


おいおい、せめぇな。





な、何ぃ! 正木の分際で!
女の子の部屋に上げて
貰えるだけで感謝しなさいよ!





正木先生すみません。
確かにここで六人は
無理があったかもしれません。


今日は私・大神 真悠(オオガミ マユ)の誕生日。高校生活最後の誕生日だ。月曜日にもかかわらず、正木先生を始めクラスメイトが集まってくれた。
私は親元から離れこの1Kのマンションに一人で暮らしている。一人で住むには充分だけど、誕生日会をするには狭すぎたみたい。



まぁまぁ、
狭くても良いじゃん。


メガネを掛けているのは龍太郎。高校一年から二年三年とずっと同じクラスの腐れ縁。気が弱そうだけど、本当に弱い。草食男子に見えて、草すら食べない感じ。



龍は大好きな真悠の
部屋に来れるだけで
本望だもんな。





ななな何言ってんの叔父さん。
別にそんなんじゃぁ……





ま、正木先生、
そうやってからかうの
止めて下さい。


私達をからかったのは、正木(マサキ)先生。私達の担任で、龍太郎の叔父さん。性格は見ての通り軽くてテキトー。伊達に人生経験が長いわけでなく、雑学全般に強く、変な空手(?)の有段者らしい。



あっ! もうビール開けてる!
もうすぐアゲハ達が
来るんだから待てないの!


正木先生に声を荒げて飛ばしているのは、やっぱり三年間同じクラスのるり。強気で前向きな性格でいつも励まされている。先生の事を正木って呼び捨てにしてるけど、好きみたい。言われたわけじゃないけど、隣で見てると流石にわかる。先月るりの誕生日の時に、先生から貰ったミサンガをずっと大切につけてるし。



プッハー。
やっぱ仕事終わりの
一杯はたまらん。





も~!





まぁまぁ。
確かに正木先生仕事で
疲れてるだろうし、
飲ませてあげよ。





甘やかすとすぐに
調子に乗るよ。この人。





確かに……。
それにしても遅いね、
アゲハちゃん達。





ヤッホー、お待たせー。
友也君連れてきたよー。





おう、おせぇぞ、
おめぇら。
早く上がってこい。


調度良く、話題になったアゲハが来てくれた。明るくて元気なムードメーカー。クラスの人気者だ。こんなにも元気にしているけど、最近、お兄さんを病気で亡くしたみたい。



…………。


寡黙なこの人は友也君。いつも一人で居るのに気を使ってか、アゲハがやたらと声を掛けている。悪い人ではないのだけど、何を考えているのか分かりづらい。



よぉーし!
それじゃ、早速、
真悠の誕生日会始めよっ♪





おっしゃー!
飲むぞーー!





あんまり、飲みすぎないでよ。
家まで連れてくの
大変なんだから。





『大変』って言葉は
大きく変わるって読むんだ。
その大変な事を成し遂げた奴は
すげぇ成長出来るって事だぜ。





って、どこかの偉い人が
言ってたんでしょ。





その偉い人の隣近所の人だ。





また正木先生の
テキトー話。


買ってきた色んな料理と共に、皆の会話で賑わいだした。そして、プレゼントの時間になった。やっぱり皆が私の為に用意してくれた物を見るのは心が躍る。とっても楽しみで顔が緩む。



るりの誕生日会と
一緒だよね?





そうよ。
皆のプレゼント混ぜちゃって
誰からの物か分からなくするの。





友也君、先月居なかったから
分かんないだろうけど、
これがなんだか面白くって。





わかった。
楽しそうだね。


友也君はすぐに理解したみたいだったけど、顔は全然楽しそうじゃない。



俺のプレゼントはなぁ~
あれだ、なんつーか
ヤバイぞぉ~。





アホがばれるから
喋らない方がいいんじゃない。


そしてシャッフルの時間が来た。私は後ろを向いて、一人づつ大きな袋にプレゼントを入れていく。時々笑い声が聞こえてきたりするんだけど、その気持ちは分かる。喜んで貰えると思って、ついつい笑みが零れる。私はドキドキしながら、色んな想像を膨らます。
そんな事を考えていると、るりの合図がきた。全員入れ終わったようだ。



皆ありがと。
それじゃあ、出していくね。


世界の魔術大全



ああーっ!
これ私が欲しがってた本。
これってもしかして……





WEB小説書くのに欲しいって
言ってたわよね。
まっ、誰のプレゼントかは
分からないけどね。


私がネットで創作物語を書いているのは、近しい人なら知っているけど、この本の事は、るりしか知らない。とぼけてるけど、絶対にるりだ。凄く高かったのに……、バイト代奮発してくれたんだ。ありがと、るり。
救急箱(ミミック)



!?





それは、
救急箱、かっこミミックだ。
どうだすげぇだろ。





はぁ~。
誰も期待はしてなかったわよ。
しかも自分って
言ってるようなもんだし。





あはは、は。
可愛いぬいぐるみ。
ありがとございます。
正木先生。


そして残りのプレゼントもどんどん出していった。皆の気持ちが嬉しくってちょっとウルッてきちゃった。
!?



あれ!? もう一つ
プレゼントが入ってる。


もう一度、取り出したプレゼントを見ると5つある。一人一づつだと当然5個。明らかに一つ多い。
袋の中に入っていたのは、20センチくらいの箱だった。
真っ黒な下地に深い青色の装飾。鍵穴が一つあり、箱のいたる所に、見たこともない文字がビッシリと張り付いている。



正木ぃ~、どうせあなたでしょ?
バレバレなんだから。





いやいや知らねぇって。





先生のはあの
救急箱だよね?
てかあれは先生以外に
買う人想像出来ない。





まさにその通り。
って事は俺無罪。





だから、
誰かが二つ入れたって事でしょ?
もう白状してよ。





じゃぁ、やっぱり
先生でしょ。





あれ?
俺なの?
もう酔ってるから
そんな気がしてきた。





あはは、なるほど。
こんな作戦もあったか。





…………。


沈黙が部屋を包んだ。私も普通のプレゼントならそう思うんだけど、物が異様な雰囲気を放ってるせいか緊張感が増してきた。



中身は何かしら?
え!? こ、こ……ぇ……





よっし、俺が開けてやろう。


るりから箱をふんだくった正木先生は箱を開けようとする。しかし、箱は全く開く気配はなかった。



特段開かないとかかな。
アンティークで、
眺めて楽しむとか。





まっ、
貰える物なら貰っておけば
いいんじゃないかな?





そうね。
誰のか分からないけど
これが本命のプレゼント
かもしれないしね。


私はその箱を他のプレゼントと一緒に貰う事にした。



何か、いや、
きっと、気のせいよ。


次の日へ続く
