踊れ、唯唯似つかわしく その6



ぽけー





冗談にしても笑えないわよリチャード。





俺は冗談なんて言わんぞ。依頼に関してはな――


リチャードとレイン、そしてブラックガードの面々。向かい合い高まる緊張感!



つまり、あなたはペッパー氏を裏切り、その盗賊団の娘に味方するということですね?





~~~~~~





裏切るとか味方するとか、そういうことではないんだがな……





問答無用! 行けスネイク!





ええ! 俺!? お、俺、無理……





そっちが無理でもこちらは容赦しないぞ。





うわ、わ、マジかよ……!?





行くぞスネイク、これは実戦だ!





――――


勇ましく畳み掛けるリチャードが沈黙する。おでこに……重し付きの矢!
あまりの痛みにうずくまったところに、天から降る、無慈悲なおみ足。踵落とし。



死に……あそばせッ


それを食らってはひとたまりもない。地に伏したままぐるぐると回転、回避する。



フッ……ハッ


回転の勢い利用しそのままロス無く跳ね上がる。
――そこに!



トリオン・レン!





ぐああああぐッッッッ


雷系基本術。さほど威力は無いが、相手の行動を止めるには十分!



うおおおおおおああああああ!


その頃にはすでに覚悟を決めたスネイク。右から左から息をつく間もなく繰り出される連撃を必死にさばくも、先程のダメージが仇となる……!
弾かれ、空を舞う剣。



しまっ……!


身を守ることすらままならぬ。強烈な右ストレートが、リチャードの腹をえぐる。



……………ッ……ァ……ッ


残念ながら――決着である。



……うぐぐ、ぐ……





どうして……そこまで……





そもそもあんだけ連続で戦ってたんだから……無理だよ……


逃げられぬよう手首足首を軽く縛られたレインと、暴れ出さぬよう簀巻きにされたリチャード。



どうしてはこっちのセリフよ。あなた、いったいどんな魔法を使ったのよ。





何もしてねーよ……こいつが、勝手に……





とにかく、だ。ようやく捕まえた。





楽しいおしおきの時間だぜ~~げっへっへ。





あら、スネイクでもそんなこと言うのね。なにするつもり?





え? ほっぺたをつねる。


かわいい……!



さて……リチャードがここまでするんです。事情を聞かせてもらえませんか。





…………





あんたたちは、ペッパーがどんなやつか、知ってて依頼受けてんの?





そうだとしたらあんたたちも、とんだクズ野郎だ。





……わたしたちは正義の味方ではありませんからね。





依頼人に後ろめたいことがあろうと、相当の報酬をいただけるのであれば、こなす。





それが、我らが事務所の方針です。


レインはすでに言葉もなく。その表情はどんどんと曇り、瞳の色は濁っていく。
アルマドは、ただ、と前置きし。



事実関係を把握しておくのは重要だと、わたしは思います。





あなたがなぜペッパー氏の邪魔をするのか。なぜ盗賊まがいのことをしているのか。教えてもらえませんか。





あんたたちが……あんたたちみたいなのがいるから……





なんで悪者ばかり……のうのうと好き勝手に……





あいつは、人殺しなんだぞ……そんなやつの言うことを聞くなんて……ッ





……さすがに、それは聞き捨てならないわね。どういうこと?





あいつは……父さんを……罠にかけて殺したんだ。





骨董品や秘宝についての考え方は、父さんとペッパーで違ってた。





ペッパーは、貴重な秘宝を独り占めするために……父さんを……ッ


何ということだろう。それにペッパーとレインは兄妹と言っていなかったか。つまり、彼は親殺しの狂人だったと言うことなのか。



……ワオ。





それでも依頼を続行するの? フン、とんだ道化だよね……





………


しばし瞑目する――



ちょっと、事情が変わりましたね。





さすがに、殺しは大罪です。もしそれに協力したら、わたしたちも罪に加担することになる。





その話が本当なら、少し考えなくてはなりませんが……





いや、その必要はない。





!?


いつの間にか、意識を取り戻したリチャード。格好は相変わらず簀巻き状態だが。



この前も言ったが、依頼人の事情など関係ない。





依頼請負人と依頼人の関係は、ただ依頼のみ。それ以外のことなんて考える必要がないんだ。





いや、いやいやいや。話聞いてたのかよ? その依頼人が人殺しの犯罪者なんだぞ?





お前が、嘘を言っている可能性だってある。





あ……あ……?





ペッパー氏はお前のことを盗賊と呼んでいるんだな?





そしてレイン、お前はペッパー氏のことを人殺しと。





お互いがお互いを罵ってるわけだ。部外者に、どうやって真実がわかる?





だったら俺は、そこに立ち入らない。頼まれた依頼にのみ、全力を捧げよう。


自信満々のリチャード。ある意味、潔い。しかしそれは一方で――



……リチャードよ。俺が言うのもなんだが、それは流石に考え無しじゃねえか?





そんなんだと、腹黒いやつに利用されちまうぜ……





だろうな。





だろうなって……





どうせ、人を利用しようとするやつは、どれだけ警戒したって利用してくるんだ。それを避けようとするのも大事だが――





本懐を忘れるのは論外だ。依頼請負人が依頼を全うせず、どうする?





……まあ一理ありますね。





じゃあ、秘宝をペッパーさんに渡すって依頼のことは忘れてないわけね?





それ聞いて安心したわ。縄は、解いてあげる。


リチャードの縄をほどいていく。しかし、当然と言うかレインの拘束はそのままだ。



チクショウ……なんだよそれ……





用心棒をするとかなんだとか、結局お仲間と合流するための……口実かよ……





あんなに戦ってくれるなんて、って少しでも思ったあたしが……バカ、み、た、い。





結局……口ではいろいろ言ってたくせに……悪者の味方かよ……





ペッパーは人殺しだって言ってんだろ……! なんでそんなやつにばっかり、話聞くやつが、出てきやがるんだ……!





馬鹿、馬鹿、馬鹿野郎……!





あたしを助けてくれるやつは、だれも……いなかったのに……


絞り出すような憤り。振り上げた拳の落とし所が無いかのような。
その拳も拘束された今、ただ身を震わすことだけが許された行為。



…………





あたしを……助けてよ……





…………


それに、リチャードは――



リチャード!?





……どういうつもり?


拘束具を切り払い、自由にしたのだ。



言ったとおり、俺は依頼を重要視する。





レインを秘宝のもとに連れて行く、それまで身を守ると約束した。





ならば俺はそれを全うするだけだ――





ズコ―――――





まったくもう、めんどくさいんだから……





こうなってしまえば仕方ありません。反抗しないのであれば、連れていくしかないでしょう。





それに俺の言ったとおり、サートゥラクラッドを使わずにいてくれたからな……





その代わりの戦力は必要だろう。





………………





……つくづく、変なやつだよ。あんた……





けど、秘宝のところまで連れて行ったところで、あたしに渡す気はないんだろ。





そんなの、意味あんの……?





そうしたら、そのとき改めて喧嘩、だな。





お前の持ちうるあらゆる手段を使って、奪ってみろ。もちろん俺たちも容赦しないがな――





強いやつが好き勝手言いやがって……あたしにできることなんて……





じゃあ行きましょうか?





宝石の片割れはここにあるわ。もう片方がこの先にあるのよね?





え!? なんでまだ持ってんだ? ペッパーに渡してなかったのかよ?


何故か驚きの色を示すレイン。



なぜです?





確かにわたしたちも一度は彼に渡そうとしたのですが。





「あなた方が持っている方が安心だから」とのことで、そのまま預かっているんです。





いや……別にいいけど……





それってつまりそういうことかよ……





ペッパー……お前ほんと、どこまでも……





(だったら、あたしもそれを利用してやる――)





わかった。行こう。


様々な思惑を抱え、一行は奥に進む――!
続く
