08 抗争鎮圧作戦 その3
ガヤガヤ
ガヤガヤ



呼びたてたのは他でもない。あの鉱山の話だ。





わたしの領土で発見された鉱脈ですね。当然、わたしの裁量で採掘を進めていますが、それが何か?





ぬけぬけと……


途端、一方の男の印象が豹変する。ギラリと相手をにらみ、射殺さんばかりだ。



あの鉱山はもともと、隣接する我が領地のものだ。それを貴殿が強引に自領地から穴を開けて入り口を増やし、自分のものだと主張した。





許されると思うな……!





フフッフッ……





勘違いがあるようですねぇ……あの鉱山の採掘はきちんと市に申請したもの。それが通っている以上、あなたの意見は言いがかりに過ぎない。





…………





おとなしく譲歩しておけばよいものを……





あくまで自分のものだと。そう言うわけか?





欲をかくからすべてを失うのだ。





!





ゆけ。その男を消せ。





……


両手に鋭いナイフ。気配が只者ではない。暗殺者か……!?



おお怖い。力づくでなんとかしようと言うのですか? 野蛮な。





のこのこと僻地にやってきた自分の愚かさを恨むのだな。





さあ、頼んだぞ。





いいだろう――


男はゆらりと武器を構え――




―― ・ ・ ―――


地に伏したのは暗殺者の男の方――!
尋常でない血の量、これで生きていてはいけないと瞬時に思う――



!?





おほっほっ! わたしがなんの準備もしていないわけがないでしょう!





死ぬのはあなたの方!





フシッ フシッ フシフォーーーー====!!


黒い影が横切ったかと思うと……
現れたのは魔! ささくれだった唇からは鋭すぎる牙が覗き。地獄の煙を吹き出しつつ低く鳴動するようにブレる姿。
ああ、やはり。先程一瞬見えた姿は見間違いではなかったのだ。あまりに速い疾走が男の命を奪った……!



まっ魔物!?





馬鹿な! なんで魔物がお前ごときに付き従ってるんだ!?





これはひどい言われようだ! 我が一族に伝わる秘薬を持ってすれば、獰猛な魔物といえど、操るなどわけないこと。





だいたい、敵を屠るのにプロの暗殺者? 古い古い! オジサマの想像力では、それが限界でしょうなあ!





さあて立場が逆転しましたな。覚悟は良いですかバーナード殿!


大樽の後ろから、様子をうかがう二人。



ちょっとまずいなこれは。





年配の方がやられそうですね。そちらに加担しますか?





いや、そういう問題じゃない――





さっきの男のセリフではないが、魔物がなぜあんな奴に従っているのか。





秘薬で従えた? ――フン、そんなもののお陰では、決してない。





魔物はしたたかだ。簡単に思い通りにはならない。それなのにおとなしくしているとしたらそれは――





……単に都合がいいからだ。





気をつけろビエネッタ君。ここはもう、あの魔物の場だ。些細なきっかけで、血の海に変わるかもしれない。





仲裁どころの話ではありませんね。





では、いつでも飛び出せるよう準備を――


その瞬間である。



――――――





ギligueグゲeeeeeeeeeeeeOo##&!!――――――


魔界の犬は、まっすぐにこちらを睨めつけると、



――――!!?


恐ろしい衝撃がファンバルカたちの隠れ場所めがけて放たれた。壁にしていた樽は吹き飛ばされ、余波を食らい3歩も4歩ものけぞらされる。



な、何者だお前ら!





は? あ? ひ、潜んでいたのか……!?





見つかってしまいました!





ググッグッ……





面白き波動を感じさせるモノ……





食ろうて我が糧としてやろうぞ……


その視線の向かう先は……!



――――!





ひ、ひい、しゃべった!





ど、どういうことだ? 薬が効いているんだぞ。なんで勝手に行動する……おい、俺に従え!





邪魔だ。





ギャウ!


ぞんざいな蹴りで吹き飛ばされる。



では食事の時間だ。





お気をつけくださいファンバルカ様!





はは、は……!





ひひ、ヒヒヒッイヒーーーーー!


けたたましく、笑う!



見つけたぞビエネッタ君! 場を展開しろ!





拝命しました。


脇腹の蓋を開け、秘密の収納庫から取り出した球を放る。パシャン、と地にぶつかり砕けたそれに、指先の傷口から垂らす液体。そう、ビオラ=エイルを一滴二滴――



……!?


駆け出した魔物の足が止まる!



なんだこの空間は……





奇々。怪。


周りを見渡すも、先程まで争っていた貴族共の姿もない。そこには、ファンバルカ達と魔物のみ。



我をどこに連れ去った!?





興奮物質に作用し、体感速度を無限に引き伸ばした。……有り体に言えば、幻覚を見せられているのさ、君は。





もっとも魔物に長く効くとも思えないが、それで十分。





小賢しい真似を……そこの疑似生命といい、たくさんの手品を持っていそうだな?





全部食らってやるからありがたく思うの……だな!





はは、は……





その言葉。面白すぎるね……!


牙を剥く二人――!
続く
