誘拐騒動 その6



どうなってんの! 儀式なんてウソだったんでしょ!





俺にどなられてもな……! 文句なら屋敷の主人に言え!





やべえ、焦げる! おいおい、おい! あいつ、神なんだろ? 俺たちで勝てるのか!?


禍々しき威容。とても人の手に負えまい……!



ヒヒッヒ! 当然だー! 神なのだぞ! わしは神を召喚したのだ、ひれ伏せ!





う……う……


邪悪な魔術師のそばには倒れた少女。幸い、息はまだある……!



神ですって? 随分と大きく出ましたね……





アルマド?





こんなものは、神ではありません。いや、召喚とすら、呼べないでしょう。





どういうことだ? 現に喚び出されているじゃないか。


熱気! とてもイカサマや幻術とも思えぬ。



魔術の錬成の成れの果てです。この世の精気が出来損ないのように固まり、あたかも形を形成したかのように見えてしまう。





……実力のない魔術師が、やりがちな失敗です。





よくわかんねえが強そうじゃねえか!





アッチチ!





魔術下手くそのほうが呼べちゃうってこと? なにそれ、そんなの努力する気なくなるわ……





ええ、そう。だけど、実際世の中そうなってないのは――





??





うわっはっはっは!ゆけ! 狼藉者共を蹴散らせ!





えっ……?





!?


謎の不定形体は、突然屋敷の主人に突然噛み付く! ……それをすんでのところで防ぐ、リチャード。剣が押し返される!



ぐぐっぐぐぐぁ……!





ひ、ひえっ





とぅあ!


渾身の力を込め剣を振り払い、怪物を吹き飛ばす。



そう、未熟な魔術師が強力な魔物を生み出すなんて話は聞きません。それは――





偶然生み出したやつが、食われてしまうからってわけか!





ひっひえーー!





邪魔! あっち行ってろ!


力なく這いつくばる屋敷の主人を蹴り飛ばす。



こんなヤツでも助けないわけにはいかないわ。特に、目の前で食べられるなんて目にあってたら、ね!





倒せるのか? 倒せんのかよ……!?





どうだ、アルマド。お前の意見を聞きたい。





……正直、一人なら厳しい相手。……二人ならどちらかを犠牲にする必要があるでしょう。





なんだ。それなら楽勝だ。





俺たちは、四人だ! 一人も犠牲を出すことなく、叩き伏せろ!





……! 任せて!


吹き飛ばしたはずの怪物は、いつの間にか勢いを取り戻し恐ろしい勢いで襲いかかる!

それに負けぬスピードで飛び出す先発スネイク。
彼我はゼロ距離。剣閃、激しい金属音が鳴り響…………響かない!
そのまま怪物をそばをすり抜けるスネイク。そして逆方向から……飛びかかる影!



腕が……伸び切っているな!


上段の袈裟斬り! 怪物の体に深く潜り込むかのように見えた剣は、しかし、
ものすごい音を立てて止められる。



!


甘かった。相手は怪物なのだ。常識は通用しない。スネイクのフェイントで、腕は伸び切り明後日の方向。しかしリチャードの剣を止めたのは……第三の腕。



うわあ化物!





今更! ……ハッ!


気迫を込めた矢。
見事。怪物の中央に突き刺さる。……だが、効果が感じられない! 何事もないかのように振る舞う怪物。そのとき、
怪物の体内で弾ける氷柱。魔術……!?



座標指定。遅延発動。組み合わせればこんな芸当も可能です。





細かい魔術はわたしにはできそうもありませんからね。ククリがいてくれて、助かりますよ。





あら、持ち上げちゃって。何も出てこないわよ♪


ククリの矢にアルマドの魔術を乗せたのだ。卓越したチームワークのなせる技。



やべえ、暴れだしたぞ! 無茶苦茶攻撃してきやがる!





落ち着け。暴れているのは……焦っているからだ。畳み掛けろ!


触手のように暴れまわる多数の腕をかいくぐり、適切にダメージを与える。合間に魔術の込められた矢。氷柱が砕けるに合わせ、おお、見よ……怪物の体も大きくえぐれる!



これで……終わりだ――ッ


空気すらも斬り裂き摩擦で焦げ付くような、一閃。
!!!!!!!!!!
怪物は一度、大きく体を震わすと。
力を失ったように崩れ落ち。そして……徐々に体を失い、あとにはただ赤黒い影が残るのみとなった。



いい敵だった。





そう? 変わった感性ねえ。わたしは御免被りたいわ。





ジェニー!


倒れた少女に駆け寄る少年。



あっまだ危険かもしれないのに……!





う……う……





ユーキ……?





よかった……本当によかった……怪我はない?





暖かいよ……ユーキ……





やれやれ。せっかくお熱い敵を倒したと思ったのに、またお熱くなってきちゃったわね。





ククリ、そー言うの野暮って言うんだぜ。





グッ……! 諭されちまった よりによってスネイクに!


――その後――



屋敷の主人は城の方に引き渡しましたし、一件落着ってところですかね。





そうだな。娘は無事助け出した。あとはどうなろうが、俺たちの関与するところじゃないさ。





お母様。





…………





……





こちら、ユーキ。わたしの大切な……方。この度わたしの窮地を救っていただきました。





…………





(ひ~~~)





わたくしの記憶違いでなければ。ジェニー、あなたを救ったのは依頼請負人の方々なはず。わたくし自身が依頼をした、ね。





で、ですがそれは――!





どうお考えですか。





ぼ、僕は……たしかに何もできなかった……でも! 本当に、ジェニーを助けたくて! 僕は!





そのような理想で語られても困ります。具体的にできること、できたことでお話なさい。





うぐぐ……!





強くおなりなさい。わたくし、家柄など気にしませんが、我が娘にふさわしくない方を認めるわけにはいきません。





そんな……!





わたくしも私兵を抱えております。ちょうど、欠員がいましてね。健康な男子を一人探している、と言ったらどうします?





え?





あなたにその気があるのなら、ですがね。


突然の提案。戸惑う少年少女。その意味が、徐々に浸透し目を見開き



は、はい! 僕に務まるなら! やらせてください! ぜひ!





お母様――――ッ





わたくしも別に鬼ではございません。





言っておきますが、我が兵の訓練は大変厳しいものですよ。





やり遂げます! 僕、僕、きっと……!


二転三転した誘拐騒動も、これにて終了。
彼女の騎士様が誕生するのは、もう少し先の話。
誘拐騒動 終わり
