第1幕
金色の影
第1幕
金色の影



いやー、初対面の大人をカフェに連れ出すなんて…やるりますね、サヴァランくん!気に入りました!!





何でうちにいる!?





何でって…評判のキャンディを買いに来ただけですが…





こいつ…


あれから俺は、この怪しげな男ーーファウストを近所のカフェまで誘い出し、ことの真意を問いただしていた。しかしこの男、あくまでも自分から本題を切り出す気は無いらしい…俺はひとつ大きな溜息をつき、『ただの学生』から『ただの怪盗』にスイッチを切り替えた。



……『私』に、何かご用かな、ジェントル





………ふふ、ようやく認めて下さったのですね





ええそうです。ご用です、怪盗キャラメリゼ


少し前に届いたアイスコーヒーのグラスを弄びながら、ファウストは満足げに笑みを零した。



昨晩も話しましたが…僕の家の遺産を取り戻してほしいのです。これは、貴方にしかできない事なのです





………いいよ。やってやる





本当ですか!?いや…もっと難航するかと思っておりました…





話が決着つかなければ…今夜は寝かせない覚悟だったのですが…





何する気だったんだよ…





早く話に決着が付くなら、それに越した事はありませんね♪





言っておくが…私は今まで、あくまでも趣味として怪盗をやっていたんだ。絶対成功するとは限らないからね





その時は僕もお縄ってことですか?





そういうこと。その覚悟はある?





ええ、ありません


あっけらかんと言い放つファウストに、俺は思わず口元に持っていったグラスを取り落としそうになった。



お前なぁ…





失敗はしませんとも。そう神がおっしゃるのですから…





神?





ええ、神です。





我がゲーテ家が信仰する神…彼が、僕に啓示を与えたのです。





それと私に、一体どんな関係がある?


ファウストは興奮冷めやまぬ、というように、どこか遠くを見つめるような目をしながら言った。



神は仰せになりました…『世界に散らばる七つの遺産、金色の影、その力を以てして、在るべき場所に納めよ』と…





それが…?





ゲーテ家の遺産は、神がおっしゃられたように、世界中に分散しております。それを在るべき場所…つまり、ゲーテ家に戻すのは、今や底辺に堕ちた僕の力のみではどうすることもできません。





そこで必要となるのが、金色の影…つまりあなたです。


やばい、こいつが何を言ってるのか理解できない…。



比喩表現の解釈にしては無理矢理過ぎないか…?





いいえ、金色の影に関してはかなりの自信があります。夢の啓示で見た影は、まさしくあなたのものでしたから。





夢って…おおざっぱすぎやしないか…?





啓示とはそういう物ですよ。


無理矢理丸め込まれたような気がしないでもないが、これ以上聞いたところで俺には理解が及ばないだろう。



そ、それで?最初は何を盗んで欲しいんだ?





盗むなんて人聞きの悪い…取り戻すだけですよ





ですが、そうですね…せっかく依頼を受けてくれたのなら、気が変わらないうちにお願いしておきましょうか。


ファウストはアイスコーヒーを一口飲み、一呼吸置いて言った。



最初の遺産は、アマリリス夫人宅にある『金獅子の扇』です。期待しておりますよ、怪盗キャラメリゼ。


