ーーイマガイ・深浴の森
ーーイマガイ・深浴の森



ぐ、うぬぬぬぬぬぬぬぬぬ・・・・・・





・・・・・ルナ、正直に言ってくれ・・迷った?





ふええええええ!!こんなはずじゃああああ!!!





やっぱり・・・


どうしてこうなったのか・・・時間は小一時間ほど前にさかのぼるーー。
~1時間前~
フロウさんと別れた俺たちは、森を少し進んだところにある開けた場所に来ていた。
後はここで転移魔法を使ってアルバス村に行くだけだったのだが・・・。



フロウさんが言ってたのはここかな・・・?
じゃあルナ、転移魔法を・・・





何言ってるのアルト?
このまま進むわよ!





ええ!?でも、その先の森は危険だって・・・





大丈夫大丈夫!!モンスターに会ったら逃げればいいのよ!さっきみたいによそ見して木にぶつからなきゃ余裕で逃げられちゃうって!!





ええ・・・でも・・・





大丈夫!私を信じなさい!!
さーてれっつごー!!





ええええええ!!


・・・結果、森に入ってすぐのところでモンスターに遭遇。逃げているうちにみるみるうちに首道から外れていき・・・現在に至る。



林道がこんなに入り組んでるなんて聞いてないわよう・・・!!





だからあのとき転移魔法を使えば良かったんだ・・・今からじゃ遅いの?





だめね・・・転移魔法を使うには、周りに障害物がない場所じゃなきゃいけないの。
発動範囲が広いから、近くにものがあるとそれごと移動しちゃったりして危ないのよね・・・。





そんなぁ・・・


これからどうするんだ・・・帰り道もわからないぞ・・・?前に進んでも森を抜けられるとは限らないしーー。



ひいっ!!





まっ、またか・・・!?


真横の茂みが音を立て、俺たちは身構えた。
どうする・・・どっちに逃げる・・・!右か左かはたまた後ろか・・・!!!!



うううう・・・


かすかにうめき声が聞こえる・・・聞いた感じは・・・人間・・・?



モンスター、じゃない・・・?





・・・・・・見てみよう・・・





ええ!あたしやだよ!!アルトだけで見てよ!!





わ、わかった・・・


襲いかかってくる雰囲気でもないし、もしかしたら・・・
茂みをかき分け、のぞいてみると・・・



うわ!?





ひゃあ!?


何かがこめかみのあたりをかすめていった・・・茂みからはボウガンの先がのぞいている・・・今俺・・・



う、うたれっ・・・!?





ああああああアルト下がって!!


ルナの声に反応してその場から飛び退くと、茂みから何かが飛び出してきた・・・!!



・・・・・・


茂みから赤いずきんをかぶった男の子が飛び出してきた・・・!しかし、なんだか様子がおかしい・・・?



・・・あ、れ・・・にんげ・・・ごめ・・・


男の子は、何事かをつぶやくとそのまま倒れてしまった。



うわ!?お、おい・・・大丈夫か・・・?





・・・!アルト、この子、すごいけがしてる!!





えっ!?


駆け寄って見てみると・・・確かにひどいけがだ・・・所々服が裂けて血がにじんでいる・・・何よりひどいのは・・・



と、とにかく手当てしなきゃ・・・!!
アルト、その子運んでもらえるかしら?さっき見た水源まで行きましょう!





わかった!!


俺は男の子を背負うと、先に飛んでいったルナの後を追ったーー。
ルナの治癒魔法を中心に、俺たちは男の子を必死に介抱した。一番出血がひどかった頭を手当てしているとき、ルナがぽつりと言った。



この子・・・天族だわ・・・。





天族?





ええ。本来天族は、クラウンウラヌスって呼ばれてる空の上の世界に住んでいて、ここ、イマガイの生き物たちとはほとんど交流しないの・・・ここに降りてくることだって滅多にないのに・・・どうして・・・?





・・・かなり訳ありって感じか・・・





うーん・・・それに・・・この頭の・・・


そう言って、ルナが頭のそれに触れたとたんーー。



触るな!!





ひゃあ!?





へぶっ!!


男の子が急に起き上がり、俺の顔面を強打した。



いってえ・・・!!





ちょっとアルト、大丈夫?





っ・・・!!ご、ごめんなさい!!


男の子はずきんを顔が隠れるくらい深くかぶり、綺麗なお辞儀をした。



ごめんなさい!!僕、追われていて、それで、あなたたちのこと敵だと思っちゃって、それで、それで・・・!!





ちょ、ちょっと落ち着いて!大丈夫、なんとなく訳ありなんだろうなーっていうのはわかってたし、けがもしてないもの!!ね、アルト!!





あ、ああ・・・うん。そうだね。大丈夫・・・





ほ、本当にごめんなさい・・・!!


そのまましゅんとうなだれる男の子に、俺は近寄って目線を合わせた。



俺は在斗。アルト・ヒカミだ。お前は?





・・・・・・アルマ・・・カミエル・・・





アルマか・・・よろしくな。





・・・・・・うん・・・





あたしはルナ・シャインよ!よろしくね、アルマ!!





・・・・・・うん





な、俺たちは大丈夫だから。そんな顔すんなよ





本当?





ほんとほんと!





むしろ、あんたの方が大けがしててびっくりしたわ・・・何があったのよ?


ルナが聞くと、アルマはずっとかぶっていたずきんを脱いで話し始めた。



・・・僕、アンデッドだって言われて・・・それで、他の天族から逃げるうちに、ここに・・・





アンデッド・・・?





モンスターの一種ね・・・死んだ生き物がそのまま徘徊するって言う・・・でも、アンデッドは総じてグロい見た目をしているわ。どうして、あんたが・・・?





それがわかれば苦労しないよ・・・でも・・・みんな、僕はアンデッドだって言うんだ。
「頭に翼がある天族なんて、あいつしかいない」・・・って。





あいつ・・・?誰かと間違えられてるって事は?





そうかもしれないって思ったこともあった・・・でも、確かに、頭に翼がある天族なんて僕以外に聞いたことがない・・・





普通、翼は背中に生えるものだものね・・・アルマの場合は、突然変異って事かしら?





・・・多分・・・





うーん・・・難しいな・・・





とにかく、この森を抜けた先に、人間の村があるから、そこまで逃げれば・・・って思って走ってたんだけど・・・





その前に、力尽きちゃって・・・





今に至る・・・と。
・・・ん?


ここでルナがあることに気づく。



アルマ、あんた、ここを抜けた先の村に逃げるつもりだったのね?





うん、そうだよ。





村への道、知ってるの?





うん・・・ちょっと複雑だけど・・・





でかしたわアルマ!!





へ?





あたしたちが、あんたが無事に逃げられるように手厚くサポートするわ!だから・・・





あたしたちをこの森から出して~!!





へ・・・?あ・・・もしかして・・・





あ、あはははは・・・お恥ずかしながら・・・





・・・・・・・





そういうことなら任せてよ!手当てしてもらった恩も返したかったところだし!


こうして、俺はまた意図せず鬼ごっこに巻き込まれていくのだったーー。
