私は何もかも忘れ、ただカゲツの元に駆け寄った。



カゲツ!!


私は何もかも忘れ、ただカゲツの元に駆け寄った。



あ……


か細い声と、小さな姿。
そこに居るのは確かなのに、ほとんど輪郭が、厚みが、色が、存在が感じられなかった。



カゲツ……今霊力を分けてやる、もう少しだ、もう少しだけ耐えてくれ!





か……がみさん





喋ると消耗する
黙っていろ





……「先生」





……いま、なんと





こんな間際にやっと思い出すなんて、本当、遅いですよね。





鏡水(かがみ)先生……


霊深度
+
00
八



あ の 男……もう駄目だな





はっ?





あ の 男に邪魔されぬよう、どれだけの策を講じたかお前はよくわかっているだろう





え、ええ……
移動の痕跡、匂い、気配すら残さないようにし、撹乱のために見回りを休憩中の彼のところに行かせたり……





さ ら に、中にサンプルが居ることを悟られぬよう、入り口には幽体で網を張り巡らせてある。
……そ こ までしたのに、何故あの男はここに気づけた?





……





あ の 男は、霊の深淵に触れすぎた





……





カガミが、霊に近づきすぎた……霊深度を上げすぎて、「壊れた」と?





余 程 強い霊でなければ破ることのできない網に勘づき、抜けてきたことを考えれば、そうだろう。
……あ の 男は、もう存在を死毒に侵されたようなものだ





毒……





霊 深 度が大きすぎれば、それは霊に近づくということ。
強 霊 ほどの超感覚を持てるほどの霊深度……人間の体に耐えられる負荷ではない





ま あ、幽霊じみていたのは前からか





……それは





まさか、あの幽霊の実験を行ったから、なのではありませんか





霊の性質を暴き出すのは、技術以前に倫理的にタブーとされる行為を駆使するもの。
あれらの実験をほぼ一身に背負ってしまったからなのでは……





そうだが?





!





貴方は!!
カガミにあの幽霊を任せるのは、せめてもの慈悲だと仰った!!





カガミにせめて実験を監督させる権限くらいはやりたいのだと!





だから僕も賛成いたしましたし、今日のような時折のカガミ抜きでの実験も彼に配慮してのものだと思って、黙っていたのに!!!





シド様!!
貴方はカガミに厄を押し付けたのですね!!





彼を矢面に立たせ非道なことをさせただけに飽き足らず!!
命に関わる厄を!!!





そ れ がどうした





!





「それがどうした」?
今、そう、仰ったのですか……?





そのような、言葉……
師として尊敬していたお方から聞きたくはありませんでした





そ の 師に逆らうお前の言葉はさぞかし聞き心地が良いのだろうな?





それは…………





我 儘(わがまま) はもう十分言い終えたか?





逆 ら うな。
私 の 手をこれ以上煩わせるな





……はい


