ーートワイライト・ホテル
ーートワイライト・ホテル
よく眠った次の日はとても気分がいい。俺は出国の準備をして、ルナとネプトと共に、ロビーでアルマとシルフを待っていた。
しかし、どんなに待っても彼らが来る様子はない…どうかしたのかな…?



遅いわね…アルマに何かあったのかしら…やっぱり病院連れてった方が良かったんじゃ…





昨日、なんか具合悪そうだったしな…俺、ちょっと見てくる。2人はそこで待ってて!





…….ん、分かった





いってらっしゃーい


一度部屋がある階まで戻り、二人の部屋を尋ねる…あれ…鍵空いてる……?



アルマ、シルフ…?大丈夫か…?


ゆっくりドアを開け、中に呼びかけるも反応はない…ますます心配になった俺は、そのまま部屋の中に入った……でも…



…….え…?


部屋には既に何もなく、もぬけの殻だったーー。
ーーロビン義賊団アジト・書斎



どういうこと…?ふたりが消えちゃったっていうの…!?





…………





うん…係の人に聞いたら、昨晩チェックアウトしたって…





あたしたちに黙って…?どうして…


場所を移し、俺たちは義賊団のアジトにいた。昨日はすぐに国を出ると言ったが、よくよく考えると、俺たちは希望神殿に関しての知識が全くなかった。そのため、文献が豊富な此処で、希望神殿への道についての情報を集めることになっていたのだが…



おひいさん…もしかして、まだ話してないのかい?





え…?話すって…?





………ああ…そういう取引だったからな





ネプト…もしかして、何か知ってるのか?





………ああ、悪い。





アイツ……シルフな。モーヌスーンで、アルマとシープラを探しに行った時、ちょっとした取引をしてなーー


ーー数日前・モーヌスーン



…で、お前の目的は何なんだ?お前は…何者だ?





アルマを守ること…そして、あの子を生き返らせること。それだけだ。





………それはどういう意味で?





騎士として….って、言いたいところだけど…俺にはもうその資格がない…だから、今度は番人として…





番人?





勉強熱心なお姫様でも知らないことがあるんだな。





番人ってのは、スコアゲームにおいての『奏者』を守るための者らしい…俺は、『神』からその役目を任された…役目を全うし、奏者を守り切れれば、願いを一つ叶えてもらえる…。俺は、それで…





…神……そんなものが、本当に…?





いるんだと…俺…多分、お前は察してるんだろうが…悪魔なんだよ





………大罪を犯した魔族のことを言うんだっけか…お前が?





ああ。割と有名な方だと思うが…ソドモの悪魔…知ってるだろ?





へえ…まさか、生きてるうちにソドモの悪魔に会えるなんてな





白々しいな





そう言うなよ





あいつは、それでキュートスに収容されていた俺をいとも簡単に逃がした…そんな事されれば、信じるしかないだろ





へえ…そんなこと出来るやつがこの世界にいるとはな





あんなこと、二度と起こしたくねえんだ…だから、今度は失敗できねえ…二度もアルマを死なせたりはさせない…誰にも殺させない……





………で、その邪魔をするな、と





ああ。その代わり、俺はお前の正体を黙っててやる





ハイリスクローリターンじゃねえか?





邪魔をしたら命の保証はしない





おっと、それは怖い





約束、守ってくれよな…俺、嘘つきは嫌いなんだ





ふうん…でもそれ、お前も相当な嘘つきになるんじゃねえか?





ああ。その通りだ…だから俺は…





自分が大嫌いだ…守りたい人の一人も助けられない、自分が…


ーー時戻って・義賊団アジト



つまり…シルフは奏者を守るためのもの…スコアゲームの阻止が目的だったってこと?





そういうことになるな


書物を読みながらことの発端を話し終えたネプトは、目的の情報がなかったのか、そばに置いてあったほかの書物を開き、その文字を追い始めた。



……それで、アルマが今いないってことは…





今回の奏者はアルマだってことだね…





でもどうして攫う必要が…?奏者を守るって言ったって、奏者はこのスコアを演奏するだけの存在だろ…?そんなに大掛かりなこと…





おいおい甘いぜアルト?


突如、室内に聞き慣れない声が響いた。驚いて首を巡らすと、転移魔法のオーラが出現し、二人の人物が現れた……!



よっ、久しぶり、アルト…それから…ルナ





テナ、アミス…!





お久しぶりしたくなかったわね…


正直もう希望神殿に行くまで会わないんじゃないかと思ってた…てか、甘いって…?



へえ…アルト、そいつがもう一人のスコアホルダーか?





女の子なんだ…ちょっと意外だね





お初にお目にかかります、義賊団団長殿、そしてその部下殿…あなた達の言う通り、この少女こそ、もう1人のスコアホルダー…アルトの敵にして、スコアゲームを制する者…テナ・ホシカワ…そして俺は、そのパートナー、アミス・ブライン…どうぞ、お見知りおきを





随分な余裕だな





もちろん、この俺がパートナーで、なおかつ彼女は…利用することに抵抗を覚えませんのでね?


利用…?抵抗…?



なあ、その喋り方…なんかむず痒いからやめてくれねえか?まるで…





全部見透かされてるみたいで、不快だ





おっと、それは失礼…んじゃ、遠慮せずに行かせてもらうぜ?





アミス…あの、さっきの、甘いって…?利用って?…抵抗って、なんだよ…?





………


アミスはたっぷり10秒は間を置き、口元に笑みを浮かべて話し始めた。



アルト…一つ聞きたいんだけどさ。なんの犠牲もなく成立する願いなんて…この世にあると思うかい?





えっ……





答えはな…そんなもんねえよ。この世にも、あの世にさえ…存在しねえ





何が言いたいの…?それでアルトを困惑させるのが目的?





ルナ…お前の頭はいつになっても残念だな





なっ…!!





なんの犠牲もなく叶う願いなんてない…それはスコアゲームも同じこと…ここまで言ってもまだ分からないか?


スコアゲームも同じ…?………まさか…



……奏者は…アルマは、このままだと、犠牲になる運命にあるって、こと…?





せいかーい!お見事!!





でもさぁ、アルト。もっとはっきり言っていいんだぜ?





奏者を殺さなきゃ、願いは叶わないってさ?


嘘だ…そんなの、聞いてない…!!



そんな…じゃあ、シルフがアルマと消えちゃったのは…





逃げたんだろうな。希望神殿に





……相変わらず、趣味悪いゲームやってんだな…ここを作った『神様』は…





………まあな





んで、テナはそれを躊躇うような事はしない…でも、アルトはどうだ?今まで一緒に仲良ししてたやつを…殺せるか?





………俺は……


………無理だ……そんなこと…できるわけ、ない……。



出来ないよな?出来るわけないよな?お前にはそんな度胸も腕もない!!……そういう訳でさ…


アミスは俺に手を差し出した…これは…?



ゲームを辞退して、スコアをこちらに渡してくれないか?





えっ……?


スコアを…?



アルト…!





奏者を殺せない者に、願いは叶えられない…それなら、もうこっちに願いを叶える権利を明け渡してくれよ…その方が、お前もテナも傷つかない…平和的だろ?





…………


確かに、そうだ…でも、ここでスコアを渡したら、圭は…?



…やめとけ、アルト。





え…?





おやおや、変な横槍が入ったね





お前はいままで、何のためにここを旅してきた?願いのためだろ?
そいつにスコアを渡すってことは、それがすべて無駄になるってことだ。





……でも、俺には…





…アルト、なんか引っかからないか?





え…?





奏者を殺さなきゃ願いを叶えられないなら…番人はどうやって願いを叶えてもらうんだ?





あっ…確かに…





…余計なことを





あのな…





俺、そうやって人の足下ばっか見て、自分の利益にしようとするヤツ、大嫌いなんだよな…





ふうん…そうだね。





俺も、無駄に察しがよくて、計画を頓挫させようとするヤツは大っ嫌いなんだ…お前とはわかり合えそうにないな?





そうか。それはよかった…なら話は早い。





今すぐここから出て行け…そして、二度と俺の前に姿を現すな…!


ネプトが言うと、アミスはやれやれと首を振り、テナを振り返った。



だってよ、テナ。どうする?





…奏者がここにいないとわかった以上、ここに用はないわ。
さっさと希望神殿への道を探しましょう。





さすがテナ。聡明な選択だ…





それじゃ、俺たちはここで失礼するよ。…アルト、ルナ。





次は希望神殿で、殺し合おうじゃないか。





っ!?





ころッ…!?





…ヒカミ…私は、負けない…必ず…!


そう言い残し、テナとアミスは消えた…俺は緊張感から解放され、大きく息をついた…



大丈夫かい、アルトくん





……なんとか…





……アルト


ネプトが書物を伏せ、俺の頭をぽんぽんとたたいてきた…



諦めんな。道は必ずある…必ず…。





…う…


どうしたら良いのかわからない…誰かを殺さなきゃ、圭は助からない…でも、そんなことできないし、ましてや別の道なんて…そんなもの、なかったら…!



俺…どうしたら良いんだ…


自然にあふれ出した涙を、俺は止めることができなかった…どうしたら良いのか、その漠然とした不安に、押しつぶされそうだったーー。
ーー???



ん~~!!
良い景色だな…ほら、見ろよアルマ!こっからだと、全部見えるみたいだぜ!





……ここが…ラムゴ…?





ああ。もう、ほとんど面影ないかもしんないけどな…





……ここ、覚えてる…きがする…





あそこに、花売りの女の子がいた…その先に、マルシェがあって…青果店のおばさんが、よく、りんご飴をくれた…





そうそう!!
あれおいしかったよな…たまに花売りの子にやって、花と交換してもらったり…





…うん。そうだった…僕、その飴が好きで…懐かしい…





ことが全部すんだらさ、作ってみないか?
あんなに上手くできないかもしんないけど…





………うん





……アルマ…シューのことは…?





……ごめん…その子のことは、まだ何も…





そっか…





…ごめん…





いや、謝ることなんかないって!!





ゆっくり思い出せば良いんだ…あと一日はいるし…





…一日しかいない…





その後は希望神殿に行って終わりだ。
シューとはそこで会えるし…だから大丈夫!





………





さーてと、次はどこ行くかなー





……シルフ…





ん?どうした?





…僕は、どこで死んだの?





……いや…そこは…いいんだぞ、行かなくても…





……いきたいんだ。多分、そこにけば、その…シューのことも、ちょっとは…





アルマ……良いのか、本当に?





……うん





……わかった。





気分が悪くなったら、すぐに言えよ。
すぐ、移動すっから。





………うん…ありがとう…。





………アルマ…シルフ…





誰か…あの子たちを…


たすけて
