——ロビン義賊団アジト・外
——ロビン義賊団アジト・外
…………
その日の夜は、眠れなかった。みんなが寝静まった後、俺は建物から出て夜風に当たっていた。森の中特有の土の匂いとか、風が木の葉を揺らす音とか…それらが、少しだけ突きつけられた現実を忘れさせてくれた…
……圭
圭に会いたいな…俺がこっちいる間、向こうはどうなってるんだろう…ここと同じように時間が進んでるなら…俺、行方不明扱いされてるかな？…いろんな人に心配かけてるかもしれないな…でも、もしそうなら圭は…？考えたくない…
……願いを叶えるには…代償が必要……それが、アルマの死……
はたして、そんなことをして、圭は喜ぶのか…？誰かの命を犠牲にして助かったって聞いたら、圭は…いや、言わなきゃいいんだ…最悪、俺だけが背負えば……いや、そもそもーー。
………アルマを殺すなんて……出来ない
止まっていた涙がまた溢れてきそうだった。アルマは友達だ…たとえ一時共に過ごしただけの人でも…友達なんだ…シルフだってーー
……シルフ……
そういえば…シルフに『友達になってくれ』って、言ったことあったよな…俺……その後、シルフ、なんて言ってたっけ……？
………思い出せない……いや、違う……
そもそも、その後の記憶が無い……俺、あの後どうやって部屋の中に戻ったっけ…？どうやって、ベッドにはいったっけ…？
…はは…そっか…
仲間だと思っていたのは、俺だけだったんだ…いや、そうだよな…シルフはアルマの騎士なんだ…アルマを危険に晒すようなヤツと、友達になんてなりたくないよな……俺、本当に…何もわかってなかった……。
———
？
ん？今、なんか……
ーーぇ……す…て……
声…？誰か起きてきたのかな…でも、この声…聞き覚えが……
たすけて
うわあぁぁ！？！？
ひゃあっ！？
突如目の前に真っ白な女の子が現れた…！！しかも…浮いてるし、なんか透けてる…お、お化け…！？
うわあああ出たあああああ！！！！
ま、待って…逃げないで…！！
ごっ、ごめんなさいごめんなさいごめんななしあうさいああああああ！！！
う…あ、あのっ！！時間、ないの！！話を聞いて！！
女の子は俺の前に回り込むと、少し早口になって話し始めた…
あの子たちをたすけて…！あなたなら、きっと助けられる！！
い、いや…え？あ、あの子たちって…？
アルマとシルフを……うう…だめ…時間が…
女の子は次第に薄くなり、その場から消え失せてしまいそうだ…というか、アルマとシルフって…！全然状況分かってないんだが…！！
ラムゴのノーツモニュメントに来て…まだ間に合うから…！！
ま、待って！！
そう言うと、女の子は完全に消えた…
アルト！？どうしたの、すごい悲鳴が…！！
おいおい…こんな時間に一人で外出るなんて危ないぞ？冷えるし…
……ラムゴ
ラムゴ？
い、今、お化けが…それで、アルマとシルフを知ってるみたいで…ラムゴの、ノーツモニュメントに来いって…！
おばけぇ！？
ラムゴって…あの？
………
アルト、それは確かだな？
え？
ラムゴに来いって…そのお化けは言ったんだな？
う、うん……
俺が頷くと、ネプトは顎に手を当て考える素振りをした…そして、ウィルさんの肩を叩き、一言。
馬車、今すぐ手配できるよな
無茶言うねおひいさん！？
でもまあ…分かった。おひいさんが言うなら…
さんきゅ、ウィル！
礼は弾んでよね？
楽しみにしてるから
お、おう……
馬車って…？
ラムゴは…ここからだと近いほうだけど、それでも徒歩で行ったら半日はかかるわ。だからこその馬車なんだろうけど…そんなに急ぐことかしら？
…ラムゴは、アルマとシルフにとって思い出が深いところなんだ。若しかしたら、まだそこにいるかもしれねえって思ってな…もしそうなら、すぐ行ったほうがいいだろ。アルマを希望神殿に連れていかれちまったら…お前の負けだぞ、アルト
………
馬車の手配が出来次第出発しよう。準備しとけ
ネプトとウィルは建物の中に戻っていき、俺とルナはそれに続いて建物の中に戻った…アルマとシルフを知っていた…あの子は一体……？
それから数十分後、手配された馬車に乗り込み、俺たちはラムゴへ向けて出発したーー。
――ラムゴ小国跡・林間部
………ここで、僕は……
うっ……ぐ、う……！！
アルマ！！
だい、じょぶ……ちょっと、気持ち悪いけど…でも……！
…あまり無理しないでくれ…
……うん……
……お墓、建ててくれたんだ
遺体は埋まってないけどな…天族が回収しちまったから…忘れたく、無くて…
そっか……ありがとう、シルフ…
ちょっと楽になったよ…
…………アルマ、シューのことは…？
……僕の名前を呼んでた…ずっと…ずっと、呼んでてくれた……なのに…僕は……守れなかった……！！
守りたかった…シューだけは…あの子だけは…！！僕…僕は…！！
…………
アルマ…基地、行くか？日も暮れてきたし、そろそろ…
…………うん……そう、だね……
行こ、アルマ…今度はちゃんと、守りきるから…
……うん
――ラムゴ小国跡・高台
おーい、アルト、着いたぞー？
ここが…ラムゴ…
そこは、正しく壊滅都市という風体の場所だった。時の流れだけではなく、人為的にもたらされた破壊の跡が痛々しく残っている…。
ここ…ノーツモニュメントあるのかしら…？
そのままの形じゃ、残ってねえだろうな…とりあえず残骸だけでも探そう
…うん。
俺たちは壊れた国の跡を歩いた。石造りの建物が多かったのか、がれきに変わったそれのほとんどは岩や石だった…。
時たまガラスのようなものもあり、踏みつけるとわずかな音を立てて粉々になった。なぜかそれに居心地の悪さを覚えたとき、ふと、ほんとうにたまたま、それは目に入った。
…あれ…？これ…
どうしたの、アルト？
いや、なんか…ほら、この台座部分、ノーツモニュメントに似てるなって…
あら、ホントね…
おいおい何二人でコントしてんだよ…ここだろ、目的地は
ほんと！？
言われてみれば…どっからどう見てもノーツモニュメントだ…！でも肝心のお化けがどこにも居ない…？
お化け…どこにも居ないわね…
あら、お化けなんてずいぶんな言い方ね？
！！！？？
うわ！？
わあ！？き、昨日の…！？
いつの間にか、ノーツモニュメントの台座に女の子が腰掛けていた…いつの間に…というか、急に現れたように見えたけど…？
アルト、この子か？
う、うん…
昨日は驚かせてしまってごめんなさい…時間がなかったの。
私の名前はシューネス。
ここ、ラムゴに住んでいたの。
シューネスか…俺はアルト。それから…
あなたたちのことは知ってるわ。アルトさん、ルナさん、ネプテューンさんでしょ？
へ…？どうして…
あー…まあ、あってるっちゃあってるんだがよ…俺のことはネプトって呼んでくれないか？ネプテューンってのは…その…
わかったわ。不快な思いをさせたのならごめんなさい…
いや、いーんだけどよ。
お前の「シュー」って呼称みたいなもんだ。
シュー…？あれ、それってどこかで…
……すごい、もうそこまで…
？シューって確か、シルフが…
ああ、そうだ。彼女がシルフの言ってたシューだな。
そして、このラムゴ小国の王女様♪
は！？
うそ！？
…はい、一応…女王でした。
シューネス・D・ラムゴと申します。改めて、よろしくお願いします。
正直こんな短期間で二人もお姫様に会うとは思ってなかった…俺は開いた口がふさがらず、しばらくその場に立ち尽くしていたーー。
――ラムゴ小国跡・秘密基地
よっと…アルマ、足下気をつけろよ
…うん
…全然変わってねえな…
誰にも見つからなかったんだね…ある意味奇跡かも…
でも、今じゃ考えらんないよな。こんなとこで生活してたなんて…
当時は雨風がしのげればって感じだったからね…懐かしいな…
お、水源も涸れてないな…一晩は何とかなりそうだ。
……
ねえ、シルフ？
ん？
そろそろ教えてくれない？
僕が生きてる理由。
………
…わかった。でも、ちょっと待ってくれないか？
え…？
今日だけ。明日、話すから…
……うん…わかった。
ん、ありがとうな…
今日はここで寝るんだよね？
木の葉とか集めてこようか。
そうだな！
行こうぜ、アルマ！！
ーー嫌われるかもしれない。
ーーただ、それだけが怖くて、言えなかった。
ーーでも、次の日の朝…俺はそれを死ぬほど後悔することになる…。
ーーそう。
本当に、死ぬほどーー。
