14 突撃!突貫交渉人 その4



ふむぅ。鼻は少しだけ左に。





――――





ロバート、いる~?






これ……わたし……?


まるで鏡を見ているよう。小屋を訪れたビエネッタを迎えたのは、姿かたち寸分たがわぬ人形。



ビエネッタか。も少し待ってろ。あと少しで完成する。





ロバートのお仕事って初めて見たけど、なんかほんとすごいのね……?





人形遣いって言うから、手乗りのぬいぐるみとかそういうの作るのかと思ってたのに。


こういうのとか
こういうのとか



ちっこい人形も作るさ。正直そっちの方が性に合ってるかもしれない。





けど、今回はこっちじゃなきゃ、な。






よく出来てるのね……


白磁の肌に、内側から光るようにほのかに差す赤み。もちっとした肌の表面を軽く押すと、想定より固めの感触。そこで初めて、人との違いを感じる。
背中からは、無数の極細の糸が生えている。これで人形を操作するのだろう。
ふに
ふに ゴツン



思ったより中が硬い……





だろう? 剛性がかなり強い材料を使ってる。





この人形に、君の代わりを務めてもらう。近々家で儀式があるんだろ?





え? でもわたしじゃなきゃ無理よ。神託を聞かなきゃいけないんだもの。





だから、適当なお告げをしてやるのさ。馬鹿馬鹿しいやつをね。





失敗しちゃうわ!





その通り。





怒られちゃうわ!





そしたら? 君の親は殴るだろう。この人形を。





カッチカチだ。アッハハ!





そしたら少しは反省するだろうさ。君に辛いことばっかりさせる連中もね。





カッチカチ……うふ、ふふっ……


ツボにはまる。さざなみのごとく肩を震わし。笑顔などあまりの見られない彼の、珍しい姿だった。



ロバートってすごい作戦立てるのね?





くく、根が性悪なんでね……悪巧みなら任せてくれよ。





ここはアバラヤ。





まあ。喋るのね。





もちろんさ。声もだいぶ似せたつもりだが、どうかな?





そうね、似てると思うわ。





ア ア ア 晴天。





も~~~! でも全然ダメダメじゃない!





期日までに物にするから任せとけって。





ほんとにぃ~?





アバッ アバラヤ


なんとかの一つ覚えである!



ふぅむなかなか趣のある屋敷じゃの……





ジロ





ジロジロ


ジロ ジロ



ムフー―





あまり視線をさまよわせませぬよう……





ビクーン!





は、ハフ。驚いた……これ、貴賓を驚かせるでない……





この屋敷には数多くの神秘が眠っております故。いたずらに踏み込めば、戻っては来れぬでしょう――





ビクビクーーー


キンバリー家。占いの分野で、その道の人々から絶大な信頼を誇る古の一族。今宵もさる高貴なお方が、その霊験にあやかろうと屋敷の門を叩く――



さ。こちらでございます。お客様。





お客様って……余は物見遊山で来た者じゃないんだぞ。今回の占いと、余の行動如何で世の中が大きく動く、そういうたぐいの、ブツブツ……


たどり着いた、両開きの扉。



わたくしはここまで。





中に巫女が控えております故、あとは彼女にお任せを。





疑いと雑念を捨て、全てを委ねてください。さすれば、たどり着きましょう。





……ゴクリ。


茶の間。



またまたおかしな部屋に出たが……





ここは神の遊び場。





ムッ





当代の巫女、ビエネッタ・キンバリーにございます。





お客様の願いをどうぞ。





そ、そうじゃの。





余は次なる選挙にて確実に当選しなくてはならない。





近々行われる大改革。詳しくは言えぬが、余もそれに大いに貢献せねばならぬ。





そのためにはまず当選しなければならんからな……確実に当選する道を、頼むぞ。






なんじゃその顔は。いかような願いであっても叶えると、先方は申しておったぞ。





無論でございます。





では――


周りがにわかに暗くなる。



!





ダイコン。





は?





ダイコンを……風呂釜で漬け込むのです。





は?





いや、何の話? 選挙どこ?選挙とは?え?





お静かに。心を揺らしてはなりませぬ。





全てに意味があり、全てが神託なのです。





一つ一つの意味を測れなくとも、必ずそれは、大いなる目的に集うもの。





……ゴクッ





そして漬け込むこと十日間。次の満月の夜にて。





熊の皮を身にまとい火を囲んで踊るのです。





う……





う……?





ウホウホ ウホウホ



どうしたら良いのという顔。



暗黒ミサがたけなわなになった頃、生えてきたたけのこを、





もうよい!!





黙って聞いておれば世迷い言ばかり。余をからかうのを大概にしろ!





この報いは必ずさせてやるぞ……!


鼻息荒く、立ち去る依頼主。
なんという体たらく。これが噂に名高いキンバリー家の占いの実態だと言うのか……!?
続く
