閉じこもってしまったグレータを心配しながら、ルルーはドアをノックする。
しかし、部屋からは何の返事もない。



グレータ?大丈夫?


閉じこもってしまったグレータを心配しながら、ルルーはドアをノックする。
しかし、部屋からは何の返事もない。



……まあ、色々ショックだっただろうし、もう少しそっとしておこうか……


一度にあんなに沢山の事実を聞かされたのだ、パニックになっても仕方がない。
もしルルーが同じ立場でも、同じことになっていただろう。
一方、グレータはベッドの中でシーツにくるまり、亀のように丸まり固まっていた。



うう……


朝、目が覚めてから知らされた事実はそう簡単に飲み込めるものじゃなかった。
自分が実は魔女だったというだけでも驚きなのに。レオがイケメンで人間で魔法使いとか……
正直、レオが手を握って色々言っていた意味もわからなかった。



う……うう……せめてもうちょっと小出しにしてくれれば………





……いきなり魔女とか言われてもな……


今までそんなこととは無縁の生活をしてきたのだ、むしろルルーに会うまで本当に魔女がいることさえ知らなかった。



魔法の仕組みもよく知らないのに、どうしたら……





それに、レオのこと……
頭のいい猫だし普通の猫とは違うとは思ってたけど……





でも、魔女が飼ってる猫だしそんなものなのかと……





それが実は人間で、あんな綺麗な顔をした男の子だったなんて





あれは、無理だよ……


グレータは特に人見知りなわけではないが、一応女の子だ。
この家に来てから自分が喋った事をあんなイケメンに聞かれていたと思うと、全身がみるみる真っ赤になる。
ルルーは年上で、ヘルフリートは兄妹だ。
グレータはその関係に甘えて、暴言を吐いていたところがあった。
女心は複雑なもので、同年代のしかも男の子にはそういう姿はあまり見られたくないものだ。



そういえば昨日、どや顔で男女関係の事をレオに話してた…………





うわ〜〜〜〜バカバカ!〜〜〜〜私のバカーーーー!!!


グレータはシーツにくるまったままベッドの上を転げ回る。
その他にも、きっとわからないだろうと思っていた数々の独り言を思い出してプルプルと震える。
穴があったら入りたい、いやむしろできることなら今すぐにでも家出したいとグレータは思った。
もちろん1人で。



うう……だめだ、落ち着いて。頭を整理しよう……





……





っ……だめだ!どうしてもレオの顔を思い出して落ち着けない!


そうして無駄に時間が経っていく。
そうすると今度はお腹もすいてきてグレータはだんだん腹が立ってきた。



よく考えたらルルーもレオも酷いよ。ずっと人間だって黙ってるなんて。
話してくれても怒ったりしないのに……





それとも猫だと思って話しかけてた私を陰で笑っていたの……?





知ってたら、あんな変な独り言とか変な鼻歌を言ったりしなかった!





私、一人でバカみたい……





そもそもレオの顔が綺麗すぎるのよ!綺麗すぎて直視できなかったもん!
肌は陶器みたいにすべすべだし、髪の毛は光っているのかと思うぐらいキラキラだったし、あんな綺麗な白銀見たことない!
まつ毛も長くて目も大きくて、女の私よりよっぽど綺麗ってどういうこと!





あんなにかっこよくなかったらここまで恥ずかしくなかったのに!


グレータがそんな理不尽な考えに至っていた時、部屋のドアがまたノックされた。



グレータ?お腹すかない?何か食べた方がいいわよ?


ルルーのその言葉にグレータのお腹がグーっと鳴った。
時間はもうすぐお昼になろうとしていた。
街で暮らしていた時は貧乏で、1日一食しか食べれないこともあった、だから一食くらい抜いても大丈夫だったのに、ここで生活し始めてからはあっと言う間にお腹がすくようになった。



……もう!こんな時なのにお腹は空くなんて!





気まずいけど……出るか……


我慢しきれなくてレータは渋々、ベッドから出た。
ドアを開ける。



良かった、お昼はグレータの好きなシチューだよ。みんなで食べよう





う……うん…………


時間を置いたお陰か、朝よりは気持ちは落ち着いてきていた。
それでも、すこし気まずい気持ちをかかえながら、グレータはテーブルについた。



グレータ、大丈夫か?





う、うん


その時、向かいにいたレオと目が合う。
レオは当然のように人間の姿で、何年もそこにいましたとでも言うように座っていた。
しかし、よく考えたらグレータたちが来るまで、ずっとそうやって座っていたのだから、当たり前だ。



……





……!!


じっと見つめられて、グレータは慌てて目を逸らした。
やっぱりまだ気恥ずかしい。



はい、グレータ。シチューよ





い、いただきます……


ルルーが作る食事は相変わらず美味しかった、ルルーが言った通り大好物のシチューは具もたくさんであっという間にお腹がいっぱいになる。



美味しかった……
気持ちも少し落ち着いてきたかも……





もう終わった事を考えてもしかたない……
そうだ私が魔女だってことをもっと考えないと……





そういえばグレータ、足をくじいたの腫れてない?なんだかうやむやになって、ちゃんと確認してなかったわ





あ、そういえばそうだった……忘れてた





まあ、歩いたり走ったりしてたし大丈夫だと思うけど、一応みてみるね


グレータも自分で動かしたり歩いてみた。
一晩寝たのも良かったのか少し痛みはあるが歩くのに支障はなかった。



ちょっと痛いけど、それくらいだよ





じゃあ、念のために冷やすために湿布をしておきましょう


ルルーはそう言って、薬草を擦って作ったものを、くじいたところに貼り付けて包帯を巻いてくれた。



ちょっと、大げさじゃないかな……


さっきから手取り足取り世話されて、なんだか幼い子供に戻ったみたいでグレータは照れる。
そう思うとなんだかさっき子供みたいに叫んでしまったことが、逆に恥ずかしくなってきた。



やっと落ち着いてきたみたいね。良かった……





まあ、なんにせよグレータが無事で良かったよ





昨日グレータが帰って来た時は驚いたよ。気を失ってるしなにがあったのかわからないし……





妹が魔女だなんてきいて、まだちょっと複雑だけど……





それより問題はグレータとレオの関係だ!





恋人なのか?いつの間にそんな関係になったんだ、俺はまだ認めんぞ





だ、だから違うって!レオとは別にそんな関係じゃないし。あれはな、なんていうか言葉のあやっていうか、そもそもそういう意味じゃないし





わ、私は猫のレオに言っただけで……そ、その、か、駆け落ちとか全然そんなつもり……





え?駆け落ちしないの?





あ、当たり前でしょ!こ、この状況で駆け落ちなんてできるわけない……っていうか私は猫だと思ってたから言ったのであって、人間のレオに言ったんじゃないの!





どっちも僕なのに





で、でも私はし、知らなかったし……





まあ、レオはかなりのイケメンだから気持ちはわかるが、顔だけで選ぶとろくなことがないぞ。お兄ちゃんくらい中身も外見もいいならいいが。男は慎重にえらべよ





だ、だから。ち、違うって!





レ、レオもちゃんと否定してよ。それに顔だけとか言われてるんだから、言い返しておかなきゃダメでしょ





僕はグレータの顔好きだよ





そ!そう言うことは言ってないでしょ!!!……そ、それにす、好きとか……





じゃあ、グレータはどんな人がタイプなの?





……う


真面目な顔で聞くレオにグレータは言葉を詰まらせる。



そういえばグレータのそう言う話は聞いたことないわね、私も気になるわ





そ、それは……ええっと……


全員に注目されてグレータは焦る、今までそんなこと考えたことがなかったのだ。



!………わ、私は。そのもっと強そうで、私の言うこと何でも聞いてくれて……えっと……あと……なんていうかお金も地位も権力もあって。……それでもって……えっと……





白馬の王子様みたいな感じの人がいいの!


グレータはとりあえず、この場をやり過ごすために適当な男性像を口にする。
なんだかゲスい我儘女みたいな感じになったが、グレータは必死だった。流石にここまで言ったらレオも流石に引くだろう。



あ、そうなんだ。じゃあこれでどう?





え?……うわーー!





これでどうかな?王子様ではないけど、実はこれでも昔は貴族だったんだよ





グレータ好きだよ。僕の恋人になってください





っ……っっっ!!!





きゃー、こらレオ!こんなところで、馬に変身するのはやめなさい!





ギャー!


馬は結構大きい、テーブルはひっくり返って周りにいた人間は、パニックにおちいる。



わ、私が言ったのは白馬に乗った王子様であって、白馬そのものじゃない!





もう知らない!!!


そしてまたもやいっぱいいっぱいになったグレータは、叫びながらもう一度部屋に駆け込んで、閉じこもってしまった。
