エリーゼは道端で目が覚めた
エリーゼは道端で目が覚めた



ん……?ここは……どこなんですの……?


寝ぼけた頭で周りを見渡してみる。見たことのない建造物、見たことのない模様で何かが書かれている板、そして、感じたことのない風。



わたくしは確か……


ぼんやりとした頭で何があったのかを思い出してみる。そう、あれは確か……



こんにちは~。


レセリア王国、王立魔道具研究所。そこでは日夜、魔道具の開発、改良に勤しんでいた。だが、エリーゼ的にはそんなことはどうでもよい。



いらっしゃいエリーゼ。また来てくれたのね。





はいっ! またきちゃいましたわ♪


彼女はダリア。ここの研究員の1人であり。エリーゼの元家庭教師である。エリーゼは暇つぶしに、そしてダリアに会いによくここへ立ち寄るのである。



でも残念、今日はおやつもお茶も出せないわ。新しい魔道具が遺跡から発掘されて、今は解析やら何やらで忙しいのよ。





それは残念ですわ……。





その魔道具っでとんなものなんですの?宝石ですの?綺麗なものなんですの?





あなたの大好きな宝石やアクセサリーではないことは確かね。





でも綺麗って点では綺麗ね。ほんとは一般人に見せちゃダメなんだけど、あなただったら所長も許してくれるでしょ。これよ。


ダリアは、机の上においてあるソレを手に取り、エリーゼに見せた。



な、なんですのこれ? 四角くて平べったくて、しかも片方はつるつるしてますわ……。





なんだろうね……。魔道具だから運び込まれたんだろうけど、全く魔力の気配もしないし、魔力を流しても反応しないのよ。





じゃあただの変な石版な気がしますの。





あたしもそう思ったんだけどねぇ……。いろいろ触ってみたらなんか光ったのよ。





ひ、光るんですのその石版? それは怖いですわね……。





その後模様のようなものが浮かび上がったのよ。ほら。


エリーゼが石版をのぞき込むと、たしかにソレは光を発し、変な模様が浮かび上がっていた。



なんだか面白い模様ですわね!触ってもいいですの?





あぁ、いいよ。案外、なにか起こるかもしれないしね。


本当は駄目である。だがダリア自身も、何かが起きそうな気がするという好奇心が勝り、そんな規則のことなんか気にしてはいられなかった。



面白い手触りしてますわね。





えっ!? な、なんか音が鳴りましたわ!!!





嘘!?あなた、魔法を発動させたの!?





わ、わたくしが魔法が使えないのはダリアもよく知ってるはずですわ!


本来、エルフ族は生まれつき魔法に長けている種族ではあるのだが、エリーゼは魔法がからっきしなのである。背中に羽を作り出すのが精一杯だ。



それもそうね





なんか、納得いきませんの……。





あの~、そろそろこちらに目を向けてくれませんかね?





しゃ、しゃべった!?





しゃ、しゃべった!?





そんな驚かなくても……まぁいいです。時間もないので手短に。





手短にって、まずはあなた?について説明しなさいよ。





あ、すいません。ホント時間ないので説明なしです。





えーと、そこのデカイ妖精さん。お名前は?





妖精じゃなくてエルフですわ! この羽は可愛いから出していますの!





あーはいはい、エルフさんって名前ね。





エルフは種族名ですわ! ……わたくしの名前はエリーゼですわ。





あ、エリーゼさんね。登録ボタンを押したのは貴方?





トウロクボタン? そんなもの押してませんわ?





おかしいですね? 私を手に持ってるのは貴女なんですが……。まぁいっか! エリーゼさん、貴方をシステムに登録しました。それでは目を閉じててください。





え!? しすてむ? トウロク? 何のことだかわかりませんわ!


すでにエリーゼの頭では、今の状況を理解できていなかった。



ちょっと石版!あたしは無視なわけ?





はい、登録人数は1人が限界なんで、貴女にかまけてる時間はもうありません。





さぁさぁエリーゼさん!早く目を閉じてください!さもないと……、怖いことが起きますよ?





こ、怖いこと!? それは嫌ですわ!閉じます!閉じますわ!





エリーゼ!そんな石版の言うことなんて聞くんじや……っ!


もうエリーゼはいっぱいいっぱいで、ダリアの言葉も耳には届いていなかった。



はい! 準備もできたみたいなんで始めちゃいます! レッツゴー!!!


そう石版が言った瞬間、エリーゼの体が光りだし……
今に至るのであった。



そ、そうですわ! ダリアは!? あの石版は!!?


しかし、再度周りを見渡しても、誰も居ないのであった。



私だけどこかに飛ばされてきちゃったみたいですわ……。


すると、向こうから何かかこちらへ向かってきている。よく見る人間のようだ。



あ、誰か来ましたわ……! あの人にここはどこか聞いてみることにしますわ!





すごい変な格好してますけど……。


エリーゼからするとその格好は奇妙であった。全身真っ黒だからである。
だが向こう……ユウヤからしてもエリーゼの格好はそれはもう奇妙であった。



な、なんだあの子? すっごい可愛いけど外国の人か……? しかもこんな町中でコスプレしてるとかどんな勇者だよ、日本勘違いしすぎだろ。





もしかして夢か? 俺まだ寝てるのか? 昨日はちょっとえっちなゲームなんかしてないぞ!?





よし、これは夢なんだ。こんな誰も居ないところにこんな可愛いけどすっごい変な格好してる耳長な女の子がいるけど、これも俺の夢なんだ。





少なくとも貴方の夢ではありませんわ。





返事された!!!この夢超リアル!!!て言うか夢の住人に夢であることを否定された!!!





……見かけだけじゃなく中身まで変な人でしたわ。あとうるさいですわ。





いや、君の格好のほうが十分変だろ。コスプレにしてはなんかすごい凝ってるし。





こすぷれ? わたくしはこすぷれなんて名前ではありませんわ。





いや、コスプレはコスチュームプレイの略で……





って、そんな説明なんてどうでもよくて! どぅ、どぅーゆーすぴーくじゃぱにーず?


ユウヤは、ジェスチャーを交えつつ、拙い英語で聞いてみる。



それは何かの呪文ですの? それともダンス?





呪文って、日本語喋れるか聞いてるんだけど。後ダンスじゃなくてジェスチャーな。





でも、よくよく考えたら普通に会話できてんな。俺たち。





ニホンゴ? そんな魔法は知りませんし、わたくしは魔法が殆ど使えませんわ。





それに、会話なんてどの種族とでもできますわ。人間でもエルフでも。





いやエルフなんていないし、ここ日本だし、どこかのファンタジーでもないし、俺はゲームや漫画やラノベの主人公でもないよ。





ふふっ。貴方、ホント変ですわね。でも悪い人ではなさそうですわ。





変とは何だ変とは。





でも、悪い人と思われなくてよかったぜ。悪い人って思われて通報されたら俺のお先真っ暗だからな!





真っ黒なのは貴方の格好ですわ。





学ランだしな!





で、こんなとこでなにしてるんだ? 見たところ道に迷ってるみたいだけど。





そうでしたわ。真っ黒さん。ここは一体どこなんですの? 少なくともレセリアではないみたいですけど……





俺は佐々木裕也って名前で、ここは日本のT県Y市って場所だ。





あと、真っ黒さんだなんてなんか出ないと目玉をほじくられそうな呼び名じゃなくて、せめて名前で呼んでくれ……。佐々木でも裕也でも好きに呼んでいいから。





名前はササキユウヤで、ここはニホンのティーケンワイシ?





場所は結局、どこなのかよくわかりませんけど、名前はユウヤとお呼びしますわ。こちらのほうが響きがいいですわ。





わたくしはエリーゼ。レセリア王国のレーナ村出身ですわ。





あぁ、よろしくなエリーゼ。





そんな王国聞いたことないな……。結構遠い場所なのか? あと、自己紹介してるけどなんで俺はこの子とこんなに喋ってるんだ?





どうしましたの?ユウヤ。





いや、なんでもない。ちょっと考え事をな。





ところでエリーゼ。道に迷ってんだろ?送ってやるよ。





ありがとうございますわ。できればレセリア王立魔道具研究所という所に行きたいのですけれど……ここはレセリアではないみたいですし……。





マドウグ研究所って……。なんの研究所かは知らないけど、なんかほんとにゲームとかラノベにありそうな名前だな。





エリーゼは、そこの学者さんなのか? 俺より年下に見えるけど。





いいえ。わたくしはただ遊びに行ったりするだけですわ。ただ、そこから飛ばされちゃったみたいなんですの。





飛ばされたって……。





そ、そうですわ!そもそもあの石版はどこに行ったんですの!!!





うわっ、いきなり大声出さないでくれよ!





ご、ごめんなさい。





そうですわ!ユウヤ、変な石版を知りません? 黒くて、手のひらからすこしはみ出るくらいの大きさで、つるつるしてて、触ると光って模様の出る……。





そんなマジックアイテム知らないし、見たことも……





いや、まてよ?もしかしてこれのことか? そんなマジックアイテムじゃないけどさ。


そういうとユウヤは、ポケットから『ソレ』を取り出した。



そ、そうですわ! ちょうどそんな感じですわ! と言うかそのまんまですわ!





これはスマートフォンって機械だ。そっちの国にはないのか?





すまーとふぉん?





あぁ、これで電話とかメールとかネットとか色々できるんだ。





ユウヤが何を言っているのかまったくわかりませんわ……。ですけどすごいものということはわかりましたわ。





ユウヤ、そのすまーとふぉんという魔道具で、わたくしを元の場所まで送って欲しいですわ!





いや、さすがにそんなことはできないぞ!? あとマドウグっていうものじゃなくてこれただの機械だからな!?





家族とか研究所の人に迎えに来てもらえるかもしれないけど、さすがに電話番号聞くわけにもいかないしな……。それじゃあナンパみたいだしな……。





じゃあわたくしはどうすれば……。おうちにも帰れそうにありませんわ……。





そうですわ! わたくしいいこと思いつきましたわ!





ユウヤ、わたくしは今、ピンチなんですわ!





お、おう! ……おう?





見知らぬ場所に飛ばされて帰ることもできず、宿も無く、わたくしが頼りにできるのは飛ばされた原因かも知れない魔道具を持ったユウヤだけ……。





宿もないし他に頼るあてもないのかよ!? ていうかさっき出会ったばっかの俺が頼りかよ!?





ですからユウヤ……。





帰れるまでユウヤのおうちに泊めてください。





何だそんなことか。 いいぜ。 どうせ一人暮らしだしな。 女の子一人ぐらいなら……。





って、まてまてまて!!! 無理!無理だから!!! なんかさっきノリで許可しちゃったけどこんな可愛い子と寝泊まりとか事案だからな!!!





可愛い!? わたくし可愛いんですの?





あぁ、それは保証する。むちゃくちゃ可愛い。こんな子と暮らせたらそれなんてギャルゲだしな。





っ!? だから!俺はなんで今日に限ってこんな事を口走るんだ!?





うれしいですわ! ぎゃるげっていうのはよくわかりませんけれど。


手を差し出すエリーゼ。



それじゃあユウヤ? 案内、よろしくおねがいしますわ♪





おう。分かった。


そして手を取るユウヤ。



や、やっぱり恥ずかしいからこれはパスな!


そう言い、慌てて手を離す。



男性がエスコートしないでどうするんですの!?





失礼なのはわかるけど俺そういうの駄目なんだって! 案内はするからついてきてくれ!





ほんと、変な人ですわ……。





でもこれで、野宿は避けられましたわ。


そんな事を思い、ユウヤの後についていくエリーゼであった。



そういや気にしてなかったけど、俺は制服姿でどこに向かうつもりだったんだ?





それにここ、もう昼間なのに俺たち以外誰もいないし、車も来ない……。





ま、今はこの子を家に送る方が先だな。


その時は深く考えることをやめ、ユウヤはエリーゼを連れ、家に向かった。
ちなみに今は平日の昼。ユウヤは今日、無断欠席で教師に怒られるであるが、ここでは詳しく語るまい。
とある場所、とある時間。スマートフォンの電源が入り、どこかへ通信を始めていた。



はい。こちら異世界転送サービスです。いつもご利用ありがとうございます。





……はい、エリーゼさんは無事転送できました。





住む場所もバッチリです。ちょっと通りすがりの少年の心いじっちゃいましたけどね。





当分は問題無いと思います。あ、ご要望通りレセリアでの記録も一時的に抹消しました。





はい。……はい。わかりました。引き続き監視を続けます。





監視記録は気が向いたら送りますね。めんどいので。





え? 定期的によこせ? いやですよ~。 私は給料以上の仕事はしない主義です。





それではまた、次の通信はいつかわからないので期待しないで待っててくださいね~。





……もー、無茶ぶりにも応えたんですからすこしは休ませてほしいものです。





さて、あの子達はどうなることやら……。一応アフターサービスで見守りますけどね。なんか面白そうですし





さてさて私はこのへんで。グッバーイ!


スマートフォンの電源は切れ、物語はここで一旦終わり。次がいつかは神のみぞ知る、のか。
