第7幕
捜索!幽霊少女!!
第7幕
捜索!幽霊少女!!



うわ…すごい量の資料だね…手分けした方がいいかも…





そうだね…ルオはそっちお願い。





D'ac!朝ごはんの時間の少し前になったら、1度整理のために話し合おうか。





ああ。それじゃ


資料室には、閲覧用の机が幾つかと、控えめな装飾が施された本棚が沢山並んでいた。



とりあえず…この列車と、エーデルワイス家についての文献を読んでみよう。歴史はそんなに得意じゃないからなぁ…


予備知識でもあれば、少しは違ったんだろうけど…
適当な資料を手に取り、そのままパラパラとページをめくってみる。それらしい所を拾って読むに、列車に関しては昨日ベルリーナが言った通りの経緯でできたもののようだ。
写真が残ってるかどうかも微妙な年代だけど…写真から割出せれば、あの子の正体も割と簡単にわかるかもしれない…使用人とかだったらアウトだけど…



……そういえば…あの子、クラバットとライバルだって言ってたよな…?女の子を探せばいいと思ってたけど、もしかしたら違うのか…?幽霊って、本当に死んだ時の年齢でその場にとどまっているものなのかな…?





あの子は警察の関係者が何かで、エーデルワイス家に深く関係していて…それでいて、クラバットを追っていた…とか…





うう…こんがらがってきた…!


でも、今のところピンとくるのはジュディ=エーデルワイス以外にない…



………手がかりもないし…手あたり次第調べるしかないかぁ…


その後も二時間ほど資料を読んだところ、次のことがわかった。
ジュディ=エーデルワイス…享年10歳
東の大貴族といわれたゲーテ家の分家の中でも
上位の権力を有する家
エーデルワイス家に生まれた。
心臓が弱く体調を崩すことが多かったそうだが
それに反した明るい性格で
エーデルワイス家に留まらず様々な人物から
愛されたという。
中でも、後にゲーテ家最後の当主となった
アルバスター=ゲーテと親しかったらしく
一時期は婚約まで示唆されたという。
彼ら自身も
それを望んでいる節があったというが
真実は定かではない。



へえ…ゲーテ家って、そんなすごい家柄だったんだ……





……つまり…どういうことだ…?


あの女の子が持っているのは、ゲーテ家の遺産で、怪盗クラバットがすり替え損ねたお宝で…



………どうして、没落する前のゲーテ家の遺産を、あの子が…?


これは…合わせ鏡について調べる必要も出てきたかな…でも、他所の遺産の手がかりなんて、ここには…



きゃっ!!





わあっ!?


ひとつ向こうの通路から、女の子の悲鳴と、たくさんの本が落ちる音がした。手に取っていた資料を慌てて戻し、そちらの方へ向かってみると…



うう…





リーナ?


そこには、ルオとベルリーナがいた。どうやら、ベルリーナが本棚にぶつかって、資料が下に落ちたようだ。



さ、サヴァランさん…





ごめんねアラモードさん!怪我はない?





っ………





リーナ、ルオ…何があったの?





えっと…この本棚を見ようと思って、通路に入ったところでぶつかっちゃって…考え事しながら歩いてたから、前見えてなかったんだ。





そうだったんだ…リーナ、立てる?





………はい…





大丈夫?怪我は?





……大丈夫です





そっか…それじゃあよかった。


盛大に本をぶちまけたことが相当恥ずかしかったのだろう。ベルリーナは顔を心做しか青くして、俺の手をとって立ち上がった。



……あ、あの、サヴァランさん…





うん?なんだい?





………あの………





…………………





………なんでも、ないです…





…そう?





…………


ベルリーナが言い淀むなんて、珍しいな…本をぶちまけたのがそんなに恥ずかしかったのかな?



怪我ないみたいだね。良かった良かった〜!





さ、本片付けて、アマンドと合流したらいい時間だね。情報交換もしたいし、そろそろ部屋戻ろ♪





そうだね





……いえ


落ちた本を取ろうとすると、ベルリーナがそれを手で制した。そのまま俺の側まで散らばった本を全て取り上げてしまうと、それらを棚に戻し始める。



片付けはやっておきます。ぶつかったのは私ですし…それに、私はまだ少し調べ足りないので…お2人は先に戻っていてください。





え、でも…





そう。ならお言葉に甘えようかな。行こ、サヴァランくん!





……ああ


ルオが俺に手を差し伸べる。それを取ろうとして……けれど、やっぱり…



………





サヴァランくん?





…ごめん、先戻ってて。





え?





女の子一人に全部任せるのも…やっぱちょっと、プライド的に許せないし。あと…俺ももう少し調べたいことがあるんだ。





ここも、頭の中も整理したら戻るよ。一応間に合うように戻るつもりだけど、遅くなったらアマンドに謝っといて





……そっか。うん、わかった





じゃ、また後でね


ルオは小さく手を振って、その場から去っていった。扉の開閉音がし、しばし列車の走る音だけが響く。



……さて、ちゃちゃっと片付けちゃおっか





…どうして…





どうしてって…言ったでしょ?プライドが許さないんだって。





………





……それに…





何か言いたいことがあったんでしょ?ルオがいるから言えなかったのかなーって……





………


ベルリーナが伏せがちになっていた顔を上げる。感情を顕にしないサファイアの瞳は、俺の隠している何もかもを見透かしているようだった。



……………わかった。わかった。白状するよ…





実は……


俺は昨晩起こったことを包み隠さずベルリーナに話した。ルオには悪いけど…やっぱり彼女に隠し事はできない。本当に鋭いんだから…



……そ、そうなんですか…にわかには信じ難いですが…





ああ…それで、その子の正体を探らなきゃいけなくてね。早くからここで資料を漁ってたってわけ…それで、参考までに聞きたいんだけど…





なんですか?





…ケーリュケイオンの合わせ鏡って、知ってる?





ケーリュケイオンの合わせ鏡……ですか?





ああ、その…確たる情報源からの情報でね。女の子が持ってた鏡が、もしかしたらそれなんじゃないかって…それのルーツを探れれば、少しでも何かわからないかなーって





なるほど…


ベルリーナは少し口元に手を当て思案する…しかし、思い当たるものがなかったらしく、ふるふると首を振った。



すみません…それについては知らないです。





そっか…うん、ありがとう





ですが…あなたの言うことが本当だとしたら、その鏡は『クラバットの忘れ物』なのでしょう?それに、何故かあなたを怪盗クラバットと誤認している…これについては、何か心当たりは?





それは……考えてはいたんだけど、分からないんだよね…





そもそも、ケーリュケイオンの合わせ鏡はエーデルワイス家の資産じゃなくて、ゲーテ家ってとこの資産らしくて…ますますこの列車やエーデルワイス家とは関係ないし…





……ゲーテ家、ですか…


何かピンとくるものがあったのか、ベルリーナはもう一度口元に手を当て考え始めた。
ああ…最初から彼女に頼るのが正解だったかな。頭の中がすごく整理されてく気がする…。



何か思い出せそう?





いえ…ただ、ゲーテ家も最後の当主は火災で亡くなったと聞いているので…落雷での火災とはいえ、ジュディと通じるものがあると…





え…そうなの…?
じゃあ、ゲーテ家没落の原因って…





ご存じでしたか。おそらく…それが直接の原因ではなくとも、何かしらの原因になったのではないかと。





そうなんだ…


ゲーテ家当主とジュディは婚約も示唆されてたって言ってたよな…なんか、いやな運命だなぁ…



…そもそも、なんですけど。
怪盗クラバットが台頭したのは、落鳴事件があってから十年以上あとのことです。幽霊がジュディであれば、そもそも彼のことを知っているわけがないんです。





え!?そうなの!?





ええ。なので、彼女がジュディ=エーデルワイスだと考えるのは少々早計かもしれません。





そっかぁ…





…しかし、話を聞く限りでは、その幽霊は機関室からは出られないようなので…間違えたときのペナルティがわからない以上、放っておくというのも一つの手だとは思いますよ。





少し、可哀そうではありますがね。





…答え一つくらいは出してあげたいんだけどなぁ…





……危険を感じたらすぐに逃げてくださいね





うん。逃げ足だけは自信あるからさ、安心して!





……それはそれで、なんか…残念ですね…


それから、本をあらかた片付け終わった俺たちは、各々一度部屋に戻り、いったん準備してから合流することになった。
あの少女がだれなのか、謎は深まるばかりだけれど…できることなら、何かしらの答えは出してあげたいなぁ…。



今日はバーに行く約束もしてるし…夜にもう一回調べに来よう。





ルオ、おまたせーー





サヴァラン君サヴァラン君!!





おお!?…ど、どうしたの…?


部屋に入るなり、ルオがずいと距離を詰めてくる。いつに増してきらきらとした瞳には、底知れない自信と確信が見え、あふれていた…



僕ね、わかったんだよ!あの幽霊の正体!!


