ちちち、と鳥が鳴くのどかな山道を、僕たち三人は下っていた。
僕とルーガル、そして道行きに加わったヤムカだ。
ちちち、と鳥が鳴くのどかな山道を、僕たち三人は下っていた。
僕とルーガル、そして道行きに加わったヤムカだ。



ベシワク、足は大丈夫かよ?





平気だよ、少しひねっただけだし。それに、ルーガルが痛みを消してくれたから。





ああうん、幻覚魔法でな・・・





セイシンにカンショウするマホウは、ハンザイです。





仕方ないだろう。山を下りるだけなら私が抱えて空を飛ぶと言ったのに、ベシワクが断ったのだから。





だって・・・


僕は、ルーガルをちらりと見た。
高い背に短い髪、体型を隠すローブのせいで、一見わかりづらいが、ルーガルは女の子だ。密着するとよくわかる。



・・・とにかく抱っこはダメです。





なぜだ。





なんでも!





なんか悪かったな。男のオレが飛行魔法使えなくってよ。





ヤムカ、僕何も言ってないよね!?


見透かされたようで、顔が熱くなる。
パタパタあおぎながら先を急ぐ。



おい、早足になるとまたつまづくぞ。





だいたい、ヤムカ、君はなぜここにいる? 商人宿に帰れ。





カエりませ~ん。べーだ。





オレも山のこっちに用があんだよ。盗賊騒ぎで商品の人形がすっかりダメになっちまった。ジャハの隣町のアトリエに、商品の補充に行きたいんだ。





それなら一人で行けばいいだろう。なぜ私たちについてくる。





つれねえな、一緒に行ったっていいだろうが。この辺なら何度も往復してる。道に詳しい奴がいた方が安心だろ?





ありがとう、ヤムカ。





おう。・・・まだ顔赤いぞ。


パタパタあおぎながら山道を歩く。
ようやく、ふもと町が見えてきた。



回復魔法の使い手がいればいいけど。





さもなきゃずっと幻覚魔法だからな!





ところでおまえら、先立つものはあるのか?


ふもと町に着くと、ヤムカが僕たちに尋ねた。お金の話だ。



当面の路銀ならあるけど・・・





これくらい大きな町なら医者がいるが、回復魔法は高くつくからな。金があるに越したことはねえ。ルーガルはどうだ?





現金は乏しいが、こんなものならある。





わー!!!





きゃー!!!


ヤムカが叫び、ルーガルの腕をつかんでローブの中に突っ込んだ。



突然叫ばないでほしい。





こっちだって突然ンなもんをローブのポケットから出さないでほしいよ!!! なんだそれ!!!





旅に出ると言ったら両親が、路銀の足しにくれたものだ。





こんなもんをポンと!? おまえの実家大富豪か!?





ダイフゴウ!? ごシュジン、ジギョウカクダイのちゃんす! クツでもナめてみませんか!?





おまえがやれ!!!





何富豪でもない一介の学者だ。ただ先祖代々宝石好きで、コレクションがたくさんある。これは先々代の家長が北方のギリキン王国で女王から下賜されたもの。





家宝級じゃねえか!





・・・ちらっ。





しまえしまえしまえ馬鹿!!!





はあ・・・ビビった。ってか、何があればただの平民が女王から宝石もらったりすんだよ。





研究分野の関係で、あちこちの相談に乗っていたらしいからな、先々代は。大陸じゅうを旅したらしい。・・・私の先祖とは思えないな。





ルーガルは、旅に出るのは初めてなんだ?





村から出るのも初めてだ。





ご両親は心配したのかもね。そもそもどうして旅に?





目的はない。私がいては巻き添えで村が焼け野原になりそうだったからな。故郷で死人が出るのは、さすがに嫌だ。





・・・!


ルーガルは、体内の魔結晶を狙われている。初めて会ったときに魔物に襲われたのも、そのせいだ。
同じことが故郷でも続いていたのだろう。
村のため一人で去る娘に、家宝級の宝石を手渡したのは、せめてもの親心だったのかもしれない。



いや焼野原って、何事だよ。





話すと長い。





んでこれ、路銀の足しにっていうと売り払うことになるが、本当にいいのか?





構わない。この辺りで買い取ってくれる宝石商を探すつもりだ。





はあ~・・・ついてくよ。ぼったくられちゃ寝覚めが悪いしな。店があるのはあっちだ。


と、ヤムカが右の道を指さす。当然、僕もついて行こうとするが、止められた。



おまえは休んでろ!





えっ、でも――





おまえ、足くじいてるんだって! 幻覚魔法でごまかしてるだけで、足に負担かけてること忘れんなよ。





その幻覚魔法もそろそろ切れる。足を引きずって歩くのは嫌だろう。





そこにスワってマってなさい!





わ、わかった。いってらっしゃい・・・


僕は仕方なく、道端の木箱に腰かけた。
一人だけ休憩するのは、居心地が悪いけど・・・。



スナオでよろしい!





あ。グージィ、おまえも留守番な。





えっ!!


どうやら一人ではないらしい。
