踊れ、唯唯似つかわしく その11



俺が調べたことをざっくり説明するぜ。





オラオラァ! 当たらなければどうってこと無いぜ……!


幽霊戦士と戦いから少し離れた場所。短時間で作戦会議をする術士組。



確かにこの国には、魔術とも風水術とも言えねー術理が存在してたみたいだ。





どうも、別世界からのエネルギーを利用する術らしい。





堕法に近い……





短期間でよく調べられましたね。





ほとんど俺の想像だけどな……けど、現物を見る限りあながち間違いじゃねえ。





原理まではわからねーから、具体的な対策はないけど……





別世界ってことは、どこかに穴があって……繋がってるってこった。





それを潰せば!





さながら陸に打ち上げられた魚ってわけだ。行くぜ!





術士組が抜けちゃって、サポートの仕事全部あたしに回ってくるんですけどぉ、





大変なんですけどぉ、大変なんですけどおお!


ぼやきながらも一糸乱れぬ、精密な射出動作!



ひええ、





……なんちゃって、そう何度も食らうか、よ!


急制動したストップダッシュ。反応できぬ相手の裏の回り込み、
死角からの攻撃! 傷を負わせることに成功した! ……が、微塵も動揺は感じられない。浅いか……!?



スネイク!?


死角から回り込むとき、逆に自分にも死角ができる――不自然な姿勢から振るわれた右手の剣に、反応が遅れた……!
思わず両手を交差させ急所を守るも、それでは防ぎきれない――



…………っ…………?


しかし待てども、痛みは来ない。



は……? え……?


ああ、ああ、信じられない。距離は5歩ほどもあるのに……! 幽霊戦士の振るった剣は中程から霞のように消え――
――なぜか離れた場所のククリの胸に突き刺さっていた。



か、ガッ………ゴ…・・フッ……!





……効いた……わ……ッ!


素早く引き抜き、更に距離を取る。



ククリ!?





だだ、大丈夫……そんなに深くない……ゴホッ


口から血を吐く。内蔵を傷つけている……!



右手の剣に気をつけろ! あれは空間を飛び越えてくるぞ!





そんなの、どうやって避けるんだよ……!





振るうときのモーションを見切るしか無い!





いいか、離れていても油断するな!





大丈夫なのかよ……!?





ハッ……ハッ……心配されるほど……!





ちょっと体、支えててくれる?





わ、わかった!





……! 今のは……!





なんでえあれはよ……反則攻撃じゃね―か。





いえ、攻撃そのものではなく。気づきませんでしたか?





何がだ?





今のゆらぎに……





もしかして……!





……フォッグさん、あなたこの場の、念の総量って干渉できますか?





念には量っていう概念が無いんだけど……要するに、「やる気に」させればいいってことだな。





何か思いついた顔だな。いいぜ、やってやる。


二人が構えた瞬間――



みんな気をつけろ! また剣が振るわれたぞ!





アルマド、危ねえ!


アルマドを襲う亜空間からの斬撃。近くにいたフォッグが、とっさの判断で蹴り飛ばす。



いたた……感謝の度合いが減ってしまう救出方法。


そのときにはすでに集中体勢に入っているフォッグ。



大地の念は生命の揺籃。今ここに、猛れ。震撼せしめし命の震えを、どうか――





!


念の脈動。そして魔術師たるアルマドの目には、空気中のあまねく存在している精霊の数が、倍増したように見えた。
びっしりと、隙間なく。術理に馴染みのない人間は普段精霊を見ることができぬが、仮に突然見えるようになってしまったら。閉塞感で気が狂ってしまうことは必須。そんな、量。
ある一箇所を除いて。すなわちそれが――



そこです!!


アルマドは狙ったのは化け物そのものではなく、天井付近の、何もない空間。



!





おい、もしかしてそこが……!





ええ、そこだけ精霊の数が異様に少ない。「穴」があります!





そこが別世界からの供給路!!





それなら――





遠慮はいらねーなァァァァ!


荒れ狂う紫雷……!



!!


術士でない彼らには、何が起きているかわからぬ。だがしかし、ショックを受けたようにビクリと体を震わす敵に気づかぬほど……迂闊でもない――!



今だ! 機を逃すな……!





これで終わりだ! おおおおおおおお!


すべてを乗せた、上段斬り。上の騎士を、下の軍馬を、全て貫いて……叩き切った――!
幽霊戦士は、色を失い灰色の粉のようになって――風にさらわれていった――



か……か――――





勝ったーーーーーーーー! イヤッホォォォォォォーーーーーー!


ガッツポーズ! ぴょんぴょんと飛び跳ねる。そして近くの人に抱きつく!

抱きつかれた相手は、渋面!



やりましたね……





へへ、へ……集中しすぎて鼻血出そうだぜ……





傷は痛みますかククリ。





まあなんとか……ちょっと血が足りなくてフラフラするけど……ね。





大丈夫かよおい、大丈夫かよおい、俺の血、飲むか……?


優しさ……! …………か?



ペッパー……馬鹿なやつだよ……ほんとに……


力に溺れた者の末路。自業自得とはいえ、あまりにも悲惨、物哀しさを感じる……



お前の親父さんはサートゥラクラッドを封印しようとしていた。ペッパーはそう言っていたな……





こうなることがわかっていたのかもしれんな……





父さん……





で、レイン。あんたはそれでもその宝石しか、自分にはないと言うつもりか?





フン……お説教は聞き飽きたよ。


穴の縁に近寄り、少しだけ瞑目する。そして。
サートゥラクラッドを……放り投げた!
赤い輝きは大地の深き闇に飲み込まれ――すぐに見えなくなった。



……いいんだな?





今度から、力が必要なときは、「人」に頼ることにするよ。


まさに。それこそが、依頼請負人の意義でもある。



あーあ。ちょっともったいない気もするけど。売り飛ばせば、さぞ大金になったでしょうね。





よーし、俺もパーッと捨てるぜ……!


ぐるぐると腕を回し、力の限り放り投げる――


勢いが……勢いがつきすぎだ! かけらは大穴を通り越して、向こう側の地面をゴロゴロと転がる。
そして……あちら側のかけらと揃ってしまった。



おバカーーーーーーーーーー!!





どど、どどどどどうしよう。爆発しちまうんじゃなかったけ!





…………





まあ、人が触らなきゃ大丈夫だよ。それがなきゃ、ただ転がってるだけだから。





最後の最後にビックリさせるのやめてもらえます?





これなら、普通はこの大穴越えられないし、俺みたいな風水士が来ても、





爆発で死ぬだけってことか。悪用はされなさそうだな。


ふと、顎に手をやる。



……複数人で計画的にやってきたらどうするかな。





……後顧の憂いは、断っとかないとな。





何を考えているフォッグ……!


嫌な予感しかしない……!



逃げ出す準備だけはしておけよ、リチャード、みんな。





俺が、ここを歴史の彼方に葬り去ってやるぜ!!


膨れ上がるエネルギー……!



走れみんなーーー!





あんたの知り合いロクなのいないわねーー!?


最後まで騒がしい依頼請負人どもである……!
続く

>ロールさん
ここまでお付き合い頂いたこと、ほんと感謝してます・・・!おっとそれはまだ少しだけ早いですね。次回!多分次回のラストをご期待あれ・・・!