さづりにされてしまった!!



ようやく捕まえたぞ・・・アンデッドめ!!





やれやれようやくかよ・・・手間かけさせやがって・・・





神よ・・・聖なるお導き、感謝いたします・・・アリーム・・・。


奥の方から三人の天族が歩いてくる・・・もしかして、アルマを追ってたって言う奴らか!?どうしてここに・・・!!



うあーー!!はーなーせー!!





観念しろアンデッドめ!
人間の村に逃げ込もうとしたらしいが、それが仇になったな・・・!





無関係の生物を人質に取ろうなど、許されざる蛮行・・・そう、神はおっしゃっている・・・。





まあ正直、イマガイの蛇どもがどうなろうが知ったこっちゃねえけどな。





ちょっとあんたたち!!いったいどういうつもりなの!?


ルナが聞くと、一人の天族が今気づいたような風で答える。



おやおや、もう既に人質になった間抜けがいたか・・・





安心したまえ、こいつは私たちがしっかり処分しておく。さあ、村へお帰り。





俺たちは人質なんかじゃない!!
アルマをはなせ!!





そうよ!その子が何をしたって言うのよ!!





何言ってんだこいつら・・・





情報が伝達されていないのではないでしょうか?おかわいそうに・・・。





どうやらそのようだね・・・
言いかい君たち。こいつはーー。





アンデッドだって言いたいんでしょう?
あんたたち、本当にその子がアンデッドに見えるわけ?だったら今すぐお医者さんにかかった方がいいわ。


ルナが言うと、赤い帽子の天族はぴくりと眉を痙攣させた・・・が、冷静を装ってため息を吐く。



・・・そう思われても仕方ないかもしれない・・・でも、これは事実だ。





私もこんなに綺麗な状態のアンデッドを見たのは初めてだからな・・・最初は疑ったさ。
だが・・・





僕はアンデッドじゃない!!僕はまだ生きている!!





うるせえぞ腐乱死体が!
・・・おおかたお前らもだまされたんじゃねえのか?こいつの口車に、いいように嵌まってさ!!





っ・・・!!





えっ・・・





そ、そんなこと・・・


考えてもいなかった・・・よくよく考えたら、その可能性も十分にあった。
でも・・・



ほらやっぱり。自信ないんじゃんか!
はっ、これだからイマガイの蛇は!!





信じることはいいことです・・・ですが、疑わなくてはいけないこともあります・・・悲しむことはありません、あなたたちは何も悪くありません・・・





そんな・・・嘘なんてついてない!!僕は二人を騙そうとなんてしてないよ!!





ふふ、口では何とでも言えるさ・・・自分から嘘をついているなんて言う馬鹿はいないだろう?





う・・・で、でも・・・アルト!!





・・・・・・・そうだな。確かにお前の言うとおりだ。





アルト!?





アルト・・・そんな・・・





ふふふ・・・わかってもらえてうれしいよ。
それじゃあ、私たちはこれでーー。





だからこそ、それはないな。





なっ・・・!?


俺は腰に差していたナイフに手をかけ、天族たちをにらみつけた。



自分にとって不利になる情報を口にしないのであれば・・・彼はわざわざ「アンデッドだと疑われている」なんて口にするはずがない。
もし彼が本当にアンデッドなら、そんなこと言わずに助けを求めてくるはずだ・・・それに・・・





アルマは、二度も俺たちを助けてくれた・・・そんな優しい子が、他人を傷つけるモンスターのはずがない!!





っ・・・こいつら・・・!





その優しさすらも、まやかしかもしれないのだぞ?





たとえそうだったとしても・・・俺はアルマを信じる。





アルト・・・!





そう、アルトの言う通りよ!!
ろくに事情も話さず急にあたしたちの邪魔をしてくるあんたたちより、勘違いでも謝ってくれたアルマの方がよっぽどいい子だわ!!





アルト、ルナ・・・!


赤帽子の天族が舌打ちをする。
・・・それに、俺たちは約束したんだ。絶対にアルマを逃がすって・・・!!



お人好しもここまで来ると迷惑だな・・・斬るか?





争いごとは好みません・・・ですが、この人たちには魔がとりついてしまっている可能性が出てきました・・・浄化すべきだと、神はおっしゃっている・・・!





・・・仕方がない・・・が、このまま立ち去るのも癪だ。





私たちの邪魔をしたこと・・・後悔するがいい!!


三つ編みの天族が大剣を抜き、俺たちに迫ってくる・・・!
いきなり斬りかかってくるとは思わなかった俺たちは、慌てて左右へ避ける!!



うわあっ!?





いきなりなんて狡い!!





狩りに狡いも賢いもねえだろ!!
ほら、さっきまでの威勢はどうした!!





狩りって・・・!!


間を置かず方向転換をして迫ってくる天族に、俺はとっさの判断を迫られる・・・後ろはダメだ・・・すぐ左にはよけられるスペースがあるが、それじゃさっきと変わらない。右は・・・?右には一瞬身を隠すには最適な木がある・・・その後ろに回り込み、攻撃を避ければ・・・!!



右ッ!!


しかし・・・



その動き、読めました。





神の光よ、敵対すべき者を捕らえよ・・・!!





っ!!


避けた先に金色に光る魔方陣が現れ、俺はなすすべなくそこに着地してしまう・・・途端、体から力が抜けて動けなくなってしまった・・・!



アルト!!





他人よりも・・・てめえの心配をしやがれっ!!





きゃあッ!!





ルナ・・・ッ!!


大剣にはじき飛ばされたルナが俺の胸元に衝突する・・・相当な勢いだったらしく、ルナは目を回して気絶してしまった・・・!!



さあて、後はお前だけだぜ?





これが、神に逆らった者の末路です・・・おお神よ、死後、このものにも慈悲を・・・!!





ふふふ・・・君たち、良くやってくれた・・・


俺たちじゃ、全然敵わなかった・・・このままじゃ、アルマも俺たちも・・・!!



達者だったのは口だけだったようだな・・・だが安心しろ。





比較的楽に逝かせてやるよ・・・!!


赤帽子の天族が、魔法の詠唱を始める・・・ああ、短い旅だった・・・せめて圭・・・最後にお前と話がしたかった・・・



・・・・・・あのさあ


ああ・・・ごめんアルマ・・・お前を逃がすって、約束したのに・・・できなかった・・・できれば恨まないでほしい・・・・・・・ん?どうして、アルマが正位置に戻ってるんだ?アルマは今・・・逆さまのはずなのに・・・。



なっ・・・お前!!





・・・!どうして!!





しまっ・・・!!





本物の敵に背中向けちゃうなんて・・・





君たち、緊張感が足りないね?


捕縛魔法が解けてる・・・!?
アルマは何も持たずにボウガンを撃つ構えをとり、狙いを定める・・・そして・・・!



もっと、精進したまえ・・・なんて、ね?





秘技・ファントムショット・・・!!


引き金が引かれる動き・・・その一瞬後ーー



がッ・・・!!





ぅあっ・・・!!





ぐっ・・・!!


天族たちは、一斉に地面に倒れた・・・
魔方陣が消え、俺は気だるさから解放される。



な、にが・・・?





アルト、ルナ!!


アルマが駆け寄ってきて、俺に手をさしのべる・・・先ほどのことなど、何もなかったかのように・・・。



大丈夫?けがはない?ああ、でもルナが・・・!どうしよう・・・治癒魔法は得意じゃないのに!!





ま、待ってアルマ。俺は大丈夫・・・ルナは・・・けがはしてないみたいだ。少し眠れば目を覚ますと思う・・・





ほんと?よかった・・・





あ、あの・・・それよりさっきのは・・・





さっきの・・・?ああ、ファントムショットのこと?





大丈夫、あれはターゲットを殺さない・・・いわば麻酔銃みたいな技なんだ!
魔力を使って透明な矢を作って、相手の中枢神経に直接打ち込む技!!





体内体外も傷つかないけど・・・





中枢神経を刺激されることによって半端ない激痛が走って、相手は失神するって言う、僕の得意技だよ!


・・・・・・・・・・。



・・・と言うわけで、いつこいつらが目を覚ますかわからないから・・・すぐにここを離れよう・・・!





あ、ああ・・・そうだな・・・ルナも早く休ませてやりたいし・・・





うん!・・・それじゃ、行こうか!


俺はアルマに恐怖のような敬意のような何かを感じながら、森を後にしたーー。



・・・・・・ラムゴの・・・亡霊、め・・・


ーーアルバス村・宿屋の一室



えー!!そんなことがあったの!?


幸いすぐに目が覚めたルナに、俺たちは事の顛末を話していた。結局、アルマがアンデッドと呼ばれていた原因はわからなかったが、逃げられたのでよしとしよう。



うん・・・だから、またアルマに助けられちゃったんだよな・・・





そんなこと・・・!





君たちがいなければ、僕はあいつらから逃げられなかったよ。だから、むしろ助けられたのは僕の方だ。





アルト、ルナ・・・僕を信じてくれて、ありがとう・・・!





えへへ・・・!なんか、やっぱり照れちゃうわね、こういうのって・・・!


こう言われると・・・やっぱり信じて良かったな。俺も頬を掻きながらルナに同意する。



そういえば・・・宿代も持ってくれたって話だけど、本当にいいの?





うん!アルトからも何度も聞かれたけど、手持ちに余裕もあったし・・・素泊まりだけど・・・





素泊まりでも十分だよ!
しばらくは野宿覚悟してたから・・・





うそ!?そうだったの!?


妖精の森を出るまえに、フロウさんからいくらか支援金としてお金をもらったが、それも決して多くはない。無駄遣いするわけにもかないので、宿泊は極力避けようと思っていたのだ。



しょうがないだろう、手持ちも限られてるんだし、道中拾った物が売れたとしても、そんなにお金にはならないし・・・





うえー・・・じゃあ、これでしばらくは宿泊はなしかぁ・・・





あ、あの・・・そのこととも関係するんだけれど・・・


アルマがおずおずと口を開く。



正直、さっきの戦いを見ていて・・・ちょっと危なっかしすぎるなって思ったんだ・・・





や、やっぱり・・・?





戦闘経験がないからなぁ・・・どうしても・・・





うん、それもあると思うんだけど、アルト、君ナイフに手をかけてたよね?どうして抜かなかったんだい?





そ、れは・・・


あの時、俺はナイフを抜くことができなかった・・・その理由は単純明快で・・・。



人を切るのが・・・怖くて・・・
やらなきゃやられるってのはわかってたんだ・・・でも・・・





・・・・・・そっか。


呆れられただろうか。アルマは少し目を伏せてなにやら考え込んでいるようだった・・・が、やがて目線を上げ、俺たちに言う。



なら、僕が君たち二人を守るよ。





へ?どういうこと?





イマガイを旅するうえで、戦いはどうしても避けられないと思うんだ。もしまたさっきみたいなことが起きたとき・・・君たちだけじゃ、下手したら死んじゃうと思う・・・





だから・・・僕は少し戦闘に関して心得もあるし、モンスターから採取できる物もあれば、高く売れてお金にもなるし・・・二人を助けることができるかなって・・・





・・・じゃあ!!





ついてきてくれるの!?





二人が良ければ、だけど・・・いいかな・・・?





もちろん!!仲間が多いにこしたことはないわ!ね、アルト!!





うん!!大歓迎だよ!!





ほんと!?
それじゃあ・・・これからもよろしくね、アルト、ルナ!!


こうして、俺たちの旅にまた一人仲間が加わった・・・!
その後、俺たちは明日の予定について軽く話し、早々に眠りにつく・・・ああ、今日はゆっくり寝られそうだ・・・。
俺はゆっくりと意識を手放し、一日を終えたーー。
ーーアルバス村・アルトたちの部屋の前



『スコアホルダー』に『ノーツモニュメント』ねぇ・・・





面白いこと聞いちゃった♪


第2楽章
アルマ、飛び立つ ~Fin~
みんな、やることはわかってるな?
・・・そうだ!
次回予告だ!!
アルマです!
いやー、無事に本編に出ることができて正直ほっとしてるというか、作者が何度目かもわからない失踪をしないかが心配になってきたけれど、元気にやってます!



よーし、じゃあみんな、声そろえていくわよ!





いやー、これやってみたかったんだよな~!





それじゃあいくよ・・・せーのっ!!





じゃん!!





けん!!





ぽん!!





・・・・・・(ちょき)
(あきらめた)





アルトがツッコミ放棄した!!





う、うそだろおい・・・!?





あ、アルトどうしちゃったのよ・・・!?


果たして、ツッコミを放棄し始めたアルトの本心とは・・・!?
次回
「ネプト、お気に召す」
こうご期待!!



・・・・・・


・・・・・・・・・。



・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・。



今日は何も言わないからな!!絶対!!


うせやん。何か言ってくだせえよ。



地の文がしゃべるな!!





・・・っあ!!


(勝ち誇った笑み)



くっそおおおおおおおお!!


