数奇が五日町と次に会ったのは一週間後のことだった。
数奇が五日町と次に会ったのは一週間後のことだった。



遠巻満から話を聞き出すのに手間取った





自分の引き起こした火事の話など聞かれたくはないですよね


席に着くや否や話し出す五日町に、数奇は当惑を含んだ声で答える。



……あ、注文のもの、持ってきて下さい





かしこまりました





どうも


五日町はほとんど待たずに渡されたコーヒーに口をつけると、わずかに喉を湿らすだけですぐにテーブルに戻した。



火事の起きる一か月前から直前までの間、小学生程度の女子の出入りが目撃されていた





小学生くらいの女子……





遠巻満によれば、『ひどく生意気な』少女だったそうだ





ねえ、おじーさん、遊ぼう!





ん? お前、いったいどこから……





お庭の門開いてたよ! それで、綺麗なお花が咲いてたから入っちゃった





こらこら、開いてたってひとの庭に勝手に入っちゃいかんだろう





ねえおじーさん、あそこに咲いてる赤い花摘んでもいい?





ん? 紅葉葵か? ペンタスか? それともダリアか?





分かんない! あたしそんなに花知らないの。おじーさん物知りなんだね





儂の庭だからな





ね、おじーさん、どれがどのお花か教えて!





そうですか……遠巻さんとも交流があったんですね





実の家族に理解されていないとあれば、花について語れる唯一の機会だったのかもしれないな。
毎日のように遊びに来るその子の相手をしているうちに仲良くなり、あの離れで薔薇を見せたらしい


傷んだものでも良いから一本切り花が欲しい、そう頼まれたのだという。断る理由もなく一本渡し、



今日はもう遅いから帰りなさい。明日来たら、長持ちするように処理した花をあげよう


と、約束した。



……それが、火事の前日だ。お前が青薔薇を見た日だな。
その女子が『明日』渡す、と言っていたのは、処理した薔薇の方を渡すつもりだったからだろう


五日町はそこでため息にも似た息をついた。



火事の当日については、遠巻満は『よく覚えていない』としか言わなかった。
火事の原因は庭の桜の木の近くで動いていた発電機か電源を切り忘れていた芝刈り機の火花、自分は気が付いたら煙に巻かれて気を失ったそうだ。
その女子のことも、悲鳴は聞いていない、姿を見てもいない。それが供述内容だ





そこだけ話が曖昧ですね





……警察の記録だが、遺体が見つからなかったことから、死者は無しということになっている。
だが、確かにその少女の姿を見たという証言が寄せられていた。
近隣の病院では大きな火傷を負った患者は遠巻満しか入院していない。
火事で遺体が原形をとどめないほどに損傷し、検視の目を潜り抜けて瓦礫とともに撤去されてしまった可能性がある。
それがあり得るほどの大火事だった





家族は? そんな曖昧な処理で引き下がったのですか





そこが問題だ


五日町は、手帳から目を上げた。



毎夜来ていたことから、その女子の住所は茶土町あるいはその周辺と想定できるな?





? ええ





近隣住民だけでなく隣町や区も、その時期に旅行や帰省していた家族もすべてを調べた。聞き込みもした。
……あの時期に行方不明になった子供は居ない。大人もな。





え?


