乱暴にドアが閉められ、外につけられた鉄製の取っ手が音を鳴らしている。



…悪いが、お前らを泊めることはできない。帰ってくれ!


乱暴にドアが閉められ、外につけられた鉄製の取っ手が音を鳴らしている。



…困ったわね…





…別の家をあたってみよう。たまたま、この家の人の機嫌が悪かっただけかも知れない


ところが、どの家を訪問しても、結果はNOだった。



…この集落で、一体何があったのかしら?





アルモ、あそこに見えるのは、寺院じゃないか?


俺は、まだ足を踏み入れていないこの集落の方角を指さす。



確かに。寺院なら、無碍に訪問を断らないでしょうし、事情を聞きに行ってみますか。


そう言うと、寺院に向かいながら、剣を綺麗な布で包み出すアルモ。



…その布は?





これは、この剣の魔力を外に放出しないために、特別に作られた布なの。寺院に、魔法を使える聖職者がいたら、この剣はやっかいなことになるから…





確かに。そんなことも想定して、アルモは旅をしているんだな





まあ、ね。この布を手に入れたのは、旅立った後だったけどね…





そう言えば、旅の目的はさっき話した通りだけど、旅立ちのきっかけとか、身の上話はまだだったわね…





ああ。今日の寝床を確保できて、話す気があるなら話してくれ。話す時間は、たっぷりあるんだから





そうね


そうこうしているうちに、俺たち2人は寺院の門前に到着していた。



…アコード!何か様子が可笑しくない?


到着早々、アルモは異様な雰囲気を感じ取り、俺に問いかけてきた。
鉄製の門は、上部の蝶番が外れ、今にもとれかかりそうになっている。
中庭を経て数歩先にある寺院の建物に目をやると、木製の入口の半分がボロボロに破壊されている。
中庭に咲いていたであろう花は無残に踏みつぶされ、見る影もなかった。



…何者かに襲撃を受けたんだわ…寺院から、血の匂いがする…





慎重に、中に入ってみよう


俺はアルモから譲り受けた、魔力を帯びたショートソードを身構え、アルモはさっと魔力遮断の布を剣から取り去ると、鞘から剣を抜き、目の前に身構えた。



…まだ、寺院に教団の聖職者がいないと決まった訳じゃないぞ。アルモ、大丈夫なのか?





そんなこと、言ってられないでしょ!?それに、ワイギヤ教団は、環境整備を怠らないことで有名なの。門や中庭のあの惨状を見れば、この寺院に教団関係者がいない可能性の方が高いわ





…慎重に進むしかないな





ええ


俺とアルモは、各々の武器を身構えたまま、とれかかった門には触れず、中庭へと侵入した。



…血の匂いが濃くなった。やっぱり、あの寺院の中は…


アルモの言葉に、想像したくない光景が俺の頭を過ぎる。



あの中に、この犯人がまだ居るかも知れない…





ええ。入口まで来たら、両サイドに分かれて中の様子を伺って、様子が分からなければ1、2、3の合図で突入しましょう!





了解!


寺院の入口まで到着した俺たちは、アルモの作戦通り入口の両サイドに分かれ、中の様子を伺う。



…暗くてよく分からないわね…





仕方ない。アルモの合図で突入しよう





分かったわ。1……2………3!!


俺たちは閉じかかっているドアを蹴り開き、寺院内に突入した。
薄暗かった寺院内部を、オレンジ色の西日が照らし出す。



!!!


俺とアルモは、内部の惨状に絶句した。



…これは、ひどい…





誰が、こんなことを…


寺院内には、参拝者であろう遺体が散在し、中央の台座には、この寺院の主と思しき僧侶の遺体が横たわっていた。
その時…



アコード!気をつけて!!


突然のアルモの忠告に、何とか身体を動かし、周囲を見渡す。
すると、目にも留まらぬ速さで動く一つの影を確認できた。



アルモ!





きっと、犯人よ!


寺院の中央付近まで突入していた俺たちは、互いを背中合わせにしてその場に立つ。



背中は預けたわよ!





ああ!


刹那、見えない敵が魔法らしきものを放った。



スピリットドミネーション…


俺たちの頭上に、紫色の雲のような物体が突然現れたと思った次の瞬間には、それは俺たちを包み込んでいた。



いけない、アコード。早く、この場から…うっ…


その場に蹲るアルモ。



アルモ!どうした!!





…私の…ことは……早く…にげ…て…


そのまま気を失い、アルモはその場に倒れ込む。



ほほう。私の精神支配の魔法に耐えるとは…あんた、何者だい!?


顔を上げ入口の方向を見ると、露出の多い派手な服を身に纏った女性が立っていた。



お前!アルモに、一体何をした!?





何さ、簡単なことさね。精神支配の魔法をかけただけさ。命に別状はないはずさ





それよりも、あんた、魔法に耐性でも持っているのかい!?私の魔法をはじき返すなんて…


俺は、目の前の女性が何のことを言っているのか、さっぱり理解できなかった。



まぁ、いいさ。その手の物が伊達なのか、試してみるだけさね





お前は一体何者だ!





これは失礼。私はレイス。盗賊さ。お前は?





俺は…アコードだ!


そう言うと同時に、俺はショートソードを構え、地面を蹴った…
第3話に続く
