参加者たちの状況を確認しながら、次の体験者たちのリストを眺める。



そろそろ終了の時間かな。
今のところシステムに異常は見られないし、これなら製品化も順調に進みそうだ。


参加者たちの状況を確認しながら、次の体験者たちのリストを眺める。



あれ、おかしいな…
参加人数は毎回固定のはずだろう。


体験者リストの人数と見比べると、ログインの人数が1人多いことに気がついた。



でも、ここにいる体験者たちは最初に数えて確認したし…





何が起きているんだ…?





シュリー!▼
貴方は 彼女の 相手を して!▼
私は 二人を 止めるから!▼





わっ…わかった!!
何とかしてみるっ


シュリーが夏たちの前に立ち、呪文を唱える。



私から離れないでね!!
飛ばされたら助けれないから!!





うおっ、雷が





かっこいい~





薫ちゃん呑気過ぎだよ…





そんな単純攻撃で倒されるほど、弱くないわよ?


カレンがモカに吹き飛ばされ、その隙を狙ってリズがシュリーへと向かっていった。



………





仲間相手にその雷撃を放てるのかしら?





リズ相手に…そんな…!!


シュリーの魔法が次第に弱まっていく。
リズは顔色一つ変えずに、そのままシュリーに殴りかかろうとしていた。



行け!!ギン!!





…誰!?


青年の声が響き渡り、その瞬間、リズが突然何かに吹き飛ばされた。



大丈夫かね。





可愛いワンちゃんが喋った!





助けてくれた…?





良かった。間に合ったみたいだな。


少し離れた茂みから、1人の青年が姿を現す。
ギンは彼女たちを守るように、リズに向き合った。



君たちに協力するよ。とにかく今は、アイツを倒そう。





あの人は確か、エントリーの時にあった人だ





数が増えたところで変わらないわよ。





…だそうだぞ、春都





それは、プレイヤーが戦わないならの話だろう?


春都は片手を前に伸ばすと、ぐっと手を握り締めた。



プレイヤーはパートナーの同意があれば、その力の一部を共有することができる。
まぁ、その分体力を半減させるっていうリスクが伴うから勧めないけど。





それが嫌だからきっと、プレイヤーたちには伝えていないんだろ?


春都がそう言って、カレンとシュリーを見ると、二人共気まずそうに目を逸らした。



まぁ、それよりも大きいリスクが伴うから伝えないのが一番だろうな。
…俺もそれは黙っていないと心配させるからやめよう。





片付けるぞ、春都。
長居すると、もっと厄介な奴らが駆けつけるぞ。





はいはい。


ギンはそのまま、リズを押さえつけにかかり、春都はボスのほうへと向かっていった。
大小さまざまなツタをかわして、少しずつ接近していく。



……。





櫂斗、活躍できてないから悔しいんでしょ





べっ、べつに悔しいとか、そんなんじゃねーしっ





わかりやすい。





プレイヤーさんが あんなに頑張ってたら もっと 私も 頑張らないと ですね▼





………





助けられるとか恥ずかしい…!
リズのせいだからね!





違うと思うんだけどなぁ…


防戦一方だった、カレンたちにもようやく反撃のチャンスが到来し、形成は逆転しつつあった。
モカとリズの正気は戻ってはいないものの、体力が底を突き始め、少しずつ動きは鈍くなり始めていた。



調子に乗らないで頂戴





別に?ただ、アンタにとってギンの属性との相性が悪かったってだけの話さ。
これなら初心者の俺でも十分に戦える。


ツタを炎で燃やしながら、春都はようやくボスの下へと辿り着く。そして、直接トドメをさそうとした時だった。



体が…消え…-----


佳穂の体が光の粒に包まれ、そのまま消えてしまった。
目を覚ますと、背中にやわらかい感触があった。
スタート画面に戻っている目の前のモニターを見て、ゲームの体験時間が終了したのだと理解した。
コンピューターの作動する音だけが聞こえる空間で、私は静かにヘルメットを外した。



まるで別世界にいたみたい。面白かった。


ふぅ…とため息をつくと、担当の男性が私を見て驚いていた。



君、どうやってここに戻ってきたんだい?





え?





ゲームを終了させようとしていたんだが、システムが正常に作動しなくて困っていたんだ。





正常に作動しない…?
私は何もしていないです。突然、ゲーム世界から消えて、気がついたときには戻っていました。


嫌な予感がして、友人たちの席を確認する。



………





………





………


少し離れた席に座っている愁弥も動く気配がなかった。どうやら、私以外の体験者全員がまだゲームの世界から戻ってきていないようだった。



…考えられる要因が一つだけあります。





何ですか?





ゲームの設定が内部から何者かによって書き換えられている、ということです。
君のように、本来なら他のプレイヤーも時間制限で終了するはずだった。
しかし、先ほどから少しずつデータが書き換えられてゲームから出られない状態になっている。





じゃあ、他のみんなは!?





落ち着いて話を聞いてください。
ゲーム参加者の中に、このゲームの書き換えを行っている者がいる可能性があります。今ここにいる誰かかもしれないし、外部からのハッキングかもしれない。
確実なことは、犯人は今もゲーム世界の中にいるということです。





………私がもう一度、行きますか





一般人の君を巻き込むことはできない。





行かせてください。
友達が中で待っているんです。心配しなくても大丈夫ですよ。こうみえて、ゲーム得意ですから。





しかし……





私はゲーム内で犯人を捜します。
担当さんは外で犯人を捜してください。
そのほうが早く見つかるはずです。


私は担当さんの制止を振り切って、再びヘルメットを被った。スタート画面が表示されて、そこには「コンティニュー」と先ほどまで無かった項目が表示されている。



私を誘っているの…?


誰かが悪意を持ってやっていることに違いない。
そして、その犯人は私に挑戦を持ちかけようとしている。
そう思うと許せなくて、私はコンティニューを選んだ。



待つんだ!!君1人じゃ危なっ……


最後に感じたのは、私の肩を揺する担当さんの手のぬくもりだった。
意識が遠のき始め、再び電子の波に呑まれていった。
