繰り返すけど、この部屋は二階だ。
とはいえ、ルーガルは魔法師だ。



ルーガル!


繰り返すけど、この部屋は二階だ。
とはいえ、ルーガルは魔法師だ。



飛行魔法?





ああ。君に用があって。





こんな時間に?





内密のことだ。ほかの二人が寝るまで待ちたかった。外に出られないか? 窓から連れて降りるから。





抱っこは嫌だってば。





問題ない。





さやかなる者、舞う者よ、
神秘と幸運もたらす者よ、
地にある我らと戯れよ、
深きかいなに受け入れよ。
――浮遊〈エカレヴォ〉


僕の体が宙に浮かんだ。ルーガルが手をつかんでくれたので、天井にぶつかることはなかったけど。



浮遊魔法だ。飛行魔法と違い、推進力はない。でも私が引っ張れば飛行魔法と変わらない。来たまえ。


ルーガルが壁を蹴った。手をつないだままの僕も、一緒に窓から飛び出した。



夜空を泳いでるみたいだね。





そのたとえで行くなら川岸はあそこだ。山裾の森なら邪魔は入らない。





それでルーガル、話って・・・


言いかけたときだ。
トン、と僕の後ろの木に手をつくようにして、ルーガルの影がおおいかぶさった。



るっ、ルーガル?


金色の瞳が、じっと僕を見る。視線で穴が開きそうだ。
というか、顔が近い。



よ、用って何・・・?





? 君に会うことそれ自体だが。





あの、それって・・・





君に興味があるんだ。ほかの二人がいないところで話したかった。迷惑か?





その、こんなところで・・・





確かにここは暗いな。君の顔がよく見えない。





荒らかなる者、くるめる者よ、
なんじは照らす、底なき闇夜。
――魔灯光〈イグニオ〉


光が浮かぶ。眼鏡をかけた顔が映し出される。
・・・確かにルーガルの顔だ。だけど。



・・・ルーガルは契約魔法師だ。しかも極度の面倒くさがりだ。灯りの魔法で呪文は唱えない。





・・・そうだっけ?





おまえは誰だ!?





忘れるなんて酷いな、自己紹介ならしたでしょう。初めて会ったあの夜に――


僕が剣を向けると、背の高い女は、眼鏡を外して微笑んだ。



私は、魔女リリーシカ!
大陸へようこそ、南洋の勇者さん?


