01 全てはここから
01 全てはここから



全く、言うことを聞かない、すぐに物を壊す、わたし もううんざりしましたからね!





お父様にはもうご連絡しました。あなたの世話を見るのもこれでおしまい。どうも、あ・り・が・と・うございました!





……あんたみたいな子は、きっとまともな大人になれないでしょうね。バイバイ!


ザー……ザー……



(あ……雨降ってる……)





そっか今週、ずっと雨なんだっけ……


あたしは須藤 恵。
お父さんはいつも海外で仕事だから、家にはあたし一人。それを気にしたのか、頼みもしないのにホームヘルパーさんをつけてくれるんだけど。
いっつもうまく行かなくて。喧嘩ばかり……大抵長続きしなくて、今の人も5人目。その人も、いま、音を上げて出て行っちゃった……



だってしょうがないじゃない……この家に、他人が入ってきて、勝手知ったる感じで振る舞うなんて……耐えられない……





お父さんは、気にしないのかな……あれから、3ヶ月しか経ってないんだよ……


鳴り響くドアベルの音。
ム、ムカムカ……何よ、帰ったんじゃないの。どうせさっきの人だ。今更なに? あたしはとびっきりの罵声を浴びせるため、大きく息を吸い込み、



あんだけ捨て台詞はいといて今更! そんなにお給料がほしいの。どっか行っちゃえバカぁ! ヘルパーなんて、金輪際お断りよ!
……あっ



ち、違った。
玄関の扉をあけてそこにいたのは宅配のお兄さんだった。突然罵声を浴びせられて、少しひきつりながらも笑顔を忘れず、荷物を渡してくれた。
何たる仕事のプロ。イケメン。それに引き換えあたしのオマヌケっぷりと言ったら。あう、あわ……



(フー……冷静になれ。ノーカン、ノーカン。なにも失敗してない。そうだ、記憶を改変すればいいのよ。)





よし、思い出してきた。あたしは、ヨーロッパの貴婦人もかくやという優雅さで舞いながら、宅配のお兄さんを魅了したんだったわ……そうだ、そうだった……


馬鹿なことを言いながら、届いた荷物をあらためる。
かなり大型のダンボール。あたしが入れるくらい。差出人は……須藤道隆。
なんだ、お父さんだ。



(お父さんは差し入れとか気の利く人じゃないんだけどな。誕生日に現金をぽんと寄越すような人だし。)


一体なんだろう。
そう思いながらガムテープをビリビリと外し、3重にかさねられた口を開くと、そこには。
白い、たまご型の物質に中心部に突起。
上に2つ、下に1つ引かれた線。
……線? 線と言うよりは割れ目。見慣れた物。――すなわちそれは、




ひ、人の顔ぉ……!?


そう、箱の中に入っていたのは人だった。
現実離れした、綺麗でサラサラの青髪。眠るように横たわる大人の女の人。



……違う。


――さわさわ。こわごわ、肌に触れてみる。人にしてはあまりに硬く冷たい肌触り。とても血の通った人間とは思えない。



要するに作り物ってことでしょ。人形だか、ロボットだか……こういうの、アンドロイドって言うんだっけ。


ほっと止めていた息をはく。危うく監禁事件の片棒を担がされるところだったわ。脅かさないでよ、とぼやきながら、その綺麗なほっぺを指で押してみる。
意外にもぷよっと柔らかい、こともなく、やっぱり顔もどこもかしこもカチコチ。



ふん……なんの気まぐれかしらないけど。お人形遊びなんてとっくに卒業したよ。……ちっともあたしのことなんてわかってないんだから。





はいはい、仕舞い、仕舞い。





それは突然のこと。箱の蓋を閉じかけたあたしの手を、万力のような力で掴む手あり。うわぁ、なんという力だ。逃げられない。
ウィーン。箱の中の人形はわずかな動作音と共に立ち上がり――


あまりの驚きに説明ロボットと化すあたし。
落ち着け。



―――――――





…………





―――――――





…………





起動を確認しました。ひな鳥の慣例に従って、最初に視認したあなたを母親と登録しますが、よろしいでしょうか。





いや、だめに決まってるでしょ……





かしこまりました。父親で登録します。





違う! 性別の話はしとらん!


現れたのはアンドロイド。性別は女性。性格はへんてこ。
これが須藤恵とへんてこドロイド、エイミさんとの最初の接触。あたしの世界に突然現れて、一体何をしようって言うの――
続く……
