踊れ、唯唯似つかわしく その2



結局さっきの女は何だったんだ。





まあ考えてもわかるまい。……犬に噛まれたとでも思って忘れるとしよう。





くそーー! 今度は俺が噛み付いてやる。





まあ狂犬。





………………





どうしたアルマド?





彼女の技のことを考えていました。





魔術では……ない。それに、他のどの術理体系とも違っているように思えました。





不思議な術使いか……心配すぎても仕方ないが、気に留めておいてくれ。





さて、中に入るとしよう。楽しい宝探しだ。





ケケーーーーーー!





遅ぇ! 足が飾りか!?





ふう、この辺の敵はそんなに強くなくて助かったわね。





これが普通の強さのはずだ。さっきの相手はなんだか異常だったな。





リチャードよう~自分が負けたからってそういう負け惜しみは良くないぜ~





よせ。なんで抱きつくんだ。





うおおおおおお!





アルマド、秘宝はどっちの方向なの?





ええと、この探索機によれば……





こちらのようです。





こちらって言っても……行き止まりだけど。





……なあ、そのアイテム、光ってないか?





え?





わっ!





……驚いたな。





ええ、急に光るから、何事かと。





そっちじゃないわ。――ほら。


ククリの指差した方角には。なんと、今まで行き止まりになっていた壁がすっかりなくなり、奥へと続く道ができているではないか。



!





これがこの探索機の力なのでしょうか。……ペッパー氏の見立ては正しかったということですね。





面白い。取り尽くされた遺跡で未踏の領域。何が出てくるかな。





怪物か、財宝か――どちらにしても、刺激的には違いない。


4人は遺跡の奥へと足を踏み入れる……!



……ワオ。こんなきれいな状態で遺跡が残ってるなんて、すごいわね。





壁の石だって、ホラ全然風化してない。





うかつに触るなよ。どんな罠があるかわからん。





おっといけない、オホホ。





それでアルマド先生、この遺跡は何年前の物なのかしら?





当然のようにわたしに聞かれても、知りませんよ。





まあリーグレン設立以前と言ったら……七、八百年は経つのではないでしょうか。





まさに歴史だぜ! おれのじーさんのじーさんが赤ん坊だった時くらいかな!





その計算だとあんたの家系、どこかに妖怪が発生してるわね。


適当な軽口を叩きつつ……



そういや、依頼人の探してるサートゥラクラッドって、どんなのなんだっけ。





何らかの力を秘めた宝石だと聞いている。





2つの対となる宝石が封じられており、結合することで大いなる力を発揮する……とな。





そんな力で何するつもりなのかしらね。





さあな。それには興味がない。





依頼人の事情には立ち入らない……それが依頼請負人のルールだ。





そのせいで、毎回面倒に巻き込まれてる気もするけどね。……クスクス、眉間にシワ。


無言で渋面を作るリチャード。
――そこに。



ふたりとも、静かに。あそこに見えるのは――


壁の奥の一部がこちらにせり出している。中央部分が一段高くなっており、まるで祭壇のような。そこに祀られるように置かれた、赤い石。
あれが、サートゥラクラッドだろうか。



! ……お前は……


未踏の秘所にも関わらず、その場所には先人がいた。



あんたたち……





なんでてめえがいるんだ? さてはてめえもお宝目当てだな!?





ここに秘宝があることはほとんど知られていないはず。あんた達、何者?





何者かだと? 俺たちは依頼請負人――





秘宝を持ち帰れと依頼されている。邪魔をするなら……わかるな?





凄んじゃって、バカみたい。さっきはあんなに苦戦してたのにね。





そっちこそ怪我でもしないうちにさっさと帰ったら……





ちょっと待って、依頼って言った?





それって、ペッパーっていう男からじゃ……





! 知り合いなのですか?





やっぱり……


どこか軽薄な態度をとっていた少女の様子が一変する。感情が形をもって吹き出し、他人でもそれとわかるかのような。それは――



許さない……


――怒り。



吹きとばせサートゥルス!





またあの破壊的なやつか!? 勘弁、ん、こんな狭いところでッ!





ワターーーーーーーーーッッッ!


総員、直撃を避けよとゴロゴロと転がる。



みっともない姿! そこに追い打ちかけるよあたしは! 悪いやつだからねッ


再び手を高く掲げ――その手には赤く光る宝石――
集結していく未知の力場。あの魔道具が引き金か……!?
そこに落下する氷柱……!



ガッ……!? グッ……ぁ……なんで……!?


不意を突かれ、頭と背中を強かに打ち付け地に伏す少女。
今の魔術を我々は知っているはず。そう、策士アルマドの遅延魔術である……!



すごいアイテムをお持ちのようですが、実戦経験はまだまだですね。





ぐぐ、ぐ……ッ このくらい……なんてこと……!


危ない! うつ伏せの状態でも手を掲げることはできる。今度は妨害が間に合わない……!



そこまでだ――





!!


いつの間にか接近していたリチャードの、強烈な肘打ち。勢いを殺さずもろとも壁に叩きつける!



~~~~~~~~!!?


ガクリと首をうなだれ、もはや動くこともできず。



ようやく一息つけますね。リチャード、無事ですか!





とんだ暴れ馬だったわね。





可愛い顔してるんだから、もっとおしとやかにしなきゃ。





・ ・ ・ン……ン?





何か言いたいことがありそうねェ~!?(グリグリグリ)





ぐおおおおお何も言ってねーーーーー!


3人も、少女とリチャードのもとに集まってゆく。



お前の目的を話してもらおうか?





…………





秘宝を追っているのか? ペッパー氏の商売敵か何かか?





……る……な





?





あんなやつの、味方をするな!





あいつの味方は! みんなあたしの敵だ!!





チッ……! 暴れるな!


激しくもがく! しかし両肩をガッチリと押さえつけられているため、何もできない。



うあああああああッ!!





いい加減に、


爆音、凄まじい衝撃――――!



――――





―――――





こいつ…………どこから……


巨大な怪物は突然現れた。突然、それもそのはず、やつの奇妙なシルエット。筋骨隆々の裸の上半身を晒し、腹が直接地面に突き刺さっているような――
怪物は地面を突き破り、地下から現れたのだった――
振り上げた拳を――
――叩きつける!!



~~~~~~~!





~~~~!~~~~~!


あまりの衝撃に、できるのは地に伏せ歯を食いしばるのみ。言葉を発しようものなら舌を噛んでしまったことだろう。



リ……リチャード!


砂埃が落ち着きようやく目が慣れた頃、そこにあったのは。
怪物が更に広げた巨大な穴のみ。



マジかよおい、落ちちまったかよ!?





……………


いや、それと。
視界の隅にキラリと輝くもの。目的の宝石が、静かに転がっていたのだった――
続く

ロールさん!仕事でお疲れなのにいつも真っ先に読んでくれて、本当に励みになってます!続きがんばります!ロールさんのことも応援してますよ・・・!