踊れ、唯唯似つかわしく その3



どど、ど、どーすんだよ、リチャードが落ちちまったぞ。リチャードが!





落ち着いて。焦っていては、いい策も浮かびません。





そんなこと言ったって、ど、ど、ど、





……行くわよスネイク。構えて。





は? 何が、





うわっッッッッと!


強烈なケリをバク転で回避する。立ち上がったところに
間髪入れずに追撃、追撃!



うわたっ、た、ほっ!


突き出される拳を手の甲でそらす。弾いた、その僅かなスキを狙い強烈な突き。狙いは右脇腹。決まる、そう思った瞬間。



あ……?


相手の体はすでにそこになく、構えを解いた状態。



少しは落ち着いたかしら?





あ~~~すまね……


今やすっかり冷静を取り戻したスネイク。気合とともに両手で頬をペチリ。



それで、どうしましょうかアルマド?





もう、考えるのわたしばっかじゃないですか……





体使ってない分だけ考えなさいよ。我が事務所は怠け者に厳しいわよ。





はいはい、わかりましたよ……





……状況が最初と変わっています。一度戻って仕切り直しをしましょう。





リチャードなら大丈夫。一人でも持ちこたえてくれるはずです。





賛成。あの小娘のこととか、依頼人に聞いてみたいしね。……スネイクも、それでいいわね?





おうともよ。





そうと決まれば俺は止まらん。出口までの先陣は任せろ!


弾丸のように飛び出していく男、スネイク。



あれま。行っちゃった。じゃああたしたちも遅れないようにしなきゃね。





女と交戦した……!?





向こうはペッパーさんのことをご存知のようでしたよ。心当たりはありませんか?





そうですね……お恥ずかしながら、商売敵はたくさんいますからね。心当たりありすぎるほどです。





と、言いたいところですが、今回のことならおそらく見当がつきます。





ふむ。





最近、わたしの事業を狙って襲ってくる盗賊団がいるんです。蒐集した骨董を奪ったり、壊したり……やりたい放題なのです。





その女が盗賊団のリーダーなのでしょう。……みなさん、お願いがあります!





女は今回もわたしの邪魔をしようと言うのでしょう。あなた方の話を聞く限り、どこからかサートゥラクラッドのことを知ったに違いありません。





彼女に先を越されてはなりません。どうか妨害に負けず宝石の片割れを見つけていただきたいのです!





任せろ。俺もあの女には一泡吹かせてやろうと思ってたんだ……!





ちょっと待ってスネイク。





その妨害って、最初に無かった話よね。





つ・ま・り・追加仕様ってことよね? 当然費用がもらえるってことでよろしいのよねえ~?





ひええっ そんな……!


抜け目ない商売人感覚……! ブラックガード事務所のお台所事情が決して劣悪でないのも、ククリの金銭感覚があればこそ!



う……う……うん……?





目が覚めたかい、お嬢さん。





だ……れ……





怖い夢でも見ていたかな。





BFOOOOOOOOOO!





は? え……?


急激に回る血。軽い痛みすら伴いつつ、急激に視界に飛び込んだもの。
それは、優しい誰かの微笑みなどではなく。荒い息を吐きつつ獰猛に迫るモンスターの顔……!



うわあああああああ!





!?……あううッ!


尻もちをついた状態から立ち上がろうとしたところに激痛。足だ。足を捻ってしまっている!



BUFOッ! BUFOッ!





うわ、うわ……! 近寄んな! 消えろ! 消えろォォォ!


いやいやをするように手を前に突き出すも、それで止まるような敵がいようか……!



…………


火が出るかと思うほどの剣閃が走ったかと思うと。僅かな間ののち、モンスターは自分の最期にも気づかぬ顔で崩れ落ちた。
その後ろから、代わりに現れたのは――



目が覚めたようだな。





あんた……


リチャードはどこから見つけたものか、板切れを抱えている。チラリ、少女の足を一瞥してうなずく。



やっぱり捻ったようだな。





少し痛いが、我慢しろ。


そう言うと、足に板をあてがい紐で縛りだした。満足な道具もない中だが、応急処置にはなろう。



あ……ありがと。なんで……さっきまで争ってた相手に。





別に敵と言うわけじゃないだろう。





見捨てていけば、くたばるだろうと思ったからな……こんな日の当たらない地下で死んだとなったら、流石に寝覚めが悪い。





フン、大きなお世話……誰がくたばるってんだよ。あたしはこの通り、


足に力を入れ立ち上がろうとし、



――――――――ッ―――ァ……!





………………ショウ……





チクショオオオ――ッ!


己の無力さに打ち震えるかのように。



こんなとこで……止まってる、だなんて……このままじゃ、奪われちまう、あいつに……あいつに全部……!





…………


それを見て、リチャードは何を思うのだろう。



なあ、あんた。





あんたの望みは何だ?





なんの話だよ……あんたには関係ないだろ……ペッパーの手下なんかに……言うもんか。





サートゥラクラッドは対になった宝石だという。





一つはおそらくククリ達が手に入れてくれただろう。残り一つ。俺はそれを探すつもりだが、お前は?





…………





そんなことしたら……あたしは、あんたを殺す……殺してでも、奪ってやる……


呪詛のようなつぶやき……!



その執着ぶり、どうせ諦めるつもりなんて、無いんだろうな。


嘆息、そしてニヤリ。



その足で、一人で目的地まで行くのは辛かろう。





一つ、提案だ。俺が、用心棒をしてやってもいいぞ――?





……は?





何言ってんの? あんたさっき、ペッパーに雇われたって……あたしは、あいつと敵対してんだぞ?





俺への依頼は「秘宝を回収してくること」。あんたに提案するのは、「秘宝までの道中を守ってやること」。





そこに矛盾は、発生しないんだな――





いやいやいや、そんなの屁理屈じゃん……





どっちにしろペッパーにバレたら裏切りと思われるよ……何それ意味分かんない……そこまで金が欲しいの?





我が事務所も金食い虫が3人もいて資金繰りが大変なんでね……





金がむしり取れそうな案件には、意地でも齧りつくって腹づもりさ。





それに、あんた、一人でやってきたってことは秘宝を探す当てがあるんだろ?





俺の当ては仲間のもとに置いて来てしまったからな。俺の方も、あんたと一緒に行けると助かるんだがな?





どうする? このままここで死ぬか、金とプライドを払って助けてもらうか。難しくない選択だと思うがな――?


悪魔的誘い……!



――――


それに少女は――



そんなの……あたしだって生きたいよ……でも……





…………ッ…………





あたしを裏切ったら、殺してやるから……





それは、好意的な反応と見て良さそうだな?





よろしく、依頼人。


かくして、ここに奇妙な契約関係が生まれたのだった……!
続く
