それが『逃避』という罪?
お父さんから逃げ出した事……
でもそれは、白木さんだって辛い選択だったはずだ。



奇跡的に手術は成功した。
私は日々の状態を白木博士に報告する事を条件に、父と暮らす事を許された。
でも、父は私をカスミだと認めなかったの……





……お父さん、また研究?
少しは何か食べないと……





…………





お父さん?





……やっぱり、オマエは違う、カスミじゃない……違う





お父さん……





オマエは誰だ? カスミはドコだ?





私……私がカスミよ……





カスミカスミカスミカスミ……
どこだ? どこにいる?





お……父さん……
私よ! 私がカスミなの!!





そうだ! 作ればいいんだ! カスミを!
そうだそうだ、ナゼ今まで気づかなかった!?





おかしいわよね、体は確かに違うけど、カスミは私なのに……。
父は日を追うごとに私の存在を否定し、狂っていった。
そして本当の『カスミ』を求めた。
私は、父やこの家から逃げ出し白木の家で生活した……
それが、私の罪よ……


それが『逃避』という罪?
お父さんから逃げ出した事……
でもそれは、白木さんだって辛い選択だったはずだ。



そして、私を認めなかった父は、私という存在を自ら作ったの……





…………





父は私の記憶をコピーし、人格を私に模した人工知能を作ったのよ……





じっ、じゃあ、彼女は……!?





姿はホログラムよ、肉体は存在しない……





ホログラム……!?


私たちは『藤堂 カスミ』の姿をしたその少女を見つめた。



…………





今まで観させられていたアノ映像も全て、彼女が作ったものよ。
インプットされた記憶を元にして、再現・構築した私の記憶や思想を元に映像化したもの……





ほんの余興のつもりよ……





父の生前の研究は人工知能だったの。
そしてこれが父の最後の研究となった……





………………


微かにだが、その姿が一瞬揺らぐ。
私たちはそれを見てやっと彼女を映像だと理解した。



大事な体を完成させる前に父は亡くなってしまい、研究は未完のまま……





ええ、そうよ。
そこのテミが試験作品だったわ。
でも、ご覧の通り中は空っぽ、外装はともかく内部の方まで完成させる事が出来なかった……





テミはただ、じっと空を見つめただの人形と化していた。





父がいなくなり、藤堂 カスミという記憶を持った人工知能は考えた。
ナゼ自分は存在するのか?
ナゼ自分は産まれたのか……


その時──
鍵の掛かっていた奥の扉がゆっくりと開いた。



アレが父の作り上げた……
『藤堂 カスミ』……


扉の向こうに見えたものは、大きな機械と部屋中に張り巡らされたケーブルだった。



私を模した人口知能は、独自の思考をも持つようになっていった……





そう私は意志と思考と記憶、それだけのカスミ……。
でも、自らの意志も持ち、自分の存在理由について思考した。
そして私は、カスミの記憶からとうとう導き出した。
それが……復讐





復讐……





父を苦しめたヤツが憎かった……





…………っ





カスミを傷つけたヤツらが憎かった……





…………





カスミから本当の肉体を奪ったヤツらが許せなかった……


人工知能のカスミは自らの生い立ちを嘆き、こうなった事を恨み、そしてそれらが彼女を復讐に駆り立て、自分が生まれた理由を結論づけたのだ。
それは、すべて復讐の為なのだと……。



そうね、でも終わった事をいくら嘆いてもどうしようもないでしょう……





私と父さんを捨てたオマエも、私は絶対に許せない……


ウ────────────────ッ!!
突然、けたたましいサイレンの音が響き出きだす。
それと同時に、部屋の明かりが薄暗い青に変化した



これは一体……!?





あと、15分でこの屋敷を爆破する





えっ!?





お、おねえちゃんっ……





待って、ゲームは?
私たちは助かるんじゃ!?





もともと、こんなゲームただの遊びよ。
最初からみんな殺すつもりだった……


周囲の閉じられていた扉が一斉に開いた。
扉の開いたどの部屋の中にも箱のような機械が設置され、そしてその全てに付いた電光表示のタイマーが既に時間を刻みはじめている。



そんなっ……!?





出口!
出口は本当にないの!?


ここに連れて来られた時、出口はみんなで探し無い事はわかっている。
それでもじっとしているなんて出来なかった。
私たちは新たに開かれた扉の中を確認し、未だ閉ざされている二階の扉も必死に開けようとした。
でも、出口はやはり見つからない。



今はこの屋敷こそが私の肉体。
私の思考とこの屋敷は連動するようになっている。
外に出る扉は完全に閉ざした、さぁ、私とともにみんな一緒に死にましょう?





ナナ……


カスミが私の腕を引き寄せ、耳打ちする。



私がなんとかするからみんなと逃げて……





なっ、なんとかって……!?





出口への扉は彼女が閉ざしている、私が彼女をひきつけて扉を開けさせる……





ひきつける?
アナタは? どうするの!?





…………大丈夫。
私が合図したら、2階の佐川さんたちを見つけた部屋に行って





いっ、一緒にアナタも!





……私もあとで行くから


私は、小森さんに合図があったら二階の部屋に走る事を伝えた。
小森さんは戸惑いながら頷き、くるみちゃんの手を強く握る。



おねえちゃん?





くるみちゃん、おねえちゃんと一緒におうちに帰ろう……





うん……!!


ふと目に入った、テーブルの上にある『島崎 ナナ』と書かれた封筒を私は握りしめる。
私の罪、一体これがなんだったのか、それを私は知らないといけないそんな気がした。



走って!!


