それが、我々に刻一刻と近づいてくるものだという事は、学生の誰でも知っているはずの事だった。
だが、それの存在はあまりに薄く、学生の誰もが見落としがちで気づいた時には目の前までやってきている。
もちろん、そんな学生の中に俺が漏れる訳もなく、その見落としに気づいたのはそれが目の前にきてからである。
誰でもいい…。
この…、
それが、我々に刻一刻と近づいてくるものだという事は、学生の誰でも知っているはずの事だった。
だが、それの存在はあまりに薄く、学生の誰もが見落としがちで気づいた時には目の前までやってきている。
もちろん、そんな学生の中に俺が漏れる訳もなく、その見落としに気づいたのはそれが目の前にきてからである。
誰でもいい…。
この…、
テスト前なのに勉強をしてない俺を助けてください!!
放課後の“いつもなら”のどかな時間。
俺は延彦、桜、実と共に近くのカラオケ屋にやって来た。
たまには大勢でカラオケに行くのも悪くないものである。
受付カウンターの横に設置されたドリンクを注ぎ、指
定された個室へと向かった。



うおっしゃー!!
まずは俺がドカンッと一曲…





ストーップ!!


延彦がマイクを持ち電源を入れて選曲を始めた瞬間、桜が止めに入った。



のぶりん、今日ここに来た理由が分からないなら…





帰っていいんだよ?


ニヤッと笑って言う実の目は、全然笑っているとはほど遠いものだった。
最悪、その視線だけで人が殺せても可笑しくない…。



は、はい…ごめんなさい…


完全に顔から血の気が引いた延彦は、大人しくマイクを机に置いた。



それじゃあ、勉強を始めましょうか





そうですね


二人は鞄から教材を取り出し、それを机の上に広げた。
俺もひとまず、鞄から教材を取り出す。



信一くん、今日は一言も発してませんがどうしたんですか?





あー、それなら安心しろ。この時期はいつもこんなだから





桜~、さっき私が説明したでしょ? 信一は頭が…





やめてくれ!!
俺の前でこれ以上言わないでくれ!!





でも、事実じゃない





だな





確かに…信一くんが真面目に授業を受けてる教科は文系くらいしか見た事ありません





うっ…


今日はテスト前日。
毎回そうだ。テスト前日まで何もしてこないが故に、毎回シワがここによって来て必死に勉強をするのだ。
それで毎回、赤点すれすれの段階に落ち着く。
だが、今回は違った!!



え~、
今回のテストから赤点判定の点数を10点上げる事になったからよろしくにゃ~


ふざけんなロリババア、ぶっ○すぞ!!
…とか言っても仕方がないので、いつも以上に頑張るしかないのである。
麻実たん大ちゅきでちゅ。



理系が壊滅的なのよね~





うぅ~…





大丈夫です、私が信一君に最初からすべて教えますから!!





さ、桜…!!





むっ…!!
わ、私だって信一に教えてあげるんだからね!!





実…!!


二人は俺の近くに移動して座り直した。
み、密着してる!! 今俺、女の子と密着しちゃってる!!



わかったから、早く始めようぜ


呆れた顔で延彦が開始の合図を告げた。



このルートの中を綺麗にまとめて…はい。ここまでが答えですね





ま、また間違えた





いや、凄くいいですよ! まさかこんな短時間でここまで覚えてもらえるなんて!!





信一はやらないだけで、やればできるのに…。どうしてやらないの? バカなの? 死ぬの?





まあ、普通ならできて当然の問題なんだけどな~





あう…


延彦の言葉に胸がチクリと痛んだ。
…そ、それでも落ち込んでる時間はない!!
俺は理系を死ぬ気で覚えようと努力した。



つ、疲れた…





壊滅的な理系はそこそこ終わったけど…


あの量でそこそこなのか…。



俺はもう飽きた!!
俺はなぜ呼ばれた!!
カラオケしにきたんじゃないのか!!


俺が一生懸命勉強を頑張っていた時、延彦は最初の5分は一緒にやっていたものの、結局残りの時間はスマホをいじるだけだった。
なにせ、、、、。
伊村延彦。学年順位5本の指に入る優等生である。
チャラチャラした容姿しといて頭の出来だけはいいんだよな。こいつ。
“人は見た目が全てじゃな”
こいつのための言葉だ。



私もそろそろ集中力が切れてきました…





私も限界…





よーし、それなら気分転換に歌うぞ!!


ここぞとばかりに元気になった延彦。
マイクを手に持ち、延彦はタブレットを使い曲を送信した。
そして5秒後には曲が流れだす。



うっし! 信一も歌おうぜ!!





でも…





気晴らしだって!!
またすぐに始めれば大丈夫だよ





…そうだな!!


結局、最初に歌った曲で4人全員のギアが入ってしまい、時間ギリギリまで歌い続けた。



じゃ、じゃあな信一…
その…
明日頑張れよ


会計を済ませ店を出ると、逃げる様にして延彦は帰って行った。



…はあ、やっちまった


その場の立ち尽くし、痛む喉が今の状況を全て物語ってる様に思えた。



理系はギリギリの戦いは出来るが…日本史一切やってない





その…信一。
信一さえよければ…この後、信一の家で教えてあげても…





本当か!? 頼む、実!!





わ、私も教えに行きます!!
信一くんの家に!!





頼む、桜!!


今はなりふり構わず、教えてもらえるのであれば甘えるしかない。
そして…。
赤点を取らないように覚えるしかないのだ。
俺たちはカラオケ屋から家に向かった。
