あなたの言葉を聞いた彼女の目から、一粒涙が落ちる。
そしてそれがまるで栓であったかのようにして、ぽろり、ぽろりと涙がこぼれた。



う、え、あ、やば……。ごめ、す、すぐ止めるから……!


自分が涙をこぼしていることに驚いた様子で、慌てて緋奈子は乱暴に目を拭う。
しかし彼女の意志に反して、ぽろぽろと涙はとめどなくこぼれる。
そのことに、何より緋奈子自身が戸惑っているようだ。
その様子を優しく見守り、その目元を自分の袖で優しく拭い直し、なだめる。



大丈夫





あなたは人の言葉を聞かずに、直ぐ出ていくだとか、直ぐ止めるだとか……逸る癖がありますね。誰もそれを望んでいないと言うのに、生き急ぐ





その堰を切って溢れ出る感情も、誰も咎めはしませんから。どうか好きなだけ溢すと良いでしょう


あやすように頭をぽんぽんする
優しいその言葉と頭をなでる手に、落ちる涙は止まるどころか、ますます歯止めが利かなくなり、ついには自分の顔を隠すようにして、あなたの胸元に額を付ける。



あ、う、ぅ、ぅううううう……!


肩を震わせて、それでも何とか歯は食いしばり、唸るような嗚咽が漏れた。
体の痛みなら、好きではないが、慣れていた。
その痛みを耐えられる理由ーその家族から、敵意を、疑いを、あるいは殺意を持たれることにどうして堪えられるだろう。
祈雨丸の言葉で安堵し、今まで気を張ってこらえていたものがすべて溶けだしてしまったようだった。
緋奈子はただ、あなたの服に縋り付き、声を殺しながら泣いていた。
縋りつく人間の、小さな背をそっとさする。
人は何故強いのか、人は何故脆いのか。
相反するそれは神としてのいのちを得てから長らく謎であった。
が、魔法使いとなってから知り、今こうして再確認する。
在るから強く、失われるから脆い。
決して反してなどいなかったのだ。
そしてそれはシノビの世界において喪失など日常で、彼女がその摂理に対し“向いていない”のは火を見るより明らかで。



(ならば、死などない、”失われない”ものとして私が共にあれば、彼女は泣くことはないのか?)


一瞬だけ過った声を掻き消し、ただ黙して、彼女の嗚咽が止むのを待ったのである。



ふぅ





良き……





これはリレー小説かな(疑問)





それな





当然のように地の文を書き始めましたね……お互いに……





ね……


秋の風が、紅葉を揺らしている。
人の気配は遠く、今は声も届かない。
ただ木の葉のそよぐ音だけがわずかに響く中で、その時間はゆっくりと過ぎていった。



ちなみに、ここでシーンを切りますか?それとも続けますか……?続ける場合、泣き止んだ緋奈子が恥ずかしさで爆発します()





ふふ 泣き止んで恥ずかしくなったあたりから平和な日常に戻りますかね……レンズ渡したいし(





ふふ 了解です!


しばらくした後、ようやく泣き止んだ緋奈子は――
深々とパーカーのフードをかぶり、全力で紐を引き絞って、なんとかして顔を隠そうとしていた。



想像に容易い





は、恥ずかしすぎる……!!


意図せず祈雨の前で号泣してしまった恥ずかしさのあまり、部屋の隅でなんとか小さくなろうとしていた。



おやおや


いまや部屋の隅に埋まらんばかりに小さくなっている緋奈子ちゃんの背中を見て微笑む。



ふふ、やはり感情に対しては素直になったほうが良い。最も、恥と考えなくてもよいのですよ。こういう場合の涙は生理的現象、堪えても良いことはありませんし





などとのほほんとしている。





そ、そーいう問題じゃないっていうか……!


フードの向こう側からもごもごと抗議の声が飛んでくる。わずかに見える顔からだけでも真っ赤というのはわかる。



はて、泣いた記憶も遠く朧気である祈雨には、いかなる問題か分かりませんが……


ひょいっといつの間に用意したお茶を、緋奈子ちゃんの横に置く。



空知らぬ雨を、雨龍のみぞ知る……というのも、なかなかいみじきものかと(にこやか)





では、その様子をジトっとした目でしばらく恨みがましそうに見ていましたが、ようやくフードの紐を緩める。





……





そしてソロソロと置かれたお茶をとって、ちびちびと飲み始める。





……ありがと





ぼそっと呟くように。目は晴れて真っ赤ではありますが、もう涙の気配はなさそう。





いいえ、お安い御用です





そして自分も用意したお茶に口をつけるが……





あ……そうだ、これを





と取りだしたのは、緋奈子ちゃんの簪。





あ、そういえば……


そうだった、というように、頭に手を当てる。
そこにあるはずのものは、今差し出されていた。



そっか、拾ってくれたんだ。ありがとー





と今度は緩く笑む。





ええ、以前、猫に奪われたから取り返そうと……という話を聞いていたので、大事なものかと





あー、まぁ、昔もらったものでさ。高価なもんでもないんだけど





簪を見つめ、少し考えてから





……申し訳ありませんが、こちらをお返しするのは……もうしばらくの間だけ待っていてもらえませんか?





へ?


きょとんとしてから、至極単純に不思議そうに問う。



別にいいけど……。なんで?





さて、何故でしょうね


と、是と言う答えを聞いてすぐ簪をしまい、その後は曖昧に返した。
そして



代わり……と言っては価値が劣りますが、あなたには暫くこれをお預けしたく思います


と差し出したのは、眼鏡のようなモノ。
緋奈子は疑問符をさらに飛ばしながら、のぞき込む。



なにそれ?うち、べつに目ぇ悪くないよ?





ちなみに、アイテムの形状は好きに設定してOKですよぅ!もちろんメガネのままでもいいし、変えてもOK。魔法だからね(?)(ゆるゆる)





ふふ、緋奈子ちゃんの望む形に変わることにします





なんと





お洒落メガネにしちゃってもいいし、祈雨丸(神主)とオソロでも良い(?)(まほうだから)





まほうだから!





それは、妖精のレンズと呼ばれるもの。私が手にしている間は眼鏡の形状をしていますが、新たな持ち主が望めば、好きなように形を変えるでしょう





と説明したところで、少しだけ開いていた襖の向こうからニャーンと声。





ま、魔法道具だ……!


おお……!と目がきらめく。
そしてその声に顔を上げて



ん?ねこ?


と首をかしげる。



するりと部屋に侵入してきたのは、いつかの魔法猫。(※アイリーンとマーサ)我が物顔で部屋を横断し、緋奈子ちゃんと祈雨丸にぐるぐると甘えだす。





おや、丁度いい。妖精のレンズは、魔法使いでない人間が魔法を知覚できるようにする器具です。この猫たちも、魔法で子猫に擬態している元型。眼鏡を通せば、真の姿が映るはずです





ごろごろ喉を鳴らしてジャレついているサーベルタイガーです(恐怖)
ちなみに、祈雨丸は慣れている(し、もしかして日本にも野生の虎がいるとか思ってる可能性すらある)





うぉお……


と思わず撫で繰り回していた緋奈子だったが、その言葉に顔を上げる。



そうなん!?


そして興味本位で、恐る恐るメガネをかけてみる…。
\ガオー/



……


固まる。



駄目ですよ、私の髪は猫じゃらしではありません


とたしなめつつ、その異変に気付いた。



……いかがされましたか?





ちなみに大きさも変わるんですかね?





変わりますね…トラです





でかい





和室に、二匹のトラががおがおしている……





………………いや、ちょっと、予想外だったっていうか


表情が硬い。



……めっちゃ、虎じゃん……?





ええ、虎ですね。今は滅びてしまった剣歯虎ではありますが、虎自体はさほど珍しいものではない……ですよね……?





……鞍馬あたりだったら、うん、忍獣にしてる人も、もしかしたらいるかもだけど……。うちは、動物園以外だと初めて見たかなー


遠い目をしている。



(サファリパーク……)





鞍馬なら虎を忍獣にしてそう(偏見)





鞍馬ならいけるでしょうね……斜歯は虎を組み込んだキメラかな(偏見)





なんと……では如何でしょうか、実際に触れあう虎は。元型とは言え、この手触りは本物ですよ





ともふっている。虎は虎の姿で喉を鳴らしている。





青竜と白虎、あとは玄武と朱雀がいれば、なかなか有難き組み合わせになるな……と同僚にはよく言われます(※大法典ジョーク)





大法典ジョークww





元型……?玄武、朱雀……え?





と聞きなれない言葉とちょっと意味が分からないジョークには首を傾げつつ、そのもっふもふさにゴクリ。





……しつれーしまーす……





と小さく言って、一頭の毛をもふー。





虎はもっふもふしている▼





人間には本来秘匿が義務付けられている魔法の世界。しかし、あなたであれば安心してそれ(レンズ)を預けられる。……祈雨にとっての日常も、あなたに少しでも楽しんでもらえたら幸いです





うぉぉ……も、もふ……。毛並み良いな~おまえー……





虎がおとなしくて安心したのか、思う存分もふり始める。
そして、もふもふしながらもその言葉に顔を上げる。





え、いいの?でも、自分で言うのもなんだけど、うちシノビだし……。なんか、いいように使っちゃうかもだよ? そりゃ、きーやんが見てる世界をちょっとでも見れるのは、嬉しいけどさ……





ええ、あなたはシノビですが、私はあなたという人間を信頼しています。魔法を知覚できるからと言って、魔法が使えるわけではありませんし……なにより、


微笑みを崩さず、虎の顎を撫でる。



こうしたことで笑むあなたとの時間は、目下のところ、何事にも代えがたいと思ったまでのことです。それでも、理由は不十分でしょうか?





うぇ!?


その何気ない言葉に、じわりと顔を赤くする。



それは、その……!


と、もごもごと何事か口の中で呟くも、観念したように



じゅ、じゅ、じゅーぶん、です……!


と絞り出した。
そして手元の虎にもふっと顔面ダイブしたあと、ちらっと顔を上げて、照れ笑いを浮かべる。



……ありがと。大事に使うわ





メガネ大事にするって言ってるそばから顔面ダイブしてるなぁって思ったなどと





ふふ





アイリーン「やるじゃないアナタ」





あ、姉御!





あの祈雨丸に魅入られるなんて、随分な人間ね。特別に私の毛並みをもふもふしてもいいわよ


嬉しそうにしている緋奈子ちゃんを見守り



ええ、そうしてください


と呟く。
魔法を知覚する……すなわち、自らの真の姿さえ、彼女がそこに居れば見られることになる。
それを承知の上で、レンズを渡した。
この心以外は、隠し事をしたくない、と思ったがゆえに。
彼のその思いも知らず、緋奈子は無邪気に虎と戯れる。
時折虎に話しかけながら、未知なる魔法の断片に触れる姿はいかにも楽しそうだ。
それは、あるいは彼と同じ世界を一時でも垣間見ることができていることこそが嬉しいのかもしれない。
隠そうとするその心にこそ、本当は触れたいのだと……、それがわかるのは、きっと今ではないのだろうけれど。
背景画像
NEO HIMEISM 様
https://neo-himeism.net/
