大和平定

オオクメとミチノオミの２人が御殿に向かって歩いていると、途中までエウカシが迎えに来ていた。


一応、イワレビコの側近をしているミチノオミの方がオオクメの上司になるのだが、コミュ障で全く喋らないので、代わりにオオクメが話しかける。

オオクメはエウカシをリラックスさせようと、愛想良く話しかけたつもりだったが、彼の目尻には刺青が入っており眼光も鋭いので、よく警察署の前で張り出されてる凶悪犯の顔にしか見えない。


エウカシは恐怖で一瞬固まったが、平常心を取り戻すと慌てて新築の御殿まで道案内をした。

エウカシは機嫌良く案内をしたが、それには理由があった。彼が仕掛けた罠は、一回一回しか動かない構造になっていたので、バラバラに来てくれた方が確実に敵を仕留められるのだ。


その罠がバレているとはつゆ知らず、エウカシは２人に中に入るよう勧める。


御殿の目の前まで来ると、オオクメは本題に入った。

上機嫌だったエウカシの笑顔が一瞬で消える。


オオクメは笑顔のままだったが、イッちゃってる殺人鬼にしか見えない。

エウカシは頑なに動かない。

すると、ずっと黙って横からやりとりを聞いていたミチノオミが、無言で剣を抜いた。

エウカシが逃げようとすると、オオクメの槍がそれを防ぐ。


エウカシは、徐々に、後ろへ後ろへと下がり、ついに御殿の入り口まであと一歩のところまで追い詰められてしまった。

オオクメが槍の先でペチペチとエウカシの頬を叩く。

エウカシの顔が恐怖で引きつる。

オオクメは冷たく笑むとエウカシを軽く槍でついた。

結局、エウカシは自分で作った罠で死んでしまった。

ミチノオミがその死体を無言で引き摺り出すと、バラバラに切り刻む。


野原がエウカシの血で一面真っ赤に染まってしまったので、そこは宇陀の血原と呼ばれるようになった。

ミチノオミは無表情のまま軽く会釈した。

２人が帰ると、他の久米兵が喜んで迎えてくれた。


しかし、タダ酒を逃した久米兵には何処か元気が無い。そんな彼らを見たオトウカシが宴を開いて、たくさんのご馳走を用意してくれた。


イワレビコは、オトウカシに礼を言い、あの戦いからずーっと休まずに付いて来てくれた兵士達をねぎらった。

すると酔って上機嫌になった久米兵が、こんな歌を詠い出す。

・・・と、まぁ、女子目線からするとクソみたいな歌だが、その日はムサい男同士で大いに盛り上がった。

こうして宇陀を平定した一行は、次に忍坂(奈良県桜井市)の大室に向かった。


そこには穴ぐらでサバイバル生活を送っている『土雲』という尻尾の生えた戦闘集団がいるらしい。そこでまた八咫烏に様子を探ってきてもらった。

作戦当日。忍坂の大室の周りには美味しそうな匂いが漂っていた。


いつもは武装している久米兵だが、今日はみんなコック姿で、腕まで袖まくりをしており、妙に爽やかだ。


･ ･ ･ とは言っても、さすが兵士。キャベツの千切りがめっちゃうまい。


予想以上に料理好きの男子が多かったので、オリーブオイルが足りなくなるという、ハプニングに見舞われたが、よくよく聞いてみると、サラダ油で全く 問題無い内容だったのでそれで代用し、なんとか、土雲全員分の料理を作り終えることができた。


顔に似合わず、盛り付けもやたらオシャレだ。

この光景を見たイワレビコはふとあることを思い出す。

余談だが、国の平定後、久米兵の子孫の久米氏は、兵だけではなく、多くの料理人も排出し、代々朝廷に仕えることになる。


さて。


普段サバイバル生活をしている土雲は、こんなに美味しそうな料理を見るのは初めてだった。警戒しながらも、穴の中から次々に土雲が出てくる。


イワレビコは、土雲と同じ人数の配膳係を用意して、一人づつ配るように指示をした。


すると最後に、親玉らしい人物が出てきた。八十建（ヤソタケル）だ。

イワレビコは八十建に友好的な笑顔を向ける。

怒った八十建が、イワレビコの胸ぐらを掴みかかる。


さっきまで、優しげな笑みを作っていたイワレビコの顔からは表情が消えていた。そして、斜め後ろのコックに視線を送る。

八十建の首が勢い良く飛んだ。


斬ったのはミチノオミだ。今日は彼もコック姿をしている。

一瞬の出来事だったので土雲は現状を理解できずにその場で固まっていた。


久米兵はこれを合図に、服の下に忍ばせていた刀を取り出し、一斉に彼らを切り殺す。


そして、あっという間に土雲を制圧してしまったのだった。

この忍坂を越えればついにナガスネビコのいる生駒山だ。


やっとここまで来たかと、一行は気が引き締まった。

久米兵は深く頷き、イワレビコの後に従った。