僕は立ちつくした。
ルーガルが、ジャハの壁の向こうに行ってしまっていたら?
あの壁を越えるのは、ルーガルの魔法頼みだ。僕たちでは追いかけることができない。もう止められない。



ごっ、ごシュジン~! ワタシはトめようとしたんですよ、でもあいつめ、ワタシにマホウをかけて・・・!





眠り魔法か。ルーガルの奴、オレたちを眠らせてこっそり出ていきやがった!





え、え、どういうこと?





ルーガルは、一人でリリーシカと戦うつもりだ。





ここまでみんなで来たのに? どうして?





自暴自棄になってるのかもしれない。負ける前提の戦いに、他の人を連れてはいかないだろう。昨日のヤムカの予想は、当たってるのかも・・・!


僕は立ちつくした。
ルーガルが、ジャハの壁の向こうに行ってしまっていたら?
あの壁を越えるのは、ルーガルの魔法頼みだ。僕たちでは追いかけることができない。もう止められない。



グージィ、ルーガルが起きたのに気づいたのはいつのことだ?





ナンジカンもマエかと! マドのソトはマっクラでしたから。





じゃあ・・・もうとっくにジャハに着いてるだろうな。





・・・追いかけよう。





結界の向こうだぜ。どうやって?





ヤムカの戦闘用人形は? 結界を壊せないか?





馬鹿か、物理攻撃で壊れる結界じゃ対魔物の役に立たねえだろうが。





コペ、結界を解除する魔法とか・・・





軍属魔法師に対抗するなんて一般人レベルじゃ無理!





軍属・・・そうか、政府があの結界を張ってるんだ・・・それなら・・・





ベシワク? どこ行く気だよ。





ジャハの前に、臨時の役所があったはずだ。





おいまさか。





結界を張ってる人がいるんだから、その人たちに話を通せばいい!


僕たちは馬車に乗り込んだ。
そして朝の町をジャハまでまっすぐに駆けた。



ははあ。ジャハを占拠する魔女を、あなた方が倒しに来た、と・・・。


約一時間後、僕たちは一人の軍人と面会していた。
"対ジャハの魔女"作戦本部長、マカスター少将だ。



この人、ここでいちばん偉いんだよな? よくあっさり会えたな。





臨時の役所だからね、何事も臨機応変に対応しなきゃ。拒否すれば長引くと思えば、会わざるを得ないよ。





粘る姿勢を見せれば、ってことか。





とはいえ、この先はどちらに転ぶか。上手く行けば話を聞いてもらえるし、悪ければ・・・





はっはっは、冗談でしょう。





・・・こんなふうになる。


少将は、馬鹿にしたようにニヤニヤ笑っている。



そんな戯言に耳は貸せませんね。だいたい、あなた、魔力なしでしょう?





それが何か?





壁の中に入ったところで何ができます? もしかして、自分で何を言ってるかわかってないんですかね。後ろの二人。早く彼を連れて帰ってくれませんか?


僕は思わずヤムカと顔を見合わせた。



えっ、あまりにも失礼すぎないか?





大陸じゃ、魔力なしは下に見られてるって言っただろ。これが普通だぞ。





ええ・・・本当に?





そもそも魔力なしが、人の目につくところを歩くものじゃない。





ええっ・・・





いっ、言わせておけない!


コペが身を乗り出した。
僕はそれを手で制した。



ベシワク!





失礼。僕はこの国の人間じゃないもので、風習を知らなくて。





おや、そうなのか。





ええ。南洋諸島連合を束ねるガトド島首長イルクの孫、ベシワクといいます。祖父のあとには僕がその座を継ぐことになっています。どうぞお見知りおきを。





・・・ガトド島の次期首長だと?





えっ、初耳。もっと早めに名乗れよ。


少将が姿勢を正した。なぜかついでにヤムカも。
一国の次期首長という立場は、あまり頻繁に利用するものじゃないけど、ひとまず耳を貸させたいときには便利だ。
南洋諸島は、ひとつひとつの島は小さくても、その全てを合わせた「連合」となれば決して小国じゃない。
実際は僕一人を侮辱したところで、大事にするには時間がかかるけどね。



島と大陸で文化が違うのは当たり前ですが、この国では予想以上に、魔力を持たない者に不利な政治が行われている様子。あなた方にはお気の毒です。





気の毒? なぜ?





僕がジャハを取り戻すからです。魔力なしの力で取り返した都に大きな顔で暮らすのは、羞恥心にとって挑戦でしょう。





馬鹿なことを。魔力なしがあの恐ろしい魔女に勝てるわけ・・・!


その恐ろしい魔女も、かつては魔力なしだったのだけど。
それはともかく、僕は少将に一礼して、背を向けた。



よい知らせを持って帰ります。それまでに、謝罪の言葉を用意しておかれますよう。





おまえ、ルーガルに似てきたか?





えっ、そう?





ほめてねえからな?





ていうかベシワク、王子様だったんだ。





うちの首長は世襲に限らないけどね。にしても、緊張で肩が凝ったよ。こういう口喧嘩はエイトウの方が向いてるんだよな・・・。


弟のエイトウがここにいたら、量も毒も、僕の三倍言っただろう。あいつ自身は魔力持ちだけど、あいつが首長になりたがってる島は住人のほとんどが魔力なしだ。
間接的に島民が馬鹿にされて、黙って聞き流す奴じゃない。



で、どうすんだ? あんなタンカ切って、もうあとに引けねえぞ。





うん、それでさ。結界張ってる軍属魔法師って、どこにいると思う?


