ヘルフリートの言葉に、ルルーは固まる。



え?


ヘルフリートの言葉に、ルルーは固まる。



ちょ、ちょっと待ってよ


ルルーは慌ててヘルフリートから離れる。
いつもの冗談かと思ってヘルフリートの顔を見たが、いつものヘラヘラした雰囲気はない。
ヘルフリートは真剣な表情だ。



あ、あの……ヘルフリート?





……ごめん、春には俺たち出て行くのに。こんなこと言うなんて迷惑なのは、わかってたんだけど





近くにいると意識してしまうし、二人きりになるとひどいことをしてしまいそうだった。だから距離を置いてた……





え……っと、いうことは?私のことは嫌いじゃ無いの?





うん。ごめん、本気で好きになってしまった





す……き?……え?……え?……あ


ルルーはヘルフリートがこの家に来るまで、同年代の男性とは喋ったこともない。もちろん恋なんてもってのほかだ。
それなのにいきなり好きだなんて言われても、ルルーには想定外すぎてどうすればいいかわからなかった。



え、あの、あの……





ルルー……


なんとか状況を飲み込もうとしたが、混乱は増すばかりで収拾がつかない。
そうしているうちにヘルフリートがこちらに近づいてきた。



!!ご、ごめんなさい!!


ルルーはパニックになり、そう叫んで逃げた。



ルルー!


ルルーはそのまま真っ赤な顔のまま走って自分の部屋に逃げ込んだ。
そして勢いよくドアを閉じてそのまま閉じこもってしまった。



ど、どうしよう……


そう呟いたが、ルルーは何も思いつかなかった。
ルルーはそのまましばらく考えたが何も思い付かず。しばらく部屋に閉じこもっていた。



ルルーどうしたの?帰ってきてずっと閉じこもってるけど……





あ、グ、グレータ。その……なんでもないよ。あ!晩御飯つくるね





え?あ、うん。あ、ルルーもう台所に行っちゃった……
本当にどうしたんだろう?


ヘルフリートは何も言わず、グレータも突っ込んで聞くことができなかった。
ルルーはヘルフリートをそんな対象として意識したことがない。
もちろんヘルフリートのことは嫌いじゃない。
だけど恋をしたことも恋人がいたこともないルルーは、ヘルフリートに感じる気持ちがどういう種類の好きなのか判断できなかった。



ど、どうしよう。ヘルフリートになんて言ったらいいのかな……





いくら考えても、考えても何も思い付かない……


ルルーは迷い悩み、そうしているうちに時間が経ってしまいいつもの日常的にもどり始める。
そもそもヘルフリートはなにか答えを求めた訳でもない。
だからルルーは結局何も言えず時間だけが過ぎていった。
日常は元にもどったが、それでもルルーとヘルフリート間には確実に距離が開いてしまう。



何だかヘルフリートとルルーの様子がおかしい……





ルルー、ヘルフリートと何かあった?





え?な、何もないよ?ほ、本当だよ。
あ、私用事があったんだ。





あ、行っちゃった……お兄ちゃんにも聞いてみようか……





お兄ちゃん!ルルーと何かあった?





な、何もないよ。だ、大丈夫だから……あ、俺も仕事があるから……





あ、お兄ちゃんもどっか行っちゃった……





本当に何なんだろう……





うーん


そんな感じで数日が経った。
幸いなことに冬支度が佳境に入り、3人と一匹は毎日忙しく働かなくてはいけなくなったので気まずい空気はそこまで感じることはなかった。
そんなある日、グレータがおずおずとルルーに話しかけた。



ルルー今、大丈夫?





ん?どうしたの?


作業をしていたルルーは手を止めてそう言った。



うん?グレータどうしたんだ?


その時、ちょうど仕事が終わったヘルフリートが、部屋に入ってきた。



これ作ってみたの





何の薬??





この家に初めてきた日に、ルルーが魔法薬を作ろうとして、私たちのせいで落としちゃったじゃない。だから作ってみたの


ルルーが脅しに対抗しようとして駄目にしてしまった、カエルにする薬だ。あの時、材料を探しながら作り方を喋っていたのでグレータは覚えていたのだ。
グレータはさすがにあれは悪かったと思って、材料を集め、罪滅ぼしのつもりでこっそり1人で作っていた。



グレータが作ったの?





うん





凄い!見た目も匂いも完璧だよ





ルルーあの時はごめんね。色々脅して、しかも無理を言っちゃって……





グレータ……ありがとう





グレータすごいな、そんなのも作れるようになったんだな





も、もう。私は子供じゃないんだから、そんなに頭を撫でなくていいよ!もう!





グレータ本当にありがとう。材料集めるの大変だったでしょ?この薬本当に上手くできてるわ





へへへ





でも……実はこれは使えないの。ごめんなさい





……え?どう言うこと?





魔法薬は特にそうなんだけど……


ルルーは説明し始めた。
魔法薬を作るには色々な条件が必要なのだ、その一つが魔力だ。
しかしそれは素材集めの時から魔力を注いでいかなければならない。
要するに魔法使いや魔女が直接探し、丁寧に魔力をこめて作ることによって、その薬は魔法薬として完成するのだ。



だから魔力のないグレータが作っても、この魔法薬は効力を発揮しないの





そっか……





あー……残念だったなグレータ





でも、すごく上手くできてるわよ。これなら今度、街に売りに行く薬を作る時もグレータに手伝ってもらおうかな。あの薬は魔力がなくても大丈夫だから





へへへ、そっか……





ふふふ。グレータ可愛い……





うわ!ルルーまで頭をぐしゃぐしゃにしないでよー





それにしてもせっかく作ったのにもったいないな


この薬は、ルルーやヘルフリートが留守の時や薬草や木の実を探しに行く時にコツコツと集めて作ったものだ。バレないようにこっそり作るのは苦労した。
そんなことを思い出しながら、瓶を持ち上げゆらゆら揺らす。すると瓶越しにヘルフリートがゆらゆらゆら揺れるのが見えた。



どうせなら、お兄ちゃんに使っちゃおう





うわ、やめて!


グレータはいつものようにふざけた感じでヘルフリートに薬を振りかける。



え、な、なに?お兄ちゃんどこ行ったの?





な、なにが起こったの?


ヘルフリートがいた床には、少し大きなアマガエルが座っていた。
ヘルフリートは本当にカエルになってしまっていたのだ。
