でも、許しは今リセットされている状態だ。
これなら白木さんを許して、私が最後の一人になる。二人共助かる。もう犠牲も出ない。
私は、念のためテミに確認した。



私が白木さんを断罪する……


でも、許しは今リセットされている状態だ。
これなら白木さんを許して、私が最後の一人になる。二人共助かる。もう犠牲も出ない。
私は、念のためテミに確認した。



次の断罪で、私が白木さんを許した場合、誰も犠牲にならない事でいいのよね?





そうですね~、残念ながらそうなりま~す♪
島崎様の場合、許しても許さなくても最後のお一人ですし~、それに許しが続いているワケではないので他の方にも矛先が行く事はありませんし~、まあ、あくまで白木様の罪を許せば……の話ですが……


ボーン……ボーン……
突然、柱時計が鳴り響いた。
時刻は、10時50分
ゲーム開始から三時間以上経っている事に気づかされる。
でも、随分と中途半端な時間だ。



それでは、白木様の罪を懺悔下さい


白木さんは無言のまま席を立った。



島崎さん、お願いがあるの……





お願い?





私の罪を許さないで欲しいの……





っ!? ど、どうして? そんな!?


白木さんは目の前にあった白い封筒をベリベリと乱雑に破き、折り畳まれていた紙を広げる。



私の罪は……逃避…………


そして、その一文だけを読むと、その紙を二つに裂いた。



逃避?


それは、何かから逃げたという事?
白木さんは一体何から逃げたというのだろうか。
白木さんは柱時計をじっと見つめた。



この時間、私が死んだ時間よ……





死ん……だ?





午後10時……50分……あの日私は息を引き取った……





で、でも白木さんはちゃんとココにいるじゃない?





ゆ、幽霊とかじゃないよね?





おっ、おばけ!?





大丈夫、お化けじゃないわ。
そうね、確かに存在しているけど、本当の私は死んだのよ……
ねぇ、カスミ見てるんでしょ?


静寂が一瞬辺りを包む。
そして、いつの間にか階段の上に人影が見えた。
そこには──



藤堂 カスミ……





…………!?





彼女が? このゲームの首謀者?


カスミは階段をゆっくりと降りて来る。



オカエリなさい。
待っていたわ……アナタが帰って来るのを……
テミ、もういいわ





かしこまりました~!!


テミはカスミの方へお辞儀をすると、椅子に静かに座りそのまま動かなくなった。



アナタがゲームの主催者?





……そうよ





ど、どうしてこんな事を!?





…………


カスミは黙ったままだった。



……もういいでしょ? 私が真実を話すわ。
でも、その前に……ねえ島崎さんアノ曲に……覚えはない?





アノ曲?





夕焼けこやけ……


『夕焼けこやけ』?
私たちを部屋に集める時に流れていた、あの童謡。
アレが一体なんだというのだろう。



夕焼け……こやけ……


私は頭の中であの曲をリピートさせながら、考えた。思いだそうとした、そしてぼんやりとした記憶の中で何かが引っかかった。
あれは……いつだったろう。
小さい時、よく公園で誰かと遊んだ、あの時。いつもあのコと別れる時アノ曲が聞こえていた。
あのコは──



ナナ……ちゃん





藤堂……カスミ……
そうだ!思い出した。
小学校の3年生の時、藤堂カスミと私は友達だった……





そう……。
隣の小学校に通っていたアナタと公園で親しくなって、友達になったのよ。
二人が帰る時いつも夕焼けこやけが流れていたわ……





うん、そうよ。
確かに思い出したわ!でも、4年生になる時私は引っ越して、カスミと離ればなれになったの……
どうしてそれを白木さんが?





……それは……藤堂 カスミが私だからよ……





……えっ!?





ど、どういう事!?


小学校の時に出会ったカスミの面影は、残念ながら白木さんには無い。
やはり、どちらかといえばもう一人のカスミの方が……。



…………





でも、藤堂 カスミは死んだのよ。
本当に……





死んだ…………


白木さんは深く息を吐くと、話し始めた。



アレは高校1年の春だった。
私は佐川さんから酷いイジメを受けていて、あの日も理科準備室に呼び出されたわ……


白木さんの後ろに、映像が映し出された、それは城ヶ崎さんの時に見たノイズが入った、誰かの目線から撮った様な映像だった。



ねぇ~、藤堂さんアンタブスのくせに男子に色目使うのやめてくれない~?





ほんと~キモイ~





柚から聞いたんだけど~、中学の時も男子にキモイラブレター送って教室に貼り出されちゃったんでしょ~?





うえ~マジ~!?





ヤダ~ ウケル~





そうだ!
私がモテるように顔を可愛くしてあげるね~





佐川さん達はそう言って、理科室のアルコールランプを持ち出し、火を付けて私の眼前に押しつけようとした。
私も必死で抵抗した。
もみ合いになり、そして私の体に火が引火し、みんなパニックになった。





助けて……助けて……





私は必死で助けを求め、体を教室内の壁や棚にぶつけて火を消そうとした……
そして……





助けて……!!





倒れてきた棚に頭部をぶつけ気を失った……
気が付くと、病院だった。
でも、私の治療は遅れた為に、私の体は死んでしまった。





私……まだ生きてるの……
体が動かない……怖いよ……お父さん……





藤堂教授、折り入ってお話があるのですが……





…………





実は私も、娘を事故で失いまして……脳死状態なのです……





…………





アナタの娘さんの脳はまだかろうじて生きているのでしょう?





何が言いたいんだ?





私の娘の体に、アナタの娘さんの脳を移植しませんか?





移植!?





そう。私の脳はかろうじて生きていた、体の火傷は酷くてほとんど細胞が死に回復出来ない状況だったけど、脳だけは無事だった……。
そんな時、父は病院であの人に出会ったの……
それが白木 陽一(よういち)
この体、白木 雪の父親。





……





白木博士は脳医学の権威、中でも彼の研究は人間の脳を他人へと移植する事だった





でもそんな事……本当に可能なのかどうか……





もちろん最初は父も戸惑ったわ。
でも、妻を失い、そのうえ娘まで……悲嘆にくれていた父は決心した。
私の脳を健康な肉体に移植する事を……。
そして私の脳は白木 雪という脳死した女子高生の体に移植されたのよ


白木さんが嘘を言っているようには思えなかった。
でも、今私の目の前に確かに『藤堂 カスミ』は存在している。



…………





ねぇ待って、でもそれが本当なら、じゃあ、彼女は?
アノ藤堂 カスミは一体誰なの!?





……………


