第1幕
突然の刺客
第1幕
突然の刺客



はあぁぁぁ……





………





疲れが取れないよぉ…





………





はあぁぁぁぁぁぁ…





……ブリュレさん、うるさいです





やっと反応もらえた!!露骨な反応欲しいアピールしてるのになんで無視するのさリーナ!!!


総計8回目のため息でようやく声をかけてくれた俺の想い人…スノーボール家の令嬢・リーナ=アラモードことベルリーナ=スノーボールは、氷点下の瞳で俺を射抜いた…ああ、その目すら素敵だよ…ベルリーナ…



その反応が面倒だからですよ…





だって、リーナ今日はずっと本ばかり読んでるし、週末の予定聞いても上の空だし…





週末はアマンドさんと約束があるので





アマンド仕事が早い!!





本を読んでる時のリーナは、話しかけても本当に反応ないものね


そう言ってベルリーナの背後からひょっこり顔を出したのは、先ほど話に出てきたアマンド=ショコラその人だ。



もうそんなところまで読んだのね…!本当に早いわ…





ええ、今日で読み終わってしまうかと…あの、次の巻も貸していただいてよろしいでしょうか?





そういうと思って…ちゃんと持ってきたのよ♪はい、これね


アマンドがベルリーナに差し出した本の表紙には、彼女が読むには珍しいと思える題だった。それは…



『怪盗アルセーヌ・ルパン』…?リーナ、怪盗なんて興味あったんだ?


ちょっと嬉しくなって食いつき気味に聞くと、ベルリーナは真正面から俺を見据え……



ええ、最近話題になってるでしょう…怪盗キャラメリゼ





前助けてもらってから、急に興味が湧いたみたいでね…怪盗について色々知りたいんだって!





へえー、そうなんだー…へへ





ええ。彼は盗んだものを私利私欲のために使うと言いますが





……あれ?





中には、アルセーヌ・ルパンのように人の役に立たせることが出来る怪盗もいると聞きまして…





あ、あれあれ??





読ませていただいたところ、彼はとても紳士的で好感が持てますね……あの方と違って





ぐはっ!!!!


全力でディスってきた



どうしたのサヴァラン!?





い、いや…何でもないよ…なんでも…


ベルリーナは、怪盗キャラメリゼの正体が俺だということを知るただ一人の人物……だった。昨日までは。そんな彼女からの真正面からぶつけられた言葉は、俺を消沈させるには十分すぎるものだった…心が痛い…



アマンドー、先生探してるよー!





え?ほんと?分かった、すぐ行くわ!





リーナ、本返すのはいつでもいいからね!





分かりました。メルシー、アマンド


アマンドが立ち去ったことを確認し、俺はベルリーナにずいっと顔を寄せた。



なんですか





お話があるんだが





………ええ、分かりましたよ…屋上ですね





あれはいくら何でも酷くないかな!?俺泣きそうだったよ!?





事実だから仕方ないではないですか。実際、あなたはその盗みの技能を誰かの役に立てているので?





それは……でも、そういうのは本人がいる目の前でいうことじゃないだろ!?





私、陰口は嫌いですから





もおぉぉぉぉ!!そういうところほんと好き!!!!


怪盗に関しての話を赤裸々にする時は屋上で。言葉を響かせる障害が少ない屋上は、多少人がいても声が届かないような場所をキープすることが出来るのだ。本日5回目の愛を叫んだ俺に多少引きながら、ベルリーナは続ける。



少しは人のためになることを考えたらどうです?義賊をしろとは言いませんが…





人の役に…なぁ…


そう言えば、つい最近そんな話がなかっただろうか。俺はゆったりと記憶を思い起こし…そしてそれは昨夜の記憶にぶち当たった。



あなたに、その類希なる能力を駆使して、僕の家の遺産を取り戻してほしいのです





あ





なにか思い当たることでも?





ああ、あるある!!あった!!


ベルリーナに鼓舞された(最も本人はそんな気はさらさらないだろうが)ことにより、面倒だと振り払ったその言葉が強い熱を帯びた…もっと彼女に認められたい…そのためなら俺は…!!



やってやろうじゃないか…本当の、『お仕事』としての怪盗って奴をさ…!!





はぁ…?全然状況が理解できませんが、頑張ってください


ちょうどそのタイミングで予鈴が鳴り、俺たちは教室にもどった。その日は変わったことも何もなく、いつも通りベルリーナを家に送り届けてから、俺は自宅のキャンディショップに向かった…。



母さん、ただいま。何か手伝うこととか…





……な…!?





うふふふ、そうなんですか…!おかしい…!!





あら、お帰りサヴァラン。お店の手伝いは大丈夫だから、お風呂の準備をしてくれないかしら?





あの…母さん、その人は…?





へ?ああ、この方ね。





今日初めてお店に来てくれた方なのだけれど、とってもお話が面白くって…つい長話しちゃったのよ





おや、もしかして、先ほど話されていたご子息の方ですか?





ええ、そうです。ほらサヴァラン、ちゃんと挨拶なさい。





あ…ああ…えっと…





初めまして、サヴァランくん。
僕は…ファウスト=ゲーテと申します…以後、お見知りおきを


Oh...mon dieu...
