厨房に着くと、既に数十人のコックが忙しく動き回っていた。
当然ながら、真剣な表情だ。
厨房に着くと、既に数十人のコックが忙しく動き回っていた。
当然ながら、真剣な表情だ。



たつき!!


大柄の男が近づいてきた。



仕込み中に入ってくるなって言ってるだろ!!…誰だ、そっちは


この人が綾瀬の父親だった。
ムッとして文句を言おうとした江岸を抑え、俺が前に進み出る。



突然押し掛けてすいません、綾瀬料理長


料理長が眉をひそめる。



一昨日越してきた工藤柊作と言います。本日は料理長にお願いがあって来ました


後ろの2人が息を呑んだ。
俺がいきなり料理長の前で土下座をしたからだ。



今日1日だけ、厨房を貸していただけませんか


これが計画の要だ。
成功する確率は悲しい程に少ない。
見ず知らずの新参者がコックの戦場である厨房を貸せと言うのだから。
正直、半殺しにされて追い出される覚悟だった。
だけど、これしかなかった。
市の人に謝罪と感謝を示すにはこれしか思いつかなかった。



……顔を上げろ


やがて、料理長が口を開いた。
ゆっくりと顔を上げる。
そこにはしかめ面の料理長が立っていた。



娘から話は聞いている。なるほど、お前が工藤柊作か


何か必死に考えているようだった。



そして、露樹から事情も承諾している


意外だった。
露樹さんが根回しをしてくれていたなんて。



普通なら、たとえ妻が頭下げても貸さねぇつもりだった。おいそれと部外者が入り込んできたら迷惑でしかねぇからな


そこで気づいた。
後ろのコックが手を止めてこちらを見ていることを。
しかも、笑っている。
料理長の顔が緩んだ。



真っ直ぐな眼をしてるじゃねえか。気に入った。弱音吐いたらすぐに叩き出すからな


成功すると感じた瞬間だった。
後ろの2人がパッと笑顔になる。



野郎共、今日は岸ノ巻全員が客だ! 今回は工藤の作ってきたレシピを元に調理に取りかかる! 幸い必要な食材や調味料は全て揃っているから、今からコピーしてくるからお前らは工藤に機材の使い方を教えてやれ! おらたつき!!お前らは邪魔だ!! 出てけ!!


料理長は正直むちゃくちゃだ。
けど、こちらの事情を察し、動いてくれている。



いい街だな…





だろ


隣のコックが笑いかけてきた。
それにつられて笑顔になる自分がいた。
