20世紀のメロディー
20世紀のメロディー



鬼って英語で何て訳すか知ってます?





また唐突に何なんですか?





いいじゃないですか。
唐突に言われても特に問題ないくらい僕たちはヒマを持て余しているのですから。





またそうやってサボろうとする~。
せめて仕事の話でもして下さいよ。





そうだ!今度この店の商品何点か持って行っていますぐ浅草寺で露店出しましょうよ?
仮に売れなくても店の宣伝にはなるでしょう?





うーん、確かにそれは主流の発想ではありました。ただし、大昔の話です。





大昔って…
ふん、どうせ働きたくない口実でしょう?





いえいえ。
もし商品が盗まれたり、移動中に破損する場合を考えたらとても割に合いません。
ウチの子たちはデリケートですからね。





物量からして前日から前乗りして高価な荷物をテントで寝ずの番で監視しなければいけないので相当なリスクが必要なのです。





第一、簡単に言いますけれど浅草寺近辺で露店を出すのって申請も大変、
コネクションもいる、
場所代も高価、
いにお君の思うような“近場”では決してありません。





つまり露店ほど敷居の高い商売はないのです!!





…わかりましたよ。
その落語のような決め台詞に降参です。





もー、仕方ないですねえ。
鬼を英語で訳すとか…





GHOST(幽霊)ですか?もしくはSPECTOR(悪霊)とか?





残念!答えはDEMONでした。
鬼は英語圏では幽霊でも悪霊でもない、正真正銘の真っ黒な悪魔なのですよ。





へー、それはそれは博識なんですね~。普段からよく口癖でも言っていますしね。





That's Demonic!!
あるいはいたずらをする小鬼はgoblin(ゴブリン)なんて言ったりしますね。





ただこれはどちらかというとチャチなfairy(妖精)といった扱いで、やっぱり幽霊や悪霊とは微妙に違うわけです。





ああ、そっちの方が馴染みがありますね。
RPGやファンタジー小説で定番な感じというか。





じゃあ妖精や悪魔と、悪霊や幽霊はどう違うんですか?





すいません、そこはネイティブじゃないんでよくわかりません。
僕一応国籍は日本で仏教圏の者ですし。





それだけ会話に英語散りばめてるくせにその逃げ方って…





じゃあ、はじめからそんな話題を振らないで下さい!
怒りますよ!?





あはは、やだなあそのセリフを言うなら
“怒りますよ”
じゃなくて
‟怒らせないでください”
でしょう?





繊細な言葉の使い分けこそ日本人の美徳ですよ、いにお君?





だからどの口がそれを言う!?





ごめんください


そんな他愛もない話をしていると、ドアをノックしてお客さんがやってきた。
20代後半の金髪ハーフの女性。



ちょっと見ていただきたい品物があるのですが、よろしいですか?





もちろんです!
さあさあ、どうぞどうぞお出し下さい♬





はい、実はこちらの品物なのですが





これは…





金鋳の西洋アンティークなのは間違いないですが…
周りに自転車のキーチェーンみたいに回転式のダイヤルロックかな?





店長、いまお客さんかもしれない人が入っていったかもしれません!!
でももしかしたら変な人だったかもしれなかったし、気のせいだったかもしれないんですけど、実際どうでしたか?





坊野さん、気づくの遅すぎでしょう!?





ありがとう、香奈子さん。正解は一番で‟お客様がいらっしゃいました”でした~
もう接客しているのでご心配なく。





あとは適当に片付けだけして上がって下さい。
今日も一日お疲れさまでした~





はーい。さようなら~





だから甘すぎでしょう!?





あ、あの…





あはは、失礼いたしました。
これはですねえ、
クリプテックスといいます。





クリプテックス?


続く
