次に僕が山口に行った時、彼女に会ったのはまたあの公園だった。
次に僕が山口に行った時、彼女に会ったのはまたあの公園だった。
その日は、僕は二匹の犬を連れていた。カレンとユキだ。
最近チェリーは年のせいか、あまり長距離の散歩をすることもなく、散歩に行く頻度も減ってきていた。



チェリー、元気になって欲しいな。私、また会いたいよ。レモンもそう言ってる


もちろんチェリーのことは彼女にも話した。



元気だしなよ


話しを聞いた彼女は自分のことのように心配してくれて、いつものように無邪気な笑顔で僕を元気づけてくれた。



ワンワンワン!


ユキとカレンはレモンと一緒に公園を思いっきり走り回っている。
その姿に僕は、カレンが家族に加わってすぐの、同じように駆け回るチェリーとユキとカレンの姿を重ねていた。



……


そこにレモンの姿はなくて。もちろん僕の隣には彼女もいなくて。二、三年前のことなのに、ほんのつい最近のようにその光景が僕の頭の中をかけ巡った。
その瞬間だけ、確かにそこは、僕と三匹だけの、僕らだけの世界だったのだ……
実際どれくらいかは分からないが、しばらくはその光景に意識を奪われていた。



……フム。どうやら彼は我々を挑発しているらしい。レモン、ユキ、カレン。我慢ならないよな。……よし、やっちゃえ!


声と同時に我に返った僕は、腰掛けていた椅子から勢いよく投げ出された。胸と肩と足の辺りに小さな重みを感じた僕は、慌てて目を開く。



痛ててて


そこにいたのはユキとカレンとレモン。三つの小さな体が、僕の全身を歩き回っていた。
その向こうに見えたのは、仁王立ちで腕を組む彼女の姿。その顔にはいつものように無邪気な笑顔が浮かんでいた。
だけど、今はそんなことに気を配っている場合ではない。レモンの前足が僕の耳に触れ、マスクの紐が外れた。



おい。ちょっと、どいてって。ねぇ、笑ってないで君も何とか、して


三匹の足につつかれながらも僕は何とか彼女に助けを求めた。



ふっふ~ん。君って誰だい? 名前を呼ばないと分かんないなぁ~


しかし彼女は、そう言ってとぼけた振りをしてただ笑っているだけだった。



そんなこと言ってる場合じゃ……ゴホッ。ゴホッ、ゲホッ


しまいには、マスクが外れたせいで犬の毛が口の中に入ってきて咳が出始めた。けれどもそのことに彼女は気付いていないようだった。
三匹の体のせいで彼女からは僕の顔がみえず、彼らの鳴き声のおかげで僕の咳はかき消されていたのだろう。



ゴホッ、ゲホゲホッ。ゴホッ、ガハッッ。……真美!


咳がどんどん酷くなり、いよいよ身の危険を感じた僕は、二匹の鳴き声に負けないよう大声でその名前を呼んだ。



レモン、ユキ、カレン、よくやった! 戻っていいよ


それからすぐにそんな声が聞こえて、僕の上にあった三つの重みはどこかへ消えた。
しかしそれは少し遅くて、僕の咳はもう止まらなくなっていた。立ち上がることはせず、百八十度体を回転させ地面に向けて何度も咳をした。



思い知ったかい? 人のことを無視するのはいけないことなんだよ?


そう言いながら僕の頬をつんつんしてくる彼女に言葉を返す余裕などはなかった。
ただただ咳を必死で抑えようとするので精一杯で、赤くなり涙が滲んでたまらなく痒くなった目に、手を伸ばすこともままならなかった。



大丈夫?


少ししてようやく僕の異変に気付いた彼女が、心配そうに顔を覗き込んできたが、僕はただ咳を繰り返すだけだった。
それが彼女を不安にさせたのだろう。彼女は僕を担ごうとして肩に自らの腕を回す。



うんしょ……痛っ


けれども女性である彼女が咳き込む私を持ち上げられるはずもなく、そのまま尻餅をついた。
続いて彼女は僕をおぶろうとして、背中を使って持ち上げようとしたがそれも叶わず、そのまま前のめりに倒れてしまった。



ぶべっ!


運ぶのを諦めた彼女はそっと僕の背後に回り、背中を優しく撫で始めた。



ごめんね、ごめんね


彼女は手を動かしながらそう繰り返し、最後は静かに声を上げて泣いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
こんにちは。ご覧いただきありがとうございます。
明日からいよいよゴールデンウィークです!!!皆さんの予定は決まっているでしょうか?
私は明日4か月ぶりに中学時代の友達と遊ぶことになっています。
そして明後日からは、
大阪に旅行です!!!!
楽しみで仕方ありませんね。
その後にいよいよ熊本に帰る予定となっております。
部屋の片づけや割れた食器の補給など、いろいろすることはありますが、まずは目先の楽しみを全力で満喫するつもりです。
皆さんも、楽しいゴールデンウイークをお過ごしください!
それでは、今回はこの辺りで失礼します。
