リユーマイトを旅立ったハルとメナ。この日の為に何日分かの食料を買い込んでいたので、無一文だが出発する事が出来た。
リユーマイトを旅立ったハルとメナ。この日の為に何日分かの食料を買い込んでいたので、無一文だが出発する事が出来た。



この先にある国境を越えれば、
レイマール王国領に入るね。





ほへー、そんなに歩いたっすか。
どうりで腹が減ったと思ったっす。





確かにお腹減ってきたわね。
でもレイマール領にある
ベインスニクまであと三日は
歩かないといけないから
食料は大切に食べないと
いけないもんね。





そうっすね。
それじゃあメナ、
昼に残したライ麦パン食べるっす。





へ、えぇ~、食べちゃダメよ。
ちゃんと配分考えなきゃ
絶対足りなくなっちゃうわ。





人生行き当たりばったり。
困った時に考えるっすよぉ。
大体でいけるはずっす。





その考えで餓死しかけてたのは、
どこの誰だったっけ?





自分は歴史問題は苦手っす。





ハル~、リユーマイトに
辿り着く前の事、もう忘れたの?





おおー、自分の事だったっす。
ハル=ビエントもついに
歴史に名を刻んだっすね。





そもそも歴史の話してないわよ。


そう言ってメナは笑顔で、ハルの申し出を拒否した。事実、メナが食料の管理をするほうが適時適所に違いない。
真夜中にリユーマイトを飛び出し、丸一日経っていないが、まだ海岸線が二人の視線に広がっている。進行方向遠方に岩場があり、そこから海を背に道が伸びているが、その先に国境があるらしい。



ベインスニクから先は内陸だから、
もうすぐこの海ともお別れだわ。





夕日が凄く綺麗っすね。





うん、とっても。


歩きながら故郷を思い出す海を眺めるメナ。明るく振舞っているが色々と思う所があるに違いない。



ん? 何っすか?
何かいるっすよ。





ほんとだ。何だろ?
どこかで見たような。


道に何か小さい影が見えた。その影はもぞもぞと動いている。その妙な動きが気になり、二人は近づいてみた。



おおおーーー、こいつは!





あーーーー!





なんだっけ?
どこかで見た気が……。





港だよ、リユーマイトの。
昨日の昼、仕事探しに行った時よ。


二人の前には、昨日港で見た丸々太ったカエルがいた。カエルは昨日と同じくふてぶてしく座っている。やはり腹を撫でてやると、気持ち良さげに喉の奥をならした。



くぅ~、可愛いっす。





ほんと可愛いね。





よーしよしよしよしよしよし。





でも何でこんな所に
いるんだろ?


不思議な縁を感じた二人は、カエルを一緒に連れていく事にした。カエルはハルの頭の上が一番落ち着くらしく、丸々とした体を預けていた。
夜も深くなり、山道で野宿をするハルとメナ。疲れた身体は休養を求めていたらしく、ぐっすり眠りについた。
翌朝までぐっすり眠った二人は、昼には国境の関所についていた。関所はほんの小さな建物で、数名の兵士が居る。オーマイト王国とレイマール王国間は同盟国であり、国境は開かれている。通行手形など必要はなく、形式的なチェックが僅かにあるだけだ。



あー、緊張したー。
何にも悪い事してないけど、
あーゆーのは緊張しちゃうわ。





自分も緊張しまくりだったっすよ。





後の心配は、食料もそうだけど、
ガロンの心配ね。
ベインスニクはかなり商業が
盛んだって聞いてるけど、
何にしても先立つ物が必要だわ。





まぁ、なんとかなるっすよ。





私のせいでガロンを叔母さんに
全部渡しちゃったもんね。
ゴメンね。
いつかちゃんと返すから。





自分が好きでやった事っすから、
気にしなくてもいいっすよ。


ハルの言葉はメナの気持ちを軽くさせた。いつも明るく笑うハル。それを受け、メナの気持ちも晴れる思いだった。足取りも軽くなった二人は、ベインスニクに向け歩き続けた。
二日後。
街道は徐々に広くなり、行き交う人々も増えてきた。目に入ってくるのは、煉瓦造りに整備された賑わう街並み。レイマール王国領・自由都市ベインスニクだ。
特産品は、痛い程甘いダイアモンドオレンジと生産量大陸一の茶葉、それにバヘジと呼ばれる材木。この材木は色・木目・硬度・重量・手触り等、家具にすれば超一級品の素材であり、高級品として取引されている優れものだ。
街道には、一定の感覚で街灯と街路樹が並んでいる。南に目を向けると、緩やかに蛇行した街道は小高い丘に伸びており、先には一際高い教会の鐘が見える。その上空で羽を遊ばせている鳥達は、自由都市であるこの街を象徴しているかのように奔放だ。



おおー!
凄い人っす!
街も煉瓦造りで綺麗っす。





すっごい街だわ。
話で聞くのとは大違いね。





テンション上がってきたっす。





確かに上がってきたわねぇ。
でもね、ハル、一つだけいい?


妙に改まったメナに、気分の良さそうなハルが顔を向ける。



ん? 何っすか?





食料がもうないの?





それで?





くどいようなんだけど、
ガロンもないわ。





へぇ~。





……お腹空いたね。





…………えっ!
マジっすかぁ!


リユーマイトで買った食料は底をついていた。そもそも一人分を二人で分けていたのだ。二日前、レイマール領に入る前からは、ついてきたカエルにも分けている。いくらメナが調整しようと、限界があるわけだ。



そう知っただけで
余計に腹減ってきたっすよぉ。
ああ~、市場からあんなに
良い匂いがするっすのに~。





大丈夫、きっと何か
いい働き口があるはずよ。





よぉーし、じゃあ、
何か儲け話見つけるっすぅ♪


