09 抗争鎮圧作戦 その4



――――





フッ





!


空気さえも切り裂くようなビエネッタの斬撃を、難なくかわす。破壊的な威力を持つその攻撃も、当たらなければ意味がない!



技巧も何も感じられぬ単純動作。





命を持たぬウツロな存在。自由に動くとは驚きよ。……始めはそう思ったが。





つついてみれば自動反応と単純な繰り返しのみ。やはりくだらぬコダマの類か?





ビエネッタ君を舐めるなよ……!


火を伴うが如く苛烈な大振り!



児戯!


……は、いともなく避けられ。



ォオォォォォォ―――!


急制動、そして弾丸のごとく飛び込む……!
その無防備な首筋を噛み切らんと肉薄。ああ、絶体絶命……!



GUAAAAAAAAAAAAA!?





―――――


大振りの反動による硬直から、瞬時に切り返してきた! 信じられぬ身体能力。
否、その硬直こそ誘い。反撃を狙った、カウンターの呼吸だったのだ。



なるほど……姑息な小技は身につけているようだな。





だ・が・その程度?





その程度で、我に喧嘩を売った?





後悔するがいい。





見えぬ。貴様にはもう何も。





次に気づくのは、己の死。


・ ・ ・
見えぬ! 姿が……!
おぼろげに輪郭が二重に三重にぶれた、気がした。そして次の瞬間には――その姿はかき消えていたのだ。



なにぃ……どこに行っ





ファンバルカ様!





むグぅ


思わずファンバルカを吹き飛ばす。突然の事に抗議の声をあげようと息を吸い込むも、
火の玉が、通り抜けた。先程までファンバルカが立っていた場所を。



ゾッ……!





今のは……危なかった……


追撃……!



おっと、今度は僕にも見える……!





隠れようビエネッタ君! やつがどこから攻撃しているか見えぬ以上、隠れて出方を伺うしかない。





承知しました。


貯蔵用の樽はいくらか壊されてしまったが、まだ残っている。身を隠すには十分だ。
視線を塞ぎ、樽の後ろを移動する。



これで僕らがどの位置にいるか特定できまい。次は――





だめです。





うん? だめとはなんだ。僕の完璧な計画に穴など





うわた~~~~!!?


開いた……! 大穴が!!



はあ、はあ……





やはり、見えている……な!


可視光。それはエネルギーとして受け取れる波のうち、ごく一部に過ぎない。
もし、その範囲を遥かに超えて制御することが可能なら。それはこの世ならざるものすらも、知覚することを可能とする……!



そして、君に何度も火の玉を打たせたのには理由があったのさ!


部屋を囲うように張り巡らされた紐。いつの間に……! 樽の後ろを駆け回っていたのはこのため!



! なにか触れた感触があった。そこだ……!





くだらぬ小細工を……!


たまらず姿を現す魔犬。その体には紐がからみついている。



オッホ、触覚に影響のないタイプの变化で助かった。





こんなもの、足止めにしかならぬわ。


自ら火に包まれる! 紐を焼き引きちぎるつもりか……!



その一瞬が、欲しかったんだなあ……!





――!





ぐお、貴様、あがっ


残像が見えるかという勢いで飛び込んだビエネッタが魔物に組み付く。当然魔物は逃れようともがくが、いかな怪力か、その腕まるで外すことが叶わない。
振り上げた拳を――



は……打つか? 我を? そんな不自然姿勢から殴ったところで痛くもなんとも……


忘れたか。彼女は人形である。人の、筋肉の構造にはとらわれない。



ギェェェェェェEeeeeeeeeee!!


肘から火炎と煙が噴射される。爆薬の推進力を得たそれは、そのまま腕が発射されたか如き勢いを持って魔物を貫いた。



ゴホッ……ボッ……


勢いは失われず、そのまま壁に激突。ボキボキと嫌な音がする。
息も絶え絶え、急速に生が失われていくその体に近づく影。



うふふふふ……





それでは敗者よ。君の能力をもらっていくよ……





ハァ、ハ……能力だ……と……?





君の、見えないものを見る能力。姿を見えなくする能力。





そいつをぜひ頂きたいね……! 目かな!?脳かな!? 心臓かな……!?





ぐおっぎゃっやめ、ヤメロ……!





ヤメロ!……ごぽっ……むちゃくちゃすぎる……!臓器を奪えば能力が奪えるとでも





駄目かな? そしたら、次に行くさ。





成功するまで何度だって試してあげるよヒヒヒーーーー!





ぎょぼッ この、こここ。この、あく、ま、あくま


続く
