始めに赤い点がぽつりと、何もない空間に浮かんだ。
赤い点から飛び出るように、真っ黒な巨体が姿を現す。それは街の門よりも遥かに大きく、街の出口付近はすっぽりと暗闇に覆われる。
その巨体から触手の1つが伸び、撫でるように街の門に触れた。
途端、触れられた箇所が吹き飛び、瓦礫が辺りに降り注いだ。



来たッスね。


始めに赤い点がぽつりと、何もない空間に浮かんだ。
赤い点から飛び出るように、真っ黒な巨体が姿を現す。それは街の門よりも遥かに大きく、街の出口付近はすっぽりと暗闇に覆われる。
その巨体から触手の1つが伸び、撫でるように街の門に触れた。
途端、触れられた箇所が吹き飛び、瓦礫が辺りに降り注いだ。



……また凄いのが来たな。





以前はこんなヤツ居なかったッス。
新しく追加されたボスみたいッスね。





見た感じ、影共の親玉みたいな感じか?
このスケールだと。


巨大な影から、見慣れた小さな影がわらわらと生まれてくる。
あっという間に、辺り一帯は影の怪物で埋め尽くされた。



かもしれないッスね。





ちょっと嬉しいッス。





なんだ突然。





いえ、少し……。
先輩、このゲームのシナリオは、どこまで進めてたッスか?





俺か?
確か、2つ目の街に入ったあたりだが。





じゃあ、まだまだ序~中盤ってところだったんスね。





実はこのゲーム、前回は話が完結する前に終わっちゃったッス。





あぁ……。





ネトゲはシナリオも順次追加だから、途中でサービス終了すりゃシナリオもそこで打ち切りだ。
俺達もそういうゲームは、何度も見てきたな。





そうッスね。
やっぱり未完というのは寂しいッス。





でもアイツを見て、その続きが見られるんだと思ったら、ちょっと嬉しくなったッス。





なるほどな。


巨大な影が咆哮をあげる。
それに呼応するように影達が、街に向かって侵攻を開始した。
周囲のプレイヤーと影達が、一斉に戦闘状態へと移行する。



さて、過去の思い出に浸るのもいいが。
今は目の前の敵をなんとかしないとな。





そうッスね。


2人に追従するように、他のプレイヤーも攻撃を始める。



このイベントの主目的は、街の防衛ッス。
早い話、敵が街に入る前に殲滅すればいいッス。街の損傷度がそのまま、イベントの成功率になるみたいッスね。





地上の雑魚どもは食い止められるが、あれはどうすればいい?


巨大な影から伸びる触手は、辺り一帯を気まぐれに破壊していく。
再び触手が門に触れ、瓦礫の雨を降らせる。



あれは演出じゃないッスか? 流石に。
あんなの僕達じゃどうもならんッス。





とにかく、影を街に入れさえしなければOKッス。





了解。それじゃ続けていくか。





それにしても、前回の襲撃イベントから随分とマシになったな。





前回?
あぁ、そういえばやってたッスね。





あの時は街に入られた後って設定だったからな。
街の機能が麻痺してて参ったよ。





懐かしいッス。
あのイベントはかなり不評だったッスから。
その時の評判を見て、改善してきたんスかね。





案外、前回の経験者が、今回のイベント作ってんのかもな。





ありえるッスね。
わざわざ過去のゲームを買い取って再開させるぐらいッスから。開発のメンバーに、当時のプレイヤーが居てもおかしくないッス。





このゲームの開発、僕も興味あるッスね。
先輩、どうにかなんないんスか?





俺に言うな。
営業にでも相談してくればいいんじゃねーか。





ん?
おい、あそこ。





え?


2人の近くに居たプレイヤーが、影の群れに取り囲まれ、身動きが取れなくなっていた。
4方から攻撃を受け、みるみるうちに体力を削られていく。



まずいッスね。
助けに行くッス。


2人が影の群れに割って入った。
スキルでヘイトを集め、囲まれていたプレイヤーへの攻撃を引き受ける。



あ、ありがとうございます。
助かりました。





あれ、この前の。





あ、コーンスープの。





コーンスープ……。





僕のはトマトだったッスけどね。





トマトでもねぇよ。





すみません。助けて頂いて。





いえいえ。
1人ッスか?





はい。
1人でも問題ないかと思っていたんですが、甘く見ていましたね。あっさり囲まれてしまいました。





あの影と戦う時は、1人じゃ厳しいッスよ。





良ければ一緒に行かないッスか?





え、いいんですか?





勿論。
ちょうど、俺達も人探してたんだよ。





ではお言葉に甘えさせて頂きます。





南です。よろしくお願いします。





おう。よろしく。


南がパーティに加入した直後、一際大きな影が、3人の目の前に迫った。
目のような赤い点が、3人を見下ろす。



……おっと。
さっき使ったスキルのせいで、コイツまで寄って来ちゃったみたいッス。





コイツ移動出来たのか。





手間が省けたな。
コイツさえ片付けてしまえば防衛は成功だろ。





確かに。





僕がこのまま雑魚を引き付けておくんで、攻撃は任せたッス。





おう。頼んだ。


ひよぽんが再度敵を引き付け、カウンターの構えをとる。
アースと南は雑魚から離れ、ボスの前に進んだ。



カウンター状態は長く維持できるものじゃ無いッスから、早めにお願いするッス。





早めにって言われてもな。
まぁ、善処するよ。





ちょっと待て。これは厳しいぞ。
一撃で、体力をほとんど持って行かれちまった。





私は先程のダメージがあるので、今ので瀕死です……。


瀕死の2人に、追撃が向かう。
一先ずカウンター状態で凌ぐが、カウンターでボスを倒し切るにはダメージが圧倒的に足りず、悪あがきにしかならない。



あ、もうダメかもしれんス。





諦めんなよ……。
と言いたいが、もう詰んでるな。
助けに入ってそのまま共倒れって、かなりかっこ悪いぞ。





……次は頑張るッス。


カウンター状態が切れた2人に、触手が振り下ろされる。
2人を触手が直撃するが、既の所で堪えた。攻撃の直前、誰かが回復を入れたらしい。
周りを見ると、雑魚を片付けた他プレイヤーが集まってきている。



お、助けが来たぞ。
悪あがきも無駄じゃ無かったみたいだな。


集まったプレイヤーの猛攻が、ボスを襲う。



一気に形成逆転ッスね。





皆のおかげだな。





このまま畳み掛けるぞ!





皆さんお疲れ様ッス。
ありがとうございましたー。





なんとか無事に終わったな。





ボスの攻撃で瀕死になった時は、どうなることかと思いましたね。
皆さんが来てくれたおかげで、助かりました。





ああやって知らない人と共闘できるのも、イベントならではって感じだな。





敵の侵攻もほぼ防げてたみたいッスよ。
大成功ッスね。





ああ。
メインシナリオ進行のためのメンバーも集まったしな。





あ、そうッスね。
南さん、次暇な日あります?





え?
そうですね……。


