グレータは、今年で12歳。
グレータは、今年で12歳。
今まで色々あったので、少し冷めていて大人びたところはあったが、グレータはまだまだ子供だ。
それでも女の子だから、恋には憧れがあったし、いつか私もと心の中で思っていた。
でも家は貧乏だったし、何より新しい母親が自分のことを嫌っていたから、それどころじゃなかった。
なんなら適当な相手を見つけて、早く家を出たいとすら思っていた。
過去、それっぽいことといえば幼馴染の男の子が幼いころ『いつか嫁にもらってやるよ』と言ってきたことぐらいだ。
ちなみにその時、グレータは上から目線がムカついたので思いっきり殴り倒してそれで終わった。
そんな具合だったから。レオからの突然の告白に対応できるほど、グレータには経験なんてなかった。
レオにとっては私は数日一緒に暮らしてきた相手かもしれないけど、私にとっては人間のレオは初対面とほぼ変わらないのにあんな事言われても……
しかも馬の姿で！
グレータ？大丈夫？
そう言ってルルーがそっとグレータの部屋に入ってきた。
グレータがパニックになって部屋に閉じこもった後、みんな流石にグレータを追い込みすぎたと反省して、少し時間を空けてからまた声をかけたのだ。
グレータは、今度もベッドの中でシーツにくるまって、固まっていた。
わ、私は怒ってるんだからね！
うん、ごめんね
ルルーだって私に嘘ついて！……言ってくれてもいいのに……
そうだね……
ついでに謝っておくと、前にお化けが出るって言ってたけど。あれもレオだったの。ずっと猫でいるわけにもいかなくて、お風呂入ったり食事も足りない分は真夜中に人間になって、おばあちゃんの部屋で過ごしてたのよ。多分グレータが聞いた物音はレオだと思うわ
その言葉に、グレータはガバリと起き上がる。
酷い！私、本当に怖かったのに！
うん、本当にごめんね
だ……だいたいどう言うことなの？レオは猫の時、あんなに私を避けてたのにいきなり……あ、あんなこと言い出すなんて……
あんなこと突然言われる意味がわからない。
レオが猫だった頃を思い出しても好かれる事をした覚えがない、むしろ嫌がられていたのに。
もしかして、私のことからかってるの？
うーん、レオは別にからかってるわけじゃないと思うよ。
まあ、長年一緒に暮らしてた私もあの告白はびっくりしたけど……
しかも馬の姿で言うことないのに……
ぶは！！
ル、ルルー笑うことないじゃない。私にとっては一大事なんだから！
ご、ごめん。でも思い出したら面白くなってきた……う、馬が女の子に告白してるところはなかなか見れないもん
もう！知らない！
グレータはまた真っ赤になって、またシーツにくるまると、亀のように固まってしまった。
あ〜……ごめんね。レオは昔、色々あってちょっと常識とはズレてるところがあって……
ちょっと暴走しちゃったんだと思うの
ちょ、ちょっとどころじゃないわよ！
そうだ。レオの不幸自慢を、教えてあげようか？
ルルーはなだめるようにグレータの頭を撫でると、ベッドの縁に座りそう言った。
……不幸自慢？
前に魔女や魔法使いは生まれてすぐに捨てられたりして、数が減ってるって言ったでしょ？実はレオも例にもれずに親に捨てられてここに来たの
そう……なの？
そういえばグレータはレオの過去のことを全く知らない。
猫だと思っていたから、気にもしていなかった。
そう、しかもレオが不幸だったのはレオは魔法が使えると分かったのが少し遅かったことなの
レオも言っていたけどレオはかなり位の高い貴族の家に嫡男として産まれたの。
それはもう目に入れても痛くないほどに愛されて暮らしていたらしいわ
でもレオが3歳になった頃。初めて猫を見たレオは無意識に猫に変身してしまったの
当時の事はうろ覚えみたいなんだけど、レオは無邪気に変身できたことが嬉しくって親に言ったの
だけど親にしてみたら息子がいきなり猫になって、わけがわからなかったんだと思うわ。しかも地位も名誉もある家柄だったから、こんなこと世間に知られるわけにはいかない
恐ろしくなったレオの親はレオが悪魔に取り憑かれたんだと言って、地下牢に閉じ込めてしまった。身近に魔女や魔法使いがいればレオは魔法使いで魔法で変身しているんだってわかったんだけどね……
そして母親はレオを拒絶し、父親はあろうことか悪魔を払う為だって言ってレオを何度も鞭で打ったの
そんな……鞭打ちって……
そう……しかもまだレオは3歳だったのに……
そんな……
しかも鞭でいくら打ったところでレオが変身したのは、レオの魔法が原因だからどうにもならない
レオもあんなに優しかった親にいきなり鞭打ちをされてパニックになって魔法を解くこともできなかった。最後にはレオはボロボロにされて、動けなくなったら森に捨てられてしまったの
おばあちゃんが見つけた時は身体中傷だらけで、しかも木に縛り付けられていて逃げることも出来ない状況だった。見つけるのが遅かったら肉食獣に食べられて死んでいたわ
……
おばあちゃんはレオを連れて帰って治療をした
でも体の傷は治ってもレオの心の傷はなかなか治らなかった
一番信頼していた人に酷い目に合わされて捨てられたんだもの、赤の他人を簡単には信用できないわよね。
ずっと私たちのことも警戒していて、まともに話すこともできなかった。しばらくは猫の姿で、さっきのグレータみたいに籠の中で丸まってたのよ
……
グレータは何も言えなくなる、想像しただけでも恐ろしい過去だった。
レオが人見知りなのはこういう訳あったの。優しかった親にあんなことされてしまって、人をそう簡単に信用出来なくなってしまったのよ
おばあちゃんと私にも慣れて、信用してもらえるまでかなり時間がかかったしね。だからレオがグレータに自分から正体を表して、しかも好きだよなんて言うなんて意外だったのよ……
だからレオを責めないであげて、文句なら私が聞くし、レオにはもうグレータを驚かすようなことを言わないでって、言っておくから
……
そこまで言われたら、グレータも何も言えなくなる。
それでも素直になれなくて黙っていると、ルルーが思い出したように言いました。
そうだ、話は変わるけど家出の話……
あ……
1人で家を出るなんて、絶対駄目ですからね
で、でも。春には出て行くって約束だったし……
私がいてもあんまり役に立たないじゃん
何言っても駄目
でも……
前に言ったと思うけど、この家は魔女や魔法使いが修行するためにあった家なの。魔女や魔法使いのタマゴはここで魔法使いや魔法使いの弟子になって、一人前の魔法使いや魔女になると決まっているの
……あ……もしかして……
そう、グレータが魔女だと分かった今、これからここでグレータは一人前の魔女になるために修行をしてもらいます。師匠は私ね。一人前の魔女になれるまで、家を出ることは許しません
……修行
今度から私のことは師匠と呼ぶように
そんな訳だから、グレータには春以降もずっとここで暮らしてもらいます。これは魔女としての義務ですから！
ルルーはグレータの頭をくしゃくしゃに撫でる。
じゃあ、そろそろ夕食だよ。レオも反省してたし、変なことは言わないと思うから、行こう？
うん！
そう言ったグレータの声には、もう暗い色はなかった。
