こめかみ辺りに奔る激痛。くらり、くらりと視界がぼやける中、一つの単語が脳内に浮かび上がる。
それは……“村人”という言葉であった。



いっ……たぁ(リカ


こめかみ辺りに奔る激痛。くらり、くらりと視界がぼやける中、一つの単語が脳内に浮かび上がる。
それは……“村人”という言葉であった。
ジリジリ、と疼く頭を押さえて、ようやく皆の姿がはっきり見えてきた。一様に、私と同じように頭を抱えている。



始めよう





人狼ゲームだ





いった……いったいわねこんの……!





っつつ……でも、コレで





皆自分が何者か、分かったんだよね





『さてね。しかし、本当にこの村に人狼はいるのか?
村人たちは半信半疑ながら、一同に会し議論を始めた』


やけに演技がかった進行の言葉だな、と思う。



ということで、まずは僕から行こう。
【共有、占い師に非対抗だ】





……何? 何ですって?


いきなり訳のわからないことを言い始める白髪の男。



共有と、占い師に、非対抗?





ごめん、誰もカミングアウトしてないから言い方を間違えたね。【僕は共有者でも占い師でもない】よ





そ、それは、どういう意味なの……?





そのままの意味さ。共有でも占い師でもない





霊能や、人狼である可能性はあるということ?





ラヴィーネは鋭いね。その通りだけど、今は霊能者が公表するべきタイミングではない





役職が決まり、人狼ゲームが始まった。
『初日である今日は、まだ人狼による被害が出ていないから処刑は行われないけれども、人狼を探すための占いは実行される』んだ





だから、人狼を探し当てる占い師と、村の方針を決める共有者は名乗り出るべきなのさ





そ、そうなのね……


それはそういうものなのだ、というような納得の仕方でラプンツェルが頷いた。
勿論、彼に対する異議はないのだが……諭すような、もっと言うと誘導されているかのような流暢な進行にいささか猜疑を感じ得ない。



リカ、何か引っかかるところがあるかな?





い、いや。そうね……うん。それで、合っていると思う





僕も同意だな。
占いが行われてからカミングアウトされるよりかは、今日名乗り出てもらって、共有の指示通りに動いてもらったほうが村のためだろう





あっ、えっとね、じゃあ、【あ、あたし、共有者なのっ】





なっ、ほ、本当に?





う、うん……


私と一緒に人狼ゲームにまごついていたラプンツェルが、進行役である共有者。何とも難儀で可哀想な役職を引いてしまったらしい。
右も左も分からない状態で村の皆を統率なんて、私は到底無理だしやりたくない。



んー? このパッとしないやつが共有? 村の方針を決めるわけ?





共有者は二人いる。ラプンツェルが出たということは、相方が彼女にその役目を任せた、ということだろうね





なんか信用なんないし不安だよなー。なー、【相方は誰なんだよ?】





えっ? え、っとね……


問われて、ラプンツェルは目をギュッと閉じて口を噤む。
うぅぅぅ、と唸りながら手を顔の横に寄せて、耳を澄ませる仕草。



……ま、まだ、公表するべきじゃない、って言ってる





は?





ひっ……あ、相方の子がそう言ってるの……っ





相方が言えない共有者なんて信じられっかよ、おーいこいつ嘘付いてるぜー、誰だよ本物の共有者ー





そ、そんな! あたしは……





まぁまぁ、まずは皆、【共有者と占い師に対抗するのかしないのか、名乗り出るのがいいんじゃないかな?】


ゲームが始まるや否や突っかかっていく桃太郎と、それを諌める白髪の男。私はそれを、眺めていることしかできない。



対抗するのかしないのか、と言ったな。その妙な言い回しは何なのかね





占い師はさておき、共有者ではない、という言い方は後々の可能性を潰すんだ。
名乗り出たラプンツェルが襲撃されてしまった場合、相方が生き残っていれば名乗り出ることになるだろうけど、初日に『共有者でない』と言ってしまうと、前後の発言が矛盾するんだ。
だから、対抗しない、つまり、今この状況で言うと、ラプンツェルを偽物と告発しない、という言い方が正しい





変な理屈ね……まぁ、後で揚げ足取りになるのも無駄ってことね





理解が早くて助かるよ





ねぇ、それって皆が発言していくの?





そうなるね





め、メモ取るの、OKだったよね……?





構わないよ。まとめをしてくれる方が、村にとっても助かるだろうしね





じゃ、じゃあ忘れないように……!


忘れぬように、というよりも、自分が混乱しないためにも。今の自分にできるのはこのぐらいであった。
ルールを箇条書きしたメモ用紙とは別の紙を取り出して、新たに登場人物の名前を書いていく。



では、自己紹介がてら。
僕は占星術師ツクヨミ。全世界の夜は、僕が作ったんだよ。まぁ、一説として、だから飽くまでも空想のお話として聞いていてね。
ここからがゲームとしての本題。【占い師、共有者どちらにも対抗しない】よ





占星術師のくせに占い師ではないのね。ややこしいったらないわね……





ごめん。僕に人狼を見分ける能力まではないようだ





……Zzz





ねぇ、さっきからこの子、ずっと寝てるけど……





ッヒヒ、呑気なものだな。まぁよかろう、飛ばしてしまえ





シラユキよ。実の肉親に毒りんごで殺されかけて、この村に逃げおおせたってわけ。
【占い師、共有者に非対抗】だわ





えっ、だっ、だだだ大丈夫なのっ?!





さぁね。このゲームで助かるんだか、殺されるんだか、どっちも死ぬんだか、私には分からないわ





待ちたまえ。その肉親というのは、今この場にいるのかね





そこの、碌でもない目をした紫頭巾よ





ッハハハハ、酷い言われようをしたものだ





シラユキ殿、といったか。もう一度、先ほどの発言、繰り返してみてはくれないか





うん? まぁいいけども。
【肉親から逃げて助かるんだか、殺されるんだか、どっちも死ぬんだか、私には分からないわ】





……感謝する





初めまして。リュミエール、と言います。
お父さんからの言いつけで、色んな場所に、マッチを売って歩いていました。そこで、この村に辿り着いたんだ。
【同じく、占い師、共有者に対抗しない】よ





ねぇ、気になっていたんだけれども、マッチって売れるの? 売れるとしても、いくらで?





大抵、必要な人は束で買っていくんだけれども……かなり売らないと、生活できないなぁ





まぁ、そうだよねぇ……


個人的に童話の設定上引っかかっていた疑問をぶつけてみたが、キャラクターとしての回答は現実味がありながらもしっかりしている。彼女が辿る悲惨な運命を予感させるかのような物言い。
もしかすると本当に、彼女たちは童話の中から飛び出してきたのかもしれない。
いや、或いは私が……。



チェシャと呼んでください。そこにいるアリスやカーターは見知った顔です。
アリスたちがハートの女王の裁判で有罪にされて、この村に飛ばされると聞いて、先回りして来たんだ。
まさか、こんな村だとは思わなかったし、ゲーム的に収穫はなかったけれど……
【共有、占い師に非対抗】です





……共有に対抗する人はさておき、占い師様は本当にいるの?





そっ、それは僕は分からないけれど、でも確かに、名乗り出る人は今のところいないね……





人狼の存在も、まだ定かではないからね





アリスよ。そこにいる馬鹿猫と狂った帽子屋に振り回されて頭が痛くてこの村には慰安旅行しに来たの





チェシャくんと、随分違うことを言うんだね





そうでも思わないとやってらんないわよ。チェシャの言うことは本当。
【共有と占い師には対抗しない】わよ





ラヴィーネと申します。各所では、雪女、と呼ばれることもありますが……あまりその名では呼ばないでくださいね





えっおい雪女ってあの





それ以上言いますと、上がり込みますよ? 今晩。
【共有、占い師に非対抗】ですわ





お、おいおい……鬼より先に雪女ってマジで言ってんの……?





我はキルティス。そこのシラユキは我の愛しき娘だ





ほう、貴殿が……





そこの醜い帽子男は我が娘に少々突っかかっていたようだが、まぁ良い。
しかしまぁ、ひどい頭痛であったな。お陰で目が覚めたよ。
【我が占い師】である!





んなっ……! 何ですってぇ?!
あ、あんた、なんかが……





ひとまずはこの村の人狼共を炙り出して、シラユキはその次だな……ッヒヒ





冗談じゃないわっ! あんたなんかに、村の命運を預けられるわけがないでしょうよっ!





とは言うがな……占い師がいなければ村人の勝ち目は薄いぞ?





信じられない……こんな……!





まぁまぁ。まだ彼が本物の占い師だと確定したわけじゃないんだから





えっ? それってどういう……?





まだ、『全員が非対抗を回していない』だろう?





ら、ラプンツェル、です……





共有者、だったね。よろしく頼むよ





ひっ……いや、あの、えっと





そんなプレッシャーに思う必要はない。君は一人じゃないし、村人たちは皆君に協力するだろう





えっ、えっと……えぇ。が、頑張るわ……





えっとね、この村に来る前は、ずっと塔の中で暮らしていたんだけれども、魔女のおばあさまがここに連れて来てくださったの





帽子屋を営んでいる、カーターだ。経緯は、そこの少女と一緒だな





あんたは、女王の前で見せた余興が気に入られなかったんだったかしらね





過ぎたことはどうでも良い。そうともさ。時は動き出したのだ。
【この私が占い師として生きる運命が動き出したのだよ】





っはああぁぁ?!





ッヒヒ……貴様が、ねぇ





そうともさ。キルティスと言ったな。【貴殿には全力で対抗する】





望むところさ……【かかってきたまえ、人外風情が!】





アリスよ。共に抜けだそう。この狂った世界から、ただならぬこの村から





じょ、冗談じゃないわ……





なんだか、似たような台詞を言うね、お嬢様お二人は





ハーメルンだ。僕が持っているのは破魔の笛なんだ。
各地で狼騒動を聞いて僕が駆り出されてきたのだけれど、まさか、ただの狼じゃないとはね……





ただの狼だったら、何とかなったっていうの?





それはやってみないと分からないところだけれども……
そしてすまないが、【共有、占い師に対抗はしない】よ。僕にあるのは、この笛だけだ





ったったたたた、あぁ、うぅ……まだ、頭が痛いよ……





いいから急ぎなさい





手厳しいなぁ……ラビィだよ。
ハートの女王から、アリスとカーターの監視を任されたんだ





遅刻魔で言いなりのビビリ兎だな





ほっといてよっ!
えーっと、どんな話の流れだっけ?
【共有と占い師には非対抗】だよ





あたしはロート。おかあさまから、おばあさまのところへお遣いに行くように頼まれてたのだけれども、迷子になっちゃったの





それで、この村に、と。夜更かしや道草は関心しないな





仕方なかったのよぉ。お土産があまりにも素っ気なかったから。
【あたしは占い師にも共有者にも対抗しない】わ





んーっとぉ、桃からあ、パスコーンって生まれたんだけどぉー





そんな前から聞いてないよ





えっ? 何かノリ悪くない?
んまぁ、そんで鬼退治ーっつって鬼ヶ島目指してたんだけどぉ、まずは仲間欲しくない? みたいな





それでこの村に? 鬼退治には、誰も頼りなさそうで残念ね





そーそーロートの言うとおりでさー、こんなゲームに巻き込まれるし、
【もう既に偽物二人出てる】わけでしょー?
前途多難だよねー俺もー





……えっと?





あ? 【占い師俺だけど?】





……





待ってよ何でそんな不満そうな顔なんだよー。俺だってやだったもん占い師とかさー。人狼に一番に狙われるわけでしょ? ダルくね?





おや、三つ巴か





ほぅ……勇ましいな





……この中に、本物の占い師が、いるっていうの?!





リカが、占い師に対抗しなければね





あ、そっか、次私かっ


最後に回された順番がやってきて、ついに私の人狼ゲーム第一声が始まる。



リカ、って言います。
えっと、この村にやってきたのは、えーっとまぁなんだろ色々あってー、その、ごめん経緯はパス!
【共有者でも占い師でもないですっ!】


着々と、ゆるやかに。
じわりじわりと確実に、進んでいく。
御伽の国の、人狼ゲーム。
――――
人物名 占/共
ツクヨミ 非/非
シュラフ 非/非
シラユキ 非/非
リュミエール 非/非
チェシャ 非/非
アリス 非/非
ラヴィーネ 非/非
キルティス 占/非
ラプンツェル 非/共
カーター 占/非
ハーメルン 非/非
ラビィ 非/非
ロート 非/非
モモ 占/非
ミッシェン 非/非
リカ 非/非
――
