野太い声に夜暮は振り返った。



それで、どうなんですか?
他殺なんでしょう?





あ、ああ……





他殺は他殺だが、他所で殺されてここに運ばれてきたみたいでな。
遺体もバラバラだ。
犯人は力のある、きっと男だろうってことしか今は分からないな





そうですか……





落ち込むなよ。
幸い、ここは道が一つしかない墓地だ。車通りも少ない。
近くの防犯カメラでも確認すりゃ犯人の手がかりも見えてくるだろ





そういえば鑑識が見当たりませんけど





え? いや、鑑識作業は終了してるが、さっきまで……





おーーい、夜暮ーー





!


野太い声に夜暮は振り返った。



時田さん?



恰幅の良い男がテープの向こうに見えた。筆を小指で挟んだ手を揺らしている。
鑑識の時田 真白(ときた ましろ)だった。



どうしたんですか


夜暮は忙しく歩き回る刑事たちの合間を縫って、来た道を戻る。



いや、今入り口で不審な奴を見つけたんだ。
こいつがな、クイーンがどうとか……





……


いかにも不審者といった人物が、そこにいた。
黒いヘッドフォンを首に掛け、
陽を避けるように深い茶色のフードを深く被り、
困ったような左目の目元には二連の泣きぼくろ……



数奇さん?!





……夜暮さん


数奇は小さな声で言った。



五日町さんから、ここに来るようにと





クイーンが?
でも、今日は休みなんだろ?





ええ……


夜暮は頷いた。



ええ……それで、代わりに、行くようにと……言われて





環ちゃん、最近何か楽しいことあった?
髪とか肌にツヤ出てる気がする


男が優しく指を五日町の髪に伸ばした。



芳賀駿人(ほうが すると)


五日町は、その手首をやや乱暴に払いのけた。



それよりもお前の話が聞きたい


五日町に芳賀と呼ばれた男は、ひゅうっ、っと高い音で口笛を鳴らした。



情熱的♪





ところで、その、「クイーン」というのは何か現場での用語か符丁のようなものなのでしょうか





ああいやいやいや





なんでもないですよ





気にしちゃいけない





?


