突撃!突貫交渉人 その3



…………





・ ・ ・


両手を広げると、隠された短剣がバネのごとく飛び出し手に収まる。



まずはお手並み拝見だ。用心したまえよビエネッタ君。





行きます。


様子見だけで戦には勝てぬ。覚悟を決めたら、駆ける、のみ!
岩すら斬り裂かんばかりの重量級の一撃を、ナイフで受け止められる。なんという筋肉か。――いや、うまく力を流したのだ。
ビエネッタの姿勢が傾ぐ。
そこに畳み掛けるように斬撃の嵐! 姿勢を崩したビエネッタに避けることはできない――いやこれは! 不安定な状態でわざと倒れ込むことで回避を果たした。
そして地に手を付き強烈な蹴りをお見舞する。死角からの蹴り上げにたまらず体を浮かす御者。



!





!


姿勢を回復させた二人が相手に斬りかかるタイミングは……同時! 再びの鍔迫り合い。



速さと、重さだけ……だな。





!


気味の悪いステップを踏んだかと思うと、気づけば眼前に! 視線を騙す高等技術!



ーー!





ビエネッタ君……!


先に攻撃が入ったのは、御者の一撃。腕を浅く切り裂かれてしまった。



悲鳴一つ上げんのは……見上げたものだがな。





速さと重さだけだと? 言ってくれる……





確かにビエネッタ君が持つ戦闘能力は、ど素人の僕が盛り込んだもの。





雑な言い方をすれば人間離れした筋力と、痛みを無視できる加速力くらいしか取り柄はない。





本物の達人には敵わないというのか……!





……





まだありますよ、取り柄は。





懲りずに突撃か。よかろう、切り刻んでやる!





……!……!


必死に耐えるが、右から左から変化自在の攻撃に受けるだけで精一杯だ。



!!


ついには剣を取り落とし……
落とした剣の柄を、自ら踏み込み橋床に突き刺した! !? これでは使えぬ――



ぐほぁ……!


なんと……! 突き刺した剣を軸に、体ごとぶんまわしドロップキックを決めたのだ! 剣より遥かに長いリーチに惑わされ、もろに脇腹をえぐられる御者。



がかっごぽっ……ありえねえ……重さ……なんだその体!?





ふふん、ビエネッタ君は、そこの馬の3倍くらいは体重がある。なめてかかると……火傷するよ。





体の重さが火を起こす?





それは知りませんでした。今度ファンバルカ様に乗っかり、お試しても?





むろん、よろしくない。





始末してやる……!


軽やかなナイフの舞いを、剣で、はたまた足で、全身を使って暴力的に弾き返す。



……?


小さな違和感。



さっきに比べて、敵の攻撃が手ぬるくないか? 流石に疲労……?


その答えは、瞬時に判明する――!



!?


踏 み 抜 い た !!
重量級のビエネッタの体が、橋板を貫通し体半ばまでめり込む……! 度重なる負荷に、ついに橋が限界を迎えたのだ。橋の上で戦うなど、そもそもが不利だったのだ!



フンッ


それを待っていたとばかり迫る御者。いけない、ビエネッタは身動きが取れない!



―――!





ビエネッタ君!!





ここでわたくしが倒されれば? 次はファンバルカ様でしょう。





ファンバルカ様にこの暴力をくぐり抜けることはできない。――ならば。





――ファンバルカ様! 「お任せください」!!


逡巡、それは瞬きほど。



「任せた」!!


言葉が宙を漂うのと同時、ビエネッタは踏み抜いた穴にはまったまま、むちゃくちゃに暴れだした!



……!?


ああ、ああそんなことをすれば更に穴に深くはまってしまう。さすがの御者も距離を取り様子を――
様子見などしてはいけなかったのだ……!
彼女は、穴から這い出す努力などしなかった。ただ、その穴を広げたのだ。戦いがうやむやになるくらい、ひどく大きくて雑な穴を。
――すなわち。



おい、おい、おい! 傾いとる……!





何を考えてるんだーー!?





ウォォォォォォーーーーーーーーーー!


落ちる! ドネル伯も御者も、ハウスも。ファンバルカもビエネッタも等しく……! 敵も味方もなく眼下の川にめがけて落下する!



想定外ーーーーー!? 失敗だったかな――――!?





お任せいただけたのではないのですか。





所詮その程度の信頼でしたか。





あれっ責められてる……!? 僕の方がおかしい世界線……!?





お任せくださいと、そう申し上げたはず。


両腕で、しっかりとファンバルカを抱きしめる。



……!


そのままもろともに、落下する――!
続く
