03 猟師の鉄砲より強いもの
寡黙な猟師さんは実はおばあさんを狙う危険人物だったのです! どうして。ダナエは思考の処理が追いつきません。



どういうつもりだい猟師。短くない付き合いだと言うのに、心変わりかね?





妖怪の作った楽器も評判を得てきたところでな。ここらで利益を独占させてもらおうと思ったのさ!





欲が出てきたか浅ましいこと。しかしわしを殺せば新しい楽器は作れぬぞ。





クックックッ 何のために運び屋を担ってお前を観察したと思う?





そ、それは……!





この短刀で削られた木は魔法の力を持つ。お前の製作作業、覗いておったぞ!





この道具さえあれば、貴様は不要よ! おとなしくお墓に入ってもらおうか。





ムゥーーーーッ! なんという小癪!





……しかし愚か者が。バテておっても鉄砲なんぞに遅れはとらんよ!





ぬん!





うががが……! 何!?


すかさず猟師が懐から取り出した御札。そこから放たれた不可視のエネルギーに、おばあさんは雷に打たれたように震えます。



ちょ、ちょっと! さっきまであんなに元気よく舌を振り回してたじゃない! あんな紙切れ一枚で、何?





外国より取り寄せた破魔の御札じゃ! 化け物には辛かろうて!





ではお命頂戴。





イヤ! イヤ! ……やめてッ!


悲痛な声で叫ぶダナエ。けれど非力な彼女に暴力を止めるすべなどないのです。



んもーんもーー! このオバアを先に狙ってたのはアタシなのよ……!





後から出てきたオジイにやらせてしまうもんですか!





ぎゃあああ何じゃ貴様――!





オオカミさん!?


決死の思いでおじさんの顔に張り付くオオカミさん。もみくちゃになりながら、殴られようとも決して離れません。



きゅーーん♪


ですが、ついに。銃身で殴られ、力なく崩れ落ちました。



ふーー、ふーー、手こずらせおって。





では改めて。


おじさんは、銃を構えます。――空っぽのベッドに向けて。



はっ!?





後ろからこんにちは。





いつの間に!?





これだけ時間を稼いでくれれば持病の腰痛も治せるわ! くらえ!





ぐおお、お……! や・め・ろ……!


強靭な舌が、おじいさんをぎゅうぎゅうと締め上げます。赤くなったお顔が、次第に真っ青に。
これ以上はちょっと、というところでおばあさんは舌を緩めます。



ふん、黄泉路送りは勘弁してやるよ。牢屋で自らの行いを悔いな。





おばあさま! 平気ですか!?





ホッホッホッ 欲に目がくらんだ人間に遅れを取るほど耄碌してはおらんよ。





アイタタ……絶賛夏バテ中じゃったわし……寝るわ……


しずしずとベッドに戻っていくおばあさん。



はぁあ……よせばいいのに無駄な運動までして、殴られ損ってやつゥ♪ おバカなアタシ……





結局お肉は食べられずじまいだし。





オオカミさん。





ありがとう。あなたの勇気のおかげで、大切なおばあさまが傷つけられずにすみました。





だから……おばあさま、いいですよね?





好きにおし。





おひとつ、どうぞ。





はぁ フルーツ? だからアタシ、オオカミなのよ。そんなのてんで興味ないったら、





モゴーーーーー!


問答無用で口に押し込みます。



……!!





あら、あら……





あら!!





おいしーーーーーじゃないのーーーー!♪





なぁにこれ? 甘くてふわっふわで……けれどお口の中で爽やかに味が変わってくじゃない……





こんな美味しいものが世の中にあったのね!





わたしたちのお肉はあげられないけど……





こういった果物なら、わたしのおばあさんがたくさん作ってるの。……一緒に来る?





行く! 行くったら! 早く案内してよね!





流石は西のババアよ。食べ物で人を虜にするとはの。


そんなこんなでお腹をすかせたオオカミは。ダナエと楽しく賑やかしく一緒に暮らしたそうな。
めでたしめでたし
おしまい
