そんな血管が破裂しそうなくらいの緊張感で外に出て行った小暮と菅原を一気にクールダウンさせたのは



わかった表に出ろよ。今度は俺が外で昼寝させてやる





上等だよ。この野郎。
俺なりにてめえの手癖と猫背を強制的に矯正かけてやるよ


そんな血管が破裂しそうなくらいの緊張感で外に出て行った小暮と菅原を一気にクールダウンさせたのは
大通りから鳴り響くパトカーのサイレンであった。
しかもこの映画館沿いの裏路地を囲うようにして人だかり数人の警官が来ている。



またお前何か悪さしたのか?詐欺恐喝か?死体処理を誤ったのか?





物騒な事言うな。
この前、行政監査パスしたばかりだ。
お前こそ闇スロとか申告してない施術代とか腹黒いネタいっぱい隠してるんじゃねえのか?


二人の冷や汗をよそに、
気でも触れたかように泣きわめく老人を警察が制止している。
例の子猫ちゃんかと思って覗くとそれは劇場支配人であった。



彼女を放せ!
お前たちが気安く触るんじゃない!!


そして固く小さくなった愛しの子猫ちゃんの亡骸を救急車がタンカーに乗せて運んでいくところであった。



秋子!秋子!


どうやら支配人は彼女の本名を知っていたようだった。
その名前をずっと叫び続けた。



…


すると次第に群衆の中の誰ともつかない声が呟きはじめた。



マジで死んじまったのかよ。あのババア





かわいそう





これでこの町もクリーンになるな





いつかはこんな日が来るとは思ってた





まあ自業自得じゃねえの?


松田はその心無い声に向かって泣きながら道の小石を拾いぶつけ散らして声を荒げた。
その叫びは何を言っているのか誰にも聞き取れなかったが、
その狂気は自然と半数近くの野次馬たちを追い払った。



やや、誰かの叫び声!!
夏美さん、私の後ろに隠れて!!
喧嘩はお江戸の華ですから、心配ありませんから!!





織原さん、頼もしい!
でもちょっと変!


その人混みの中には経華と夏美もいて一部始終を見ていた。
その姿に気づいてシレッと映画館に逃げようとする小暮を菅原がしっかりとつかみ



うう、よせ。放してくれ。





織原警部殿!
犯人の身柄確保致しました!





え?…ああ!!





あ!…うう


経華は驚いて10秒くらい小暮を見つめた。
小暮は万引きが見つかった中学生みたいな顔をしながら



これ忘れ物





え……あ…


と携帯電話と財布を差し出した。
経華はありがとうを言う心の余裕もなく、
黙って手に取るが何を返していいのかわからず目を泳がしている。



とりあえず、館長を何とかしないといけないから





ぐがあ!!うおおお、放せ~


と小暮は今にも発狂してしまいそうな劇場支配人を無理矢理引きずって映画館の中に入ろうとするが暴れて中々手を焼いている。
すると意外な声が彼にかけられた。



お父さん、しっかりしてよ


続く
