激昂するシラユキに、同意という旨で頷くその他の人物たち。私も、何がなんだか分からない。



どうやらこの村には、
村人が六人、人狼が三匹。
それと、占い師が一人、霊能者が一人、狩人が一人、
狂人が一人。狐が一匹と最後に、共有者が二人いるようだ





何? 何ですって?





御伽の村の、配役さ。そうか、皆まずはルールが分からないのか





そうじゃなくて! それ以前に、何でこんなことしなくちゃならないのよ?!


激昂するシラユキに、同意という旨で頷くその他の人物たち。私も、何がなんだか分からない。



ね、ねぇ、皆って、御伽話の、登場人物だよね? コレは、一体……?





リカ、メタな話は人狼ゲームではNGだよ





め、メタ、って


メタって、何? コレ、現実なの? 空想なの?



そっちのお姉さんも何者かは知らないけど、勝手に変な話をするのもやめてくれない? 御伽話だなんて、馬鹿にしてくれちゃって





若人、説明願おうか





そんな迫らないでくれよ。確かに巻き込んだのは悪かったけどね。皆のことが好きな僕が、ただ見たかったってだけなのさ。皆が織りなす、人狼ゲームのシナリオを





皆のことが、好きな僕……?


私は、この白髪の男性に見覚えがない。その他の皆は全員御伽話の登場人物だという共通点があるため、ここで指す皆というのは私を除く、という意味なのだろうか。
……と思ったのだが、



そういうお前は誰なんだよ





僕も、貴方のことは知らないんだけども……





あはは。それは皆のことを僕が一方的に知ってるだけだからね。まぁ、犬にでも噛まれたと思ってさ


この後狼に噛まれることになるけどね、と続ける男。全くもって、意味が分からない。



あ、あの、コレ、やらなくちゃいけないのですか?





勿論さ。進行は基本的に任せるけど、どうやったって人狼による被害は出る。そして敗北した陣営は文字通り、本当に死ぬんだ





な、何ぃっ……?





し、死ぬって





まぁ、この版の皆が、って意味だけどね


私の方を向きながら、しかも私にだけ聞こえるような小声でそう零す。
版。童話には何度か書き換えられ結末やあらすじがすり替わったものがほとんどである。そういう意味なのだろうか。



そして、勝利した陣営だけが生死に関わらず生き残ることができる。
苦難を乗り越え辿り着いたこの村、どうせなら最後までハッピーエンドで迎えたいでしょ? 皆には、頑張ってほしいなぁ





何やら死ぬなど物騒なことが聞こえてるけど……人狼駆除として呼ばれている以上、責務は果たさないとね





僕も、このおぞましい夜を終わらせるために、尽力するつもりだよ





あ、何? 皆ノリノリな感じ?


てんで要領を得ない男の話だが、押し付けられた運命を受け入れ始めた者達もいた。



確かに、ココまでやってあんたなんかの訳分かんないゲームで殺されるなんてゴメンだわ





……Zzz





あたしも、ちゃんとおばあさんのところへお遣いに行かなくちゃ





おや、話はついたかね? 手段はなんであれ、我が目的が達せるなら何でもよい





話を進めてもいいかな。それじゃあ改めて、ルール説明だ


あれよあれよと進む話に置いて行かれる私。当然だ。周りの人物は皆御伽話からの引用だろうが、私は正真正銘現実の世界の住人。何故こんな不思議な世界に紛れ込んだのか、人狼ゲームなんかに巻き込まれることになってるのか、全然検討がつかない。



ね、ねぇ、ちょっと待って、私の生死は





勿論、条件は皆同じだよ





そんな……!





さっきからあんただけ見慣れない格好してるけど、一体何者なの?





えっと、そのっ、私は……





確かに、皆どこの誰かピンとくるのに、君だけは不思議と出自が掴めないな





僕の占星術をもってしても、君が何者かが判然としないのだけれど……





安心していいよ。僕の知り合いなんだ


この中で一番正体不明の男がそう発し、誰と言わず自然と納得する。
だからこそ、私は貴方が誰なのか、と問うことができなかった。
ここであの白髪男性の発言に矛盾するようなことを言えば、ただでさえ濃い疑念を払えず真っ先に敗北してしまう。
人狼ゲーム……聞きかじりではあるが、疑われる、信用を失うことが一番生死に関わる、というのが私の持っているイメージだった。今まだゲームが始まってもいないのに自分の存在を危ぶませる利点はない。



では、改めて。
『どうやらこの村には、村人が六人、人狼が三匹。
それと、占い師が一人、霊能者が一人、
狩人が一人、狂人が一人。狐が一匹と
最後に、共有者が二人いるようだ』





『人狼と狂人がいわゆる人外サイド。
狐を第三勢力として、その他が村人サイド。
村人サイドは人狼を全て排斥すれば勝利。
人外サイドは、人狼と村人を同じ数かそれ以下の人数まで減らせば勝利。
狐はいずれかのエンディングを迎える際まで生き残っていれば、一人勝ちになるよ』





人狼を排斥、ってどういうこと?





『今晩、この中の誰かが人狼に襲撃に遭う』。そうなると、村の中に人狼がいることは明白だよね。
だから、『人狼と疑わしい人を皆で投票し、多数決で一日一人ずつ、処刑していくんだ』





その投票を決めるのに、いろんな役職がいる、っつーわけ?





察しが良いね





人狼と狂人で人外サイド、計四人





狐はただ一人で勝利を目指す……





そっ、それに対し村人サイドが十一人。
ちょ、ちょちょちょちょっとアンバランスに感じるけど





狐はどうしても勝利条件が難しいね。だけど、始まってみると意外にもコレが丁度いいんだよ。さて、次はそれぞれの役職について説明するよ


それから、白髪の男によるルール説明が始まった。



まずは村人。何も力がない分、一番村の状況を公平に見ることができる。村人サイドが勝つには、村人が力を発揮しなければならないんだ





……何の力も持たない無能に思うのだけれど





やり甲斐はないかもしれないけど、僕は一番重要だと思っているよ。事の真贋を確かめたり、完璧にフラットな情報しか見えない村人は、各人の発言を精査するのに一役買うのさ





ふーん……





先に、村人サイドの役職から説明していこうか


言って、指を一つ一つ立てて役職名を挙げていく。



一つ目は占い師。人狼ゲームの花型でもあるね。
この役職は、夜毎に一人だけ占うことができて、『“その人が人狼か、人狼でないかを調べる』ことができるんだ





コレが、村人側の武器となるわけだね





そうだね。一つ注意して欲しいのは、『その人が何者かが分かる能力ではない』ということ。
霊能者を占っても、その人が霊能者だと分かるのではなく、人狼ではない、という結果が下される





場合によっては、人狼ではないその他の内訳も考えなければならないのですね……





加えてもう一つ。占い師には特別な力が宿っている。それは、『狐を占った場合、その狐が死んでしまう』ことだ





えっ、どういうことだい?





言った通りだよ。『狐は、占われると死んでしまう』んだ。
だから、例えば占い師は自分だと名乗る人が二人いた場合、『翌朝の死体の数、占い先の公言でも占い師の真偽が分かる』ようになっている





それじゃ、狐ってもっと勝利するの難しいんじゃ……





それは後々説明するよ。
次に霊能者。この役職は、『多数決で処刑した人が、人狼だったか、人狼でなかったかを知る』人だよ





なるほど。コレで占い真偽の確定、と





その他、占いにかけていない人間を処刑した時の内訳を見たり、残りの人狼の数を確定させる役目もあったりするね。
また占い師と同じく、『役職の内訳まで知ることはできない』よ





後は狩人だけど、『夜毎起きる襲撃から、一人だけ守る』ことができる。
この役職も注意点があるんだけど、『自分で自分の身を守ることはできない』し、
『護衛が成功したからといって、人狼が返り討ちにあって死んじゃうこともない』





あら、頼もしい人もいるものなのね





まぁ、人狼も馬鹿じゃない。どこを襲撃してくると予想されそうか……と、狼と狩人は基本的に読み合いになる





最後に、共有者。
『ゲーム上、村人であることが保証されている人のこと』だ。
この村には二人いて、それぞれがお互い誰なのかも分かっているし、『二人だけにしか聞こえない共鳴』という意思疎通もできる





この者たちは、一体どんな役割があるのかね





『単純に、村を取りまとめる人たちだと思ってもらっていい』よ。
こういう人たちがいないと、村の方針が誰とも分からない人に決められてしまうからね





なるほど……しかし、こやつらも変わりなく襲撃には遭うのだろうな?





その通り。
その際の進行は、君たち皆で決めるのか、誰か進行役を立てるのか。それまでの進行によるだろうね


朗々と喋る白髪の男性と、意欲的に聞きところどころで質問を挟むキャラクターたち。その中でただ一人、戸惑っている私がいた。
それはゲームに参加させられる突飛なこの状況も勿論そうなのだが、その先、ゲームの内容である。



ちょっ、ちょっと待って





どうしたんだい?





あの、私には、難しいみたい。まとめる時間をもらってもいい?





構わないよ。メモをするとか、ゲームが始まった後でも自由にやるといいさ





ありがとう。ごめんね、なんだか私だけついていけなくて





ううん。それ、あたしもありがたいな。あたしもちょっと、頭こんがらがってきちゃって





そ、そっか! よかった……って、そう言っちゃうとなんか馬鹿にしてるみたいになっちゃうな。
よかったら、一緒にまとめてみようよ





えぇ、頑張りましょ


幾程かの安堵を感じて、これまで受けたルール説明をメモで簡単にまとめてみる。
……が、書き起こしてすぐに疑問が湧いた。



ねぇ、一日の流れ、からなんだけどさ





うん。今のうちに分からないところは聞いておくといいよ





えっと……襲撃と、処刑が一日に一回ずつ起きるんだよね? あと、占い?





そうそう。分かっているじゃないか





えっとさ……これ、夜に一斉に起きるんだと思うんだけど、例えば順番とかあるの?





おぉ、いいところに気がついたね。
そうさ、『夜になるとまず多数決の処刑、そして占い、最後に人狼の襲撃が起きる』んだ





その順番って、重要なの? リカ





えーっ……た、例えば、
占い師が襲撃に遭っても、その時狐を占っているとしたら?





何だ、よく分かっているじゃないか。
そう、その場合、狐は占いによって“呪殺”され、その後占い師が襲撃されてしまう





だから、何だろ。占いが起きなかった、ってことにはならないんだね?





そうさ


分からないながらに聞いてみた質問だったが、この時系列はゲーム上、重要になりそうなことは何となく掴めた。
これまで聞いたことを、洗いざらい箇条書きで書き起こしていく。
――人狼ゲーム
○一日の流れ
・夜が訪れると、占い師が一人だけ占いをする
・同時に、人狼が一人を襲撃する
・昼は、占い結果などを元に誰を処刑するかを決める
→夜は、処刑、占い、襲撃、の順番で起きる
・処刑を繰り返し、最終的に人狼を全て排斥できれば村人サイドの勝利
・処刑と襲撃によって村人が殺され、人狼と村人が同じ数以下になったら人狼サイドの勝利
○役職
・村人:能力なし
・占い師:一日に一度だけ、占った人が人狼か、人狼でないかを判別できる。また、狐を占うと呪殺が起き、狐が死んでしまう
・霊能者:処刑した人が人狼だったか、人狼でなかったかを知る
・狩人:人狼の襲撃から、一人だけ守ることができる。自分を守ることはできない
・共有者:村人であることを相互に確認し合えるペア。二人のみに聞こえる共鳴が使える
――――



そうだね。コレで抜けはないはずだよ





あ、頭痛い……





ルールだけ押さえれば、やっている内に感じはつかめてくると思うよ


生きていればの話だけどね、とやけに厭味ったらしい言葉を添えて、白髪の男は説明を再開した。



次は人狼サイド。
『人狼は夜毎に村人一人を襲撃する』よ。
村人たちはこの人狼を全て処刑すれば勝利





一つ確認したい。人狼は、人狼を襲撃することは?





『味方の襲撃はできない』し、できたとしてもやるかどうか





回答ありがとう。まぁ、僕もそれは人狼側として悪手だと思うけど、念のためにね





『人狼同士、仲間が誰かは認識している。
仲間内にしか聞こえない、人狼の囁きというのも使える』んだ





お次は狂人。
分類としては村人と同じなんだけれども、『勝利条件が人狼を勝たせること』になっている





じゃあ、この狂人も処刑しないと駄目ってこと?





『村人サイドの勝利条件に狂人の生死は問わない』よ。
生きていようがいまいが、人狼を全部処刑できればOK





ね、ねぇ、人狼は味方を知ってるって言ってたけど、狂人は?





『狂人は人狼が誰かは分からない』。
誰が人狼なのか見極めて手助けするのが、狂人の主な役割だね


ココまでが、人狼サイドの役職だ。改めて、メモ書きに追加していく。
――――
○役職
・人狼:一日一人、村人を襲撃する。仲間内だけで聞こえる囁きが使える
・狂人:村人と同じ分類だが、勝利条件が『人狼を勝たせること』である
――――



最後に、狐の説明だね





何だっけ? 生き残れば一人勝ち? なんかそれだけで狡いよなー





概ねそうだね。後はさっきも言った通り、『占い師に占われると死んでしまう』こと





あーそういや死にやすいんだっけ。やだなーこの役にはなりたくねー





その代わり、『狐は狼からの襲撃に遭っても死なない』んだ





……は?


――――
○役職
・狐:村人サイド、人狼サイドの勝敗が決した際、生き残っていれば単独勝利。襲撃されても死なないが、占われると死んでしまう
――――



あー、びみょーにバランス取ってるわけね。でもさー、結局狼からは正体バレるんじゃね?





襲撃に失敗した際は犠牲者が出ずに済むんだけど、それが狩人の護衛成功なのか、狐を襲撃してしまったのかは、議論の余地あるところだよね





あー……





特殊な役職だけど、整理すれば分かりやすいかな?
コレで、人狼ゲームのルール説明は終わり


白髪の男は手のひらをパンと叩いて話を切り上げる。



それじゃ、質問はないかな? 長々と疲れたよね。早速、始めるとしよう





えっ、えぇぇっ……確かに、疑問点はないけどまだちょっとこんがらがってる……





後はまぁ、やりながら覚えていくといい。村人だろうが人狼だろうが、皆と協力してね





そうは言ってくれるけど、結局、誰が村人で誰が人狼だって言うのよ





それを今から、皆で見つけていくんだ





だーかーらー、その役職? って言うの? 自分が何者かも分かってないんだけど?





いいや、もう皆知っているはずだよ。自分が何者か、自分自身で、ね


白髪の男の台詞に誰もがきょとんとする。
少なくとも私は自分が何の役職か言い渡されたわけでもないし、自分で知っているわけでもないのだが、周りの皆も同じ様子だ。



何を言って……





ッッ?!


アリスが何かを口走ったその瞬間。
ズキリ、と頭痛がした。
――プロローグ
end.
