【酒場】
【酒場】



こりゃあまたべっぴんさんだね! あんたなら結構稼げるよ!


売春宿の店長はそういうと女を酒場まで連れていく。女の格好はセクシーできらびやかな衣装に身を包んでいた。化粧をしているが、それはレイズだった。



・・・・・・・・・・


ローマ軍が駐留するということで帝国からこの島で慰安の募集がかけられていた。それを知っていたレイズは、イシスを欺き、帝国軍の集う酒場に来ていたのだった。
レイズは女の武器を最大限に利用し、帝国軍の司令官に近づいて殺そうと慰安婦に成り済ましていたのだった。全てはビアンの仇討ちのためである。



連れてまいりました。





・・・・・・・・・・





この女か、ほう、中々の上玉だな。





ええ、今日入ったばかりの新人で、帝国の方々のお気に召されると思います。


自慢ではないがレイズは容姿には自信があった。慰安婦はランク分けされて、上玉ほど上の地位の人間のところに回される。案の定、レイズはその容姿から上玉にランク分けされローマ帝国の司令官の元に送られた。



いいだろう。こっちへこい。





はい


売春宿の店長から司令官の従者に引き渡されて、司令官の部屋まで向かう。レイズは胸元に隠したナイフを持ちながら緊張していた。
これから人を殺そうとしている。レイズは今まで人を殺したことはない。だから正直かなり怖かった。
だけど無惨に殺されたビアンのことを思いだし、憎しみでなんとか我を保てていた。
そんな内に司令官のいる部屋の前までくる。



陛下、夜伽の女を連れてきました!





入れ


レイズは部屋に入ると、そこにはワイングラスを片手にした白い鎧を着た男がいた。



ほう、辺境の女にしては中々の上玉だな。





この男がビアンを…


レイズは怒りに我を忘れそうになったが、無理矢理その感情を抑え込んだ。



今は駄目、まずは隙を見せるまで我慢しないと


レイズは自分に言い聞かせて笑顔で答える。



イシスです。不束者ですが今夜は宜しくお願いしますわ陛下様♪


自分の名はバレているかも知れないのでイシスの名を勝手に騙った。



よい、ちこうよれ。





失礼します。


レイズは鎧の男の横に座る。男はまじまじとレイズの顔を見た。



なるほど、近くで見れば見るほど美しい女だ。帝都でもそちほどの美しい女はいまい。





まぁ、陛下様ったらお戯れを


談笑する二人、鎧の男は続けざまこう言った。



だが、同性しか好まぬというのは何とも勿体無いな。





えっ・・・?


レイズはその言葉に凍りつく。男の眼はまるで全てを見透かしているようだった。



殺気が駄々漏れているぞ女





くっ!





ふんっ





がっ……はっ……


レイズは胸元に隠していた短刀を引き抜こうとした。しかしレイズが短刀を引き抜く前に首をガシッと掴まれ、男は片手でレイズを持ち上げる。



なんて力なの…


首を絞められている間に短刀を引き抜き男を刺そうと思えば刺せそうに見えるが、男の腕の力は異常で、男の指に手をかけて抵抗しなければ首の骨を折られるだろう。



俺は幼少の頃から常に暗殺されそうになっていてな。だからこういうのには非常に鼻が利くんだ。





がっ…ああ…ああ





だが俺に近づいてくる女の暗殺者はごまんといたが、それに比べるとお前はお粗末すぎるぞ。





がっ……


正直侮っていた。相手の方が数倍上手だった…



あの異端者の片割れか、仇討ちに来たわけか


鎧の男はレイズを投げ飛ばし壁に叩きつける。



ああっ!


鎧の男は不敵な笑みを浮かべながらレイズを見下ろしていた。



おいおいどうした?敵討ちに来たんじゃないのか?





ゲホッ! ゲホッ!





クックック、やはり女の苦悶の顔は見てて飽きんな。皮を剥いでやった女の顔も今のお前のような面をしていたぞ。





!?


レイズは男に睨みながら叫んだ。



な、なんでビアンを殺したの! 答えて!





あの女が愛などとほざいたからだ。





愛のどこがいけないの! 人を愛し合うことがそんなに悪いことなの!


鎧の男は鼻で笑う。



同性同士の分際で愛だと? 見るに耐えんな汚物


男の眼はまるで全てを憎んでいるかのように冷めていた。そして男は告げた。



愛などこの世に存在せぬ。あるのは肉欲のみ。愛などまやかしに過ぎん。まして雌同士、雄同士だぁ? 気色悪い!





私は…ビアンにとっては男だった…





男だと? くっくっく、笑わせるお前は女なのだ。





いいえ違います! 私は男です。身体は女かもしれません。でも心は! 心は男です! それをようやく理解してくれて、心のそこから私をほんとに愛してくれた人がいた。それを貴方が引き裂いた!


鎧の男はレイズの腹を蹴り飛ばす。



ぐふっ…





御涙頂戴全くつまらん、不愉快だ汚物。


鎧の男はレイズの髪の毛を掴んで自分の真理を言わせようと強要した。



さぁ言え。私は女であると!





私は…男だ…


レイズは痛みに耐えて自分の主張を貫いた。それを見て男はいいことを思い浮かべた。



あくまで自分を男だと言い張るか? 面白い。ならそれは虚実だということ、その身をもって教え込んでやろう。


鎧の男は手をパンッと鳴らすと隣の部屋に控えていた兵士がゾロゾロと入ってきた。



兵共よ、俺からの褒美だ。この男と憚る女を犯しつくせ!


レイズの顔が青ざめる。兵士達は歓喜しレイズまで迫る。



や、いや! 来ないで!


そして獣と化した集団はレイズに襲いかかった。
翌日、ルシファーとイシスが見たのは町のゴミ捨て場に捨てられた、全裸でぼろきれのようにされ無惨に死んでいたレイズだった。
レイズの身体には至るところに生傷と、雄の体液が散りばめられていた。何が行われていたのか想像に固くない。イシスは目に涙を浮かべていた。



ひ、酷い…


行為の最中に首を絞められて殺されたのだろう。レイズの首にあとが残っている。
ルシファーはレイズの死体を抱えた。



ベルゼブブ





はい、わかっております。


ルシファーはレイズをベルゼブブの背に乗せるとベルゼブブは落とさないようゆっくりと飛翔し岬の灯台のある方角へ飛んで行った。
ルシファーは無言で何処かへ行こうとした。それをイシスは涙を払ってルシファーに言った。



ついてくるなって言われてもついてくから





好きにしろ。もう言わん。





絶対に許せない





同感だ。


ルシファーとイシスは帝国軍の拠営地に向けて歩き出した。
